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聖剣面接  作者: ゆまち春
7/10

百年後の自分

「これが最後の質問です。ペリープト君は百年後、どのような聖剣になっていますか?」


 最後の質問。

 近づいた終わりに安堵する気持ちもあったが、今まで以上に気持ちが(たかぶ)った。俺をアピールする最後の機会だ。


 これを逃せばもう聖剣になる機会がいつ巡ってくるか。

 慎重に答えるんだ。


「想像でいいんだよ。一日先だってどこで誰に振り回される――これは二重の意味でね――かわからないのが常だ。

 幸運の女神が百年先まで道を照らし続けてくれていたら、どんな自分になっていると思うか答えてくれればいいよ」


 聖剣になったと仮定して、未来の己をどのように変化させているか。


 行動ではなく、結果をどれだけ想定できるかを試されている。かつ、具体的な答えを持ち合わせているかも問われている。


 ヒーローになるなら正義のヒーローかダークヒーローか、はたまたお色気系のピンクヒーローなのか。ピンクヒーローって字面の危うさ。

 くだらないこと考えるな、俺!


「私が聖剣となった暁には、救世主と讃えられるような偉業を成し遂げたいと考えております。それが険しい道のりと困難な障害に阻まれていることは理解した上で、それを百年後には達成できると仮定します」


 救世主の剣、というのは何とも響きがいい。いつか二つ名を得られたら、そんな素晴らしき称号がいい。


「しかし、百年後の人類の姿を想像してみると、ファンタジーとは縁遠い科学の世界が続いているでしょう。

 それは悪いことではありませんが、科学主流の文化が後世のために制作するのは論文であって魔術書や伝承文学ではありません。

 時代の潮流によって、現代のマビノギオンを作ることは難しくなりました」


 産業革命以降の聖剣たちを記した書物がないことを最も憂いているのは、聖剣であるロンギヌスの槍様たちだ。


「そうだねえ。なかなか……新しい聖剣が名簿に載らないというのは業界でも大きな問題なんだ。今でも加護を受けた聖剣は誕生しているんだけれど、彼らは見向きもされない」


 聖剣とは授かるもの、発見するもの。

 そういう希少性に近い価値があってこその聖剣だったが、それが聖剣業界としては仇となった。


 時代に伴って武器の量産体制は整った。

 鉄を鋳造する手間から剣を作るくらいなら、戦車や爆弾などの近代兵器を作る方が魅力的だ。

 新しい聖剣を発掘するという面倒な作業をする人間もいなくなってしまった。

 兵士の増加、装甲の厚さ、同時多発的な戦場。将校より上位の政治家たちが戦場を駒と数字に 例えてから、人一人で戦争を終わらすことのできない現実も、ロマンを心から取り除いてしまった。


 聖剣を探す希望を、誰もが忘れてしまったのだ。


「よしんば実績のない聖剣を兵士に預けても、加護のことを普通の剣にボーナスが付いてるぐらいにしか理解してくれない。どれだけの幸運と技量の上に成り立っているのか、考えた事がないんだ。兵士自身がその加護を手に入れる努力をすれば、貴重な才覚だと認識を改めてくれるんだろうけどね」

「加護の一つで戦場は変えられても、戦況までは動かせません。即物的なほうが人に覚えられやすいのは確かかと」


 苦い過去を押しつぶしながら思う。


 それこそ、村正級に派手でないと、何かを成し遂げても認められない。

 だからこそ求められるは力の知れ渡った名高い聖剣ばかり。

 俺よりも強いのに燻っている加護持ちの聖剣は、十や二十では足りないのかもしれない。


「聖剣を集めようとしたら先ずもって有名な先達の方々を揃えるでしょう。そういうブランドは仕方がないとも言えます。

 ですから百年後、聖剣の名を周知してもらう目的のため、しいては聖剣業界のため、また私の業績を記録するためにも、聖剣のための機関紙の制作に取り掛かろうと画策しています」


「マビノギオンかあ、その言葉の響きも懐かしいなあ。今どき、マビノギオンを読む子は少ないんだよね。細くても受け継がれていることを感じると、昔の自分は間違っていなかったと応援されているみたいで嬉しくなるよ」


 マビノギオンはいわゆる物語集だ。

 編纂された時期や文献の正確な年代は覚えていないが、最初期の説話より目の前のロンギヌスの槍様のほうが古い。


 二千歳だなんて、つくづく規格外の聖遺物だ。

 そして規格外のロンギヌスの槍様が、俺の面接の合否を判断する。

 お願いしますと俺に加護をくれなかった神々に祈っておいた。


「うん。面接はこれにて終わりです。お疲れ様でした」


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