偉大なる魔導師
すみません投稿時間遅れました!
「それって盗掘ではないのですか?」
歯車を職人に渡しに行く道の途中。
全てではないが、経緯の一部をイーフェに話した。
その話を聞いて、彼女が口にした言葉はその一言だった。
あの爺さんが、この体を遺跡から発掘してきた。そんな事を話していたのは覚えている。
「発掘って許可がいるのか?」
「遺跡は、国の持ち物なのです」
確かに、それなら勝手に持って行かれたものは盗掘になる。
違うと言っても、自分の体が盗掘されたものと考えると、あまり心地よい感じはしない。
「あー、それね。それなら……」
話すべきか話さないべきか。ライラは何か悩むような表情をしていた。
今更何か隠し事をしているようにも見える。
「えっとね……。その盗掘した爺さんなんだけどさ……」
「あの爺さん、何かあったのか?」
「あの爺さん偉大なる魔導師なのよ」
「ふえっ!?」
一言で場が凍りつく。
その、マグナ・マギアが一体何か分からなかった自分。
しかし、イーフェは訳が違ったようだ。
彼女は驚愕の表情をしていた。
今の一言がそんなに驚くべきことなのだろうか?
「だから許可はいらないの。わかった?」
「あの、それ本当なのですか……? 彼の所在は不明になっているはずなのですが……」
「なぁ、偉大なる魔導師ってなんなんだ?」
自分の一言に、また場が凍りつく。
イーフェは知らないの? と言った表情で自分を見つめた。
「偉大なる魔導師は、魔導師の最高称号で、同時に一人の人を表す言葉なのです」
「つまり、あの爺さんが最高位の魔術師ってことなのか?」
そんな風には全然見えなかった。
あの日記を見てしまったせいか、完全に拗らせてしまった老人という印象が消えない。
「60年前に魔獣が大量発生して、各国が存続を危ぶまれていたのです」
イーフェは昔話をするような口調で、突然語り始める。
「その時立ち上がったのが4人の人達だったのです。彼らは各国の強者を率いて、まるで神が如し活躍で世界を救った」
この世界の英雄伝的な話なのだろう。
この話をされたということは、あの爺さんがその4人の一人ということなのだろう。未だにそれには懐疑的だ。
「人々の希望となった彼らは、神の御使いと言われ、天の使者と呼ばれたのですよ」
イーフェは知識を自慢できて満足なのか胸を張っている。
「で、話を戻すのです。その老人は本当に偉大なる魔導師なのですか? だとしたら彼はどこに?」
「死んだわ」
「死んだ……?」
突然言われたせいで、イーフェは言葉の意味を理解していないように見える。
首を傾げ、うつむいて、そして空を見上げて考え、少し間を置いて、理解したかのようにハッとした顔を見せた。
「ふぇぇぇぇっ!? しっ、死んだっ!?」
「まぁ、偉大なる魔導師も老いには勝てないってことよね」
取り乱すイーフェに、ライラは冷静に返す。
もう少し説明してもいいと思ったが、彼女にそれを言っても無駄なことだと自分は理解している。
「いつ、いつなのです!?」
「昨日だけど?」
「そんな……」
イーフェはショックを受けているようだった。
英雄的人物の死は、確かにショックを受ける。
さっきの話の語り口調から、尊敬していたのだろう。
彼女は魔導師な訳だし、それも当然と言えるかもしれない。
「そ、そうだ。偉大なる魔導師には弟子がいたのです……! 早く伝えてあげないとなのです……!」
「あー、まぁ、そのことなんだけど」
「確か、彼女は技師団の……」
ライラの言葉も聞かずにイーフェはまだ取り乱していた。
ライラはこれから起こることを予測したのか、深くため息をついた。
「確か名前は……ライラ。そう! ライラなのです! ん?」
イーフェは思い出したように自身の隣の人物の名前を口にだす。
自身も何かおかしいと思ったのだろう。
そのライラという言葉を繰り返している。そして、隣の人物の顔を見つめて沈黙。
「ライラ・ライリエル……?」
イーフェはライラを指差して、名前を呼び、首をかしげた。
「そう」
それを肯定するようにライラは首を縦に振った。
「技師団の天才技師だけど、素行不良のライラ?」
「他に誰がいるのよ。後半は不要だけど」
やはりライラの噂は広まっているらしい。
しかし、面と向かってその人物にそう言えるイーフェも大したものだ。ある意味感心してしまう。
「……私バカみたいじゃないですかぁ!」
顔を真っ赤にして、恥ずかしさからか自虐的な発言。
天然というか、取り乱すと思考が回らなくなるタイプらしい。
「偉大なる魔導師私がちゃんと弔ったわ。だからこの話はおしまい」
イーフェの事。
短いとはいえ、これから一緒に旅する人物が、こんなので本当に大丈夫なのだろうか。
不安だけがこみ上げてくる。
「話が終わったならいいだろ? 早く職人に歯車渡して、明日の用意をしよう」
キリのいいところで提案をする。
このままではずっと話し込んで、物事が進まなくなってしまう。
ここは自分が引っ張って行くしかない。
「そうね。ほら行くわよー」
自分たちが歩みを始める中、まだ恥ずかしさが解けないのか、イーフェは一歩下がった所をついてきている。
「私は王立魔導院の魔導師……。バカじゃないのです……。私は王立魔導院の魔導師……。バカじゃないのです……。」
勝手にショックを受けているのか、イーフェはブツブツと呪文のように言葉を繰り返している。
陰鬱な落ち込みのオーラが背後から漂っている。
自分はなるべく振り向かないように歩みを進めた。
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