森での遭遇
朝の日差しに目が眩む。
自分は小さなあくびをしながら、他の二人と森に向かう道を歩いている。
後方にはまだ眠そうに目をこするイーフェ。
呆れながら彼女の手を引っ張るライラの姿。
自分たちはこれから、隣村へこの魔導師の少女を届けにいく。
例のギルド。カッチャトーレに届ければ終わりな話だ。
ライラの意見で、早く村を出たのは正解だったかもしれない。
イーフェは思ったより体力がないらしく、足取りも遅い。
かくいう自分も、歩幅が彼女たちより狭い。早く村を出たのは、時間が取られると判断してのことだったのだろう。
「ねむいのです……」
眠いというか、半分寝ているような状態で、イーフェはライラに手を引かれてトボトボと歩く。
昨日のことを考えると、自分も少し申し訳ない気持ちになる。
かくいう自分もあの後眠れなかった。その為疲れていると思う。
魔動隷にも、特に魂を持った古代魔動隷には休息が不可欠らしい。
肉体はマナさえ補給すれば回復する。しかし精神はそうはいかない。
精神を休めるのに一番手っ取り早い方法は、睡眠を取ることらしい。
つまり、肉体的には疲れていない。しかし、精神的には少し疲れている気がする。と言うことだ。
実際問題、今日のことを考えて眠れなかったのだから、精神的には疲労を被ってると言うことなのだろう。
それが行動にも出てしまったのか、自分は大きく欠伸をした。
「ミツキ? 眠れなかったわけ?」
貴女もかと、少し呆れたようにライラはつぶやいた。
「仕方がないだろう? 前衛とか戦闘とか……。やったことないし」
「何緊張してるのよ。もしもの時を考えてなのよ?」
確かにそうかもしれないが、可能性が捨てきれない時点で、緊張を解く理由はなかった。
「人に自ら寄ってくる獣なんてそういないわ」
「そうなのですよぉ……。ミツキは考えすぎなのです……」
眠そうにしているが、イーフェも話を聞いていたのか入り込んでくる。
「でも、例の害獣被害の話もあるだろ?」
「狼の被害はよくある話なのよ。でも、古代魔動隷なら問題なく対処できるわ。魔導師もいることだし」
「なのです。前衛も後衛もいるパーティとしては恵まれてるのですよ」
「普通はそうじゃないのか?」
「前衛はまだしも、後衛の魔導師なんて、高額で依頼しない限りついてこないわ」
RPG的には魔法使いがパーティに加わるのは普通と思っていたが、どうやらそう言うわけでもないらしい。
「注意さえ引きつけてくれれば、私が魔法で吹き飛ばして終わりなのです」
やっと目も覚めたのか、イーフェは自信満々に胸を叩いている。
「まぁ、気楽にいきましょ。もうすぐ森なんだし」
話に気を取られて気づかなかったが、目の前には鬱蒼とした森が迫っていた。
今歩いている道は、森の中へと吸い込まれている。
何事もないことを願って、自分たちは森の中へと歩みを進めた。
◼︎
森は意外にも整備されており、あの老人の家に近い森よりも歩きやすかった。
人の行き来が多いのだろう。
村の間にも交流がある的なことも言っていた。
「これだけ整備されてれば、イーフェ一人でもよかったんじゃないか?」
特に何も出てくる気配もない。ハイキングルートといっても問題ないぐらいに整備されている。
木漏れ日で意外と明るく、直射日光が当たるわけでもないので温度も安定している。心地よい風も感じる。
「でも……、一人は寂しいのですよ……」
その口ぶりからすると、一人でも大丈夫だったと聞こえる。
「話し相手が欲しかった……みたいな?」
「いけないのですか……?」
まるで小動物のような眼差しで見つめられれば、言葉をなくしてしまう。
「まぁ、理由はなんだっていいじゃない。それでお金がもらえるわけだし……。ふふふ……」
ライラはもはや、報酬のことしか見えていないようだった。
「俺はなんの旨味もないけどな……」
「ミツキも何か報酬が欲しいのですか?」
「いや、俺は……」
帰して欲しい。と言うのは無理な願いとして、自分の存在はライラに握られているわけだから、協力をせざるを得なかったわけだ。
マナの摂取に必要な食料も、ライラが用意しているわけで。
報酬が欲しいか。と聞かれれば、特に欲しいものもなく、言葉を詰まらせてしまう。
「できることなら、上に交渉するのですよ?」
