作戦会議
その場所は簡易的な宿屋だった。
いくつかの個室が用意されており、今は怪我人を収容する場所になっている。
無理を言って部屋を用意してもらったらしい。
シャッスは別室でイーフェの治癒術を受けている。
自分とライラは今後どうするかを話し合っていた。
「無事な住人だけで村を脱出する計画をしてるらしいわ」
「嘘だろ? 村を捨てるってことか?」
ライラの仕入れてきた話に、思わず自分は聞き返した。
確かにこの村には度々、害獣が押しかけてきている。
しかし、それは流石にやりすぎなのではないだろうか?
「村長はそのつもりだったわよ。女子供に護衛をつけて、明日早朝にこの森を抜けるそうよ」
「動けないけが人はどうなるんだ?」
ライラは黙り込む。つまりはそう言うことらしい。
「どうにかならないのか?」
「私だって色々考えたわよ! でも情報が少なすぎるの……」
ライラは大きな声で返す。切羽詰まってるのは彼女もだったのだろう。
彼女は性格的には優しい子だ。
おそらく、自分たちより早くどうにかしてあげたいと思ったに違いない。
しかし、持ってる情報は少なすぎる。
害獣駆除の手慣れすら手に負えなかったのだ。
「……ミツキ?」
「なんだ?」
「狼って、なんで人を襲うと思う?」
突然の質問だが、ライラが関係ない質問をするとは思えない。
少し思考したのち、自分は口を開いた。
「そりゃ森に食料がないからだろ? そうでもないと、人なんて襲わないだろ」
「そうよね……。そのはずなのよね……」
その答えに考え込むライラ。
きっと何かわかったことがあるのだろう。
「襲われた人の死体見たんだけど」
「……意外と勇気あんだな」
「誰も好んで調べたわけじゃないわよ」
「で、何か見つかったんだろ?」
「食べられてなかったのよ。致命傷の傷だけ。空腹の狼なら、獲物は持ち帰るか食べるかするでしょ?」
確かに不可解だった。
狼は野生動物でも頭がいい動物だ。
必要もないのに、リスクを負って戦うようなことはしないだろう。
「魔獣ってことは?」
「魔獣だって、こっちが襲うか餌がないか……。そうじゃないと襲わないわ」
「つまり食べられてないってことは……」
「仮説だけど、別の存在が居るはずよ」
そこまで考えているとは正直驚いた。
この数十分の間に、襲っていた正体に随分と迫った気がする。
しかしそれでも、対策につながるものではなかった。
「対策としては、獣や魔除けの結界を張る方法があるわね」
「なるほど。そう言うことか……」
ライラが言いたいことはこうだ。
獣や魔獣の結界を張って、入ってこないならそれでいい。
しかし入ってきた場合は、それ以外の存在だと言うことになる。
「何が襲ってきたか。種族の炙り出しに使えるってことだな?」
「相変わらず理解が早いわね。説明が省けるからいいんだけど……」
その時だった。扉の開く音が聞こえる。
入ってきたのは疲労困憊な顔をしたイーフェだった。
治癒魔法の使いすぎと言う感じだ。
マナは生命のエネルギーな訳で……。そりゃ疲れるのも当たり前だ。
「話はきこえたのですよ……。結界なのですね……」
どうやら聞こえていたらしい。
もうクタクタ。と言った声色であるが、イーフェは協力する気でいるらしい。
「大丈夫なわけ? 結界は相当マナを使うはずよ?」
「元々、この村に結界を張るつもりだったのですよ。魔導師をナメるななのです」
無理やり笑顔を作ってるようにしか見えなかった。
「イーフェ……お前……いいのか?」
「他にいないのですよ。でも、襲ってきた場合は護衛してくれないと困るのです」
「今すぐ結界は……、無理よね……」
コクリと申し訳なさそうにイーフェが首を縦に振った。
疲労の顔を見れば、無理ということがわかる。
「夜になればなんとか……頑張るのです」
「あぁ、もう、乗りかかった船だ。護衛は俺がやる」
「ミツキだって戦いに慣れてるわけじゃないでしょ?」
その通りだ。
正直言って成功するか分からないし、確率も低い作戦。
前衛はシャッス以外は素人も同然だ。
「でも、やるしかないだろ。どっちにしろこの村が夜襲われるのは確定だ」
「俺たちだって無事とは限らない。指をくわえて見てる訳にはいかないからな」
突然の男性の声。
開いたままのドアからシャッスの姿が見えた。
服も着替え、包帯はしているもの、前のような辛い表情ではなかった。
治癒術とはここまですごいものなのか。と感心してしまう。
「戦うのは俺らだ。村のやつも集める。そこは俺に任せろ」
「シャッス。もういいのか?」
「あぁ。とにかく詳しく説明してくれ」
シャッスを交えて作戦会議が始める。
襲われたら、自分たちも無事でいられるとは限らない。
誰かが殺されるかもしれない状況だ。
広場で見た並べられた死体の光景がフラッシュバックする。
絶対にあんなことにはなりたくない。
これは村を救うための戦いじゃない。
自衛のための戦い。それが村を救うことにつながる。
自分はそう思っていた。
しかしライラは違うらしい。
真剣に説明する姿は、明らかに村を守ろうとしている。
優しい。お人好しなのは分かっている。
その姿に自分のちっぽけではあるが、正義感が揺さぶられる。
「ミツキ? 聞いてるの?」
「あぁ、大丈夫だ」
やってやろうじゃないか。
自分は、今は一応ライラの魔動隷なのだ。
それにこれから世話になる事にもなる。
もしかしたら、今回の行いが自分が帰る事に繋がるかもしれない。
心の中でつぶやき、自分を奮い立たせた。
時間は刻一刻と過ぎて行く。
「というわけで、やるわよ!」
「あぁ!」「わかったのです!」「よしっ!」
ライラの声に、三者三様の声で答えた。
成り行きで始まってしまった作戦。
長い夜になりそうだった。
話が動き始めた感があって、書いてて楽しいです。
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