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気丈な彼女

  互いに唖然と見つめ合う。

  息を呑み数秒。

  自分と彼女では違う意味の驚きかも知れないが、固まる動作は同じだった。


「うそ……なんで動いてんの……!?」


 先に声を上げたのは彼女だった。

 それは自分に向けての言葉だろうか。驚きを隠せないと言う感じの彼女の声。

 ゆらりゆらりと一歩ずつこちらに近づいてきた。


「言葉……わかる……?」


 彼女からの質問に、自分は息を呑み小さく首を縦に振る。

 彼女はそれに驚きの表情を解くことはしない。


「意思を持ってるのね……。いつ起動したの……?」


 彼女は興奮抑えきれないといった口調で質問を続ける。

 しかしそんなことを聞かれても、声を出せない今は答えようがない。いつ起動した? という質問の意図も自分には理解できなかった。

 『どう言う意味だ?』と口を動かすもやはり声は出ない。


「声が出せないの? ったく!あの爺さん魔導は強くて技術の方はからっきしなんだから……」


 また意味のわからない単語が飛び出してくる。

 彼女の言う通り声が出せないのだから、それを聞いているしかない。

 ただ、あの老人と違い意思疎通できそうな相手だけに少し安堵する。

  

「魂の残滓もないのに……。あの爺さん本当にやり遂げ……」


 しかし安堵したのもつかの間だった。彼女の視線が自分から床に倒れているそれに下がる。


「爺さん寝るならベッドで寝てって何度も……」


 彼女はもう動かなくなってしまったそれに声をかける。


「爺さん?」


 驚いた表情でゆっくりと自分を見つめる。


「これ、死んでるの……?」


 聞かれても困ると言いたいところだった。

 面倒なことになりそうなのは確実ではあったが、小さくうなずいた。

 彼女は屈みこんで老人の首筋に指を当てる。


「あなたがやったわけじゃないよね?」


 誤解されても困る。

 その質問に肯定するように激しく首を縦に振る。


「そりゃそうだよね。調整もできてないみたいだし……」


 なにかを納得したように彼女は立ち上がると瞳を閉じる。


「変な爺さんだったけど、魔導の天才であったのは間違いないし……」


 その口ぶりから彼女がこの老人の関係者であることは理解できた。少し寂しそうに彼女は言葉を続ける。


「私が技師を志したのも、この爺さんの研究に感化されてだし……。集大成として死ぬ前に、あなたみたいな意思のある魔動隷(ゴーレム)が完成したみたいだし……」


 彼女は自分の目の前に立つと、小さくため息をついた。


「動けるように調整してあげるから、色々と手伝ってくれる?」


 悲しい瞳で、彼女は自分に微笑みかけた。その表情にただ頷くことしかでいない。

 少しの話ではあったが、あの老人は彼女の師匠にあたる人物なのかも知れない。近しい人に先立たれるのは誰だって悲しい。


「おそらくなにか不具合が起きてるわけだから。すぐ直すわ」


 彼女は自分に対して手をかざす。

 するとその場所に何かしら光る円形の陣が出現した。その光景に思わず目を見開く。

それはまさに、魔法の言葉が妥当かも知れない。

 空間に浮かぶスクリーンのような光は、まるで一種の画面のようにも思える。

 その画面には読めない文字が高速で羅列されていく。彼女はまるでキーボードを操作するように操作していた。


「記述は古代様式か……。ならここを、こうして……っと」


 黙々と作業を続けている。

 間違いなくあの死んだ老人のことから意識をそらすように。

 見た感じ15、6歳程度の少女だろう。状況を受け止められてない。そんな感じではあった。

 状況をまだ受け止められてないのは自分もだったのだが。


「ん、良し。これで体動くでしょ? 腕動かしてみ?」


 言われた通りに右手を上げてみる。

 その腕は自分の意思の通りに上に上がる。

 数時間ぶりの自分で自分を動かせる感覚に、気が抜けたかのように安堵のため息をつく。何度も確かめるように手をグーパーと動かした。

 やはり自分で動かせると言うのは安心感がある。


「あとは声……っと、やっぱ昔の技術だからバグってるねぇ……っと」


 一通りの作業を終えると、彼女はスクリーンを閉じた。


「さぁ、声を聞かせて?」


 その言葉に緊張する。

 ただ喋ればいいのだが、この体は間違いなく自分のものではない。だからこそ、声を出すことに躊躇する。


「どうしたの? 記述(コード)は完璧なはずだけど?」


 自分のものではない声を出してしまえば、それを認めなくてはいけない気もして。自分が自分でなくなってしまったことを。


「ほら」


 彼女の催促に小さく深呼吸をした。

吐く息に小さく声が漏れる。


「……あっ。……っ!」


 その声に思わず驚きの声を上げてしまった。


「あ、あーあー……」


 小さく確かめるように言葉を出す。

 ありきたりな表現だが、鈴のなるような声。初めてこんな可愛らしい声を聞いた気がした。

 

(褐色ロリでこの声は反則だろ……!) 

 

 思わず顔を真っ赤にする。


「あ、あ……。これ……俺のこえ……」

「何そんなに驚いてるのよ……?」


 不審がるような彼女の声にハッと我に戻る。顔を左右にフルフルと振って、自分は苦笑を浮かべる。


「ま、ともかく動作は問題なさそうね。色々聞きたい事はあるけど……」


彼女は倒れている老人に向き直る。


「まずは弔って上げたいの、手伝ってくれる?」

「あっ、あぁ……」


 作業台から降りる。

 自分の予想以上に台の高さがあったのか、立つ時にふらついてしまった。

 転ばないように『おっとっと……』と手をブンブンと振って態勢を立て直す。

 彼女は自分の仕草に微笑みを向ける。きっと可愛らしい幼女の姿が彼女に映ったのだろう。やはりロリは見るものだ。自分も側からその姿を見たかった。

 そして、立ってみるとさらに実感する。自分の身長が相当に小さくなっている事を。

 目の前に立っている彼女よりもずいぶんと低くなっている。

 

「それじゃ、まずは……」 


 自分の気持ちを入れ替えるように、彼女はパンと手を叩いた。身近な人を失ったにもかかわらず、気丈に振る舞ってるように見える。

 自分が思った以上に彼女は強いようだ。

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