「あっ、そういえば……」
ライラの言ってた一言を思い出す。
「王立書庫ってあるんだよな?」
「はい、それがどうしたのです?」
「もし良ければ、見せてくれないか」
これから戻る方法を見つけるにしても、自分でも行動しなければ始まらない。
ライラに任せっぱなしと言うのも、引け目を感じてしまう。
それならば、まずは知識を得るのが最善の策だろう。
この世界のこと。魔動隷のこと。全てをライラに聞くわけにもいかない。
「そんなので良いのですか? それなら掛け合ってみるのです」
「あぁ、よろしく頼むよ」
「ミツキは無欲ね。私だったら、相当な額を……」
それは流石にがっつき過ぎなんじゃないだろうか……。
ライラはそんなこと関係なしに、邪悪に微笑んだ。
「しかしまぁ、しばらく歩いたよな。この森ってまだ続くのか?」
「この地域でも広い森だから……。今半分といったところね」
「まだ半分かよ……」
周りを見れば木ばかり。
進んだのかそうじゃないのか。それすらの感覚も曖昧になる。
「そろそろ休憩しましょうか。この調子なら夕方には着くわ」
ライラは木の近くに背嚢を下ろして、その近くで腰を下ろした。
続くように自分たちも腰を下ろす。
「もうシャッスたちが害獣駆除してたりしてな……」
ただ害獣を狩るだけだ。その可能性もある。
冗談っぽくは言ったが、願わくばそうあって欲しい。
そうすれば、襲われる可能性が一つ減るのだから。
「カッチャトーレは慎重に情報を集めて、効率良く狩りを行うギルドなのです。だからこそ、依頼数も多いのですよ」
「今はきっと、害獣の情報を集めてるでしょうね」
「なんか脳筋ばっかりだと思ってたが、そうでもないんだな」
屈強な男たちの集まり。狩人の集団と思っていたが、そうでもないらしい。
「あそこのマスターって……、確か獣や魔獣の研究者だったわよね?」
「リアルド様なのです。優秀な方なのですよ」
「へぇ」
意外すぎる。烏合の衆ってわけでもないらしい。
確かに、動物の研究者が指導しているのであれば、効率良く狩りもできるだろう。
ただの下請けかと思っていた。考えを改めよう。
「なに? 意外?」
「そりゃな。なんかもっとアウトローな感じかと思ってたよ」
「中にはそんなのも居るわ。非合法なことに手を染めてるやつもね」
「でも、そっちの方が一部なのですよ。あまり嫌われると、依頼ももらえないのです」
信用商売ということか。
確かに信用がなければ、国からの依頼なんてもらえないのだろう。
「ギルドか……」
国からの依頼が集まるということは、様々な情報も集まってくるだろう。
元の世界に帰るためには、そんな者たちの協力も要るかもしれない。
必要ならシャッスとかいうやつ。彼とも関係を作ろう。
「んっ……?」
その時だった。ライラは森の茂みの一点を見つめて立ち上がる。
「どした?」
「……物音。あの茂みの奥から」
ライラは短い言葉で自分の感じたことを的確に説明する。
その言葉に自分も立ち上がり、指差した茂みをじっと見つめる。
自分は地面におろしていたハンマーに手をかけた。
イーフェも杖を構えて、戦闘体制に入っている。
突然訪れた緊張した空気。
「獣か……? まさか例の……?」
「害獣が出たのは隣村の先の森よ……」
自分はゆっくりと足を進めて、二人をかばうように前に出た。
「ミツキ……」
「一応、俺が前衛だ。後ろにいてくれ」
小さく深呼吸すると、覚悟を決めてそう伝えた。
息が荒くなる。
その時だった。
また茂みがガサッと音を立てて揺れる。
相手には見えているのだろうか?
きっと、飛びかかるタイミングを伺っているのだろう。
なら……。
「っ!」
先制攻撃。
自分はハンマーを振り上げて、動いた茂みに振り下ろそうとした。
その時だった――。
「うわぁっ!?」
「くっ!」
それと同時に飛び出してきたのは人影。
寸前のところでハンマーを止める。
1cmあっただろうか? もう少しでハンマーは飛び出してきた人物を押しつぶすところだった。
「シャッス! あんたどうして!? それにその傷……!」
その言葉で気づいた。
そこに腰を抜かしたように座り込んでいる男は、あの村の入り口で話した男だった。
家事してると時間なくなりますよね。投稿時間遅れて申し訳ないです。




