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聖剣面接  作者: ゆまち春
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長所と短所 with技

「それじゃあ長所と短所を一つずつきかせてくれますか」

「はい。では先ず長所から」


 面接ならたとえ聖剣であっても訊かれるに違いない、と予想して作った問答集の答えを、そのまま言葉にする。


「私は同種じゃない武器と分け隔てなく接することができます。

 西側剣には気難しい種族が多いことで有名ですが、私はギロチン刃やハルバート、両刃の湾曲剣などの生産数の少ない方々にも顔が効きます。

 ドイツ軍役を離れた後は地球上の各国を飛ぶことが多く、強くなるための修行の最中で様々な味方と敵を作りました。現代生存種の武具であれば全ての弱点も知り尽くしています」


 完璧だった。少なくとも、俺のできる範囲では最大限の受け答えだった。

 もう十分に面接に対する緊張は解れたと言っていいだろう。


「ほう。処刑人の剣には私も会ったことがないんだ。その縁は貴重だね」

「武器同士となれば闘うこともあります、特に聖剣となれば。先ほどロンギヌス様は事務方と仰いましたが、実務を担当するならば戦争に召集されることもあります。

 そのような場面で私の力量不足――これは短所にもなりますが――を補う武器となります」

「なるほどね。短所は能力不足。それを理解した上での対策を講じて知識を持っている、と」


 幾多の聖剣と比べれば天と地ほどの力量差があることは否めない。生まれ持っての才能か経験の差かも理解できないほど、俺と聖剣には大きな断崖がある。


 それを埋めるための努力はしてきたが、果たして太刀打ちできるだろうか……。


「うーん、そうだね。少し技を見せてもらおうか」


 実技も面接と同時に行うと踏んでいた。


 万が一にも、時代を経たことで老化した等で、聖剣としての能力を扱えていなかったら、斡旋所は仕事を紹介することができない。


 確かめる術は直に会った時が丁度いい、と考えるのは普通のことだ。手間も少ないし。


 しかしそれゆえに、これは実技試験ではなく確認のようなものだ。

 実力があることを前提とした技見せ。期待度は高いものと考えたほうがいい。


「はい」


 諸刃の剣先を天井へと向ける。持ち手を接地していた床から少し浮かす。


 壁をド派手に爆発させる威力を持った乾坤一擲けんこんいってきが、俺にもあればよかった。

 軍を離れた後の年月を(つい)やして手に入れたのは、一振りで前線を食い荒らす村正のような能力ではない。


 あの鬼刀を思い出す。

 兵士の四肢と血は死して屍には戻らず。まるで魔法のように塵も残らずに消えた。

 喰ったのだ。あの日本刀は。


 そういう偉業――えてして異形――が、名を遺す聖剣には求められる。

 大仰なのもいいところだ。


「準備ができたら自分のタイミングでいいからね」

「お気遣いありがとうございます」


 爆発や衝撃、現代ではほぼほぼ死に絶えた魔法魔術の類であってさえ、部屋の壁が壊れるということはないだろう。

 岩融もしくはかのニョルニルハンマーならあるいは、といったぐらいだ。


 俺が闘牛のように暴れまわってじたばたと死ぬ気でもがいたところで、かすり傷もつかない。

 それに、俺はやはりそういう力は持っていない。


 刃こぼれ防止Ⅲ取得が力の限度だ。手加減したフェイルノート様にも勝てない。

 それでも俺なりに手に入れた力。俺が見せるのは……。


「――――それでは、始めます」


 面接室の空気が静止した。


 壁一面のモザイク模様が視界から消滅する。


「……ほぉ」


 ロンギヌスの槍様の唸る声が聞こえた。それは賛辞のこもった驚嘆であったことは明らかだった。

 どんな風に驚いているのか視たくなったが、残念なことに今のこの部屋でそれをすることはできなかった。


 なぜなら……。


「眩しいね。クラウソラスの全盛期を見ているようだよ」


 部屋は真っ白な光で満たされていた。

 全ての影は霧散し、輪郭が見えなくなるほどの明るい光が部屋を覆いつくす。


発光(リヒト)


これが、村正に敗れた後の俺が時間をかけて成熟させた能力だった。


「光の剣と同列に語って頂ける光栄、誠にありがとうございます」


 ただ光るだけ。仰々しい名前をつけたら看板負けしてしまう程度のちっぽけな能力。サーカスなら一躍有名剣だが、聖剣としては物足りないことは自覚している。


 それでも、何もないところから培った、愛おしい俺の能力だ。


「剣単体、自らを光源にする明らかな異能。一朝一夕で手に入れられるものではないだろう。努力の甲斐が見えるよ」

「ロンギヌスの槍様にお褒め頂いたこと、一生の大事です」


『発光』を使いながら話すのは失礼にあたるかもしれない。段々と光を弱める。そうしなければ、光の変化に脳が耐えられない。


「能力について、詳しく聞かせてくれるかな?」

「はい。『発光』は先ほどロンギヌスの槍様がおっしゃいましたように、自らの刀身から全方向に光を発する能力です。明るさはフィラメントの仄かな明かりから太陽光まで調整できます」


 刀身から光を放出できる。

 光の強弱を操ることで、まるで踊る蛇に見せかけることも修練で会得した。


「戦場で知った月下の花のイメージは強く印象に残りました。私にとっての聖剣の姿に近づこうとした結果、このような能力を手に入れることに決めました」


 有象無象の中で光り続ける一輪の花は星よりも強く輝く。


 目標の地点を見据えた後は、ひたすらに鍛錬をした。

 能力を手に入れるために何をすればいいのかを知るところから始めた。

 四十年以上の年月を経て手に入れた能力は殺傷力皆無で、はったりにもならない。


 それでも努力の証だった。


 努力賞は馬鹿にされない。

 役に立たないと烙印(らくいん)を押されることはあっても、無駄ではないのだと言って欲しかった。


 俺は道具じゃないから、自分という存在の形を確立していないといけない。

 認められるために自分を曝け出す行為は当然のことなんだ。

 そう唱えて、(つたない)い能力を披露した恥ずかしさを紛らわした。


「オーラ、ね。いいですね。聖剣としての枠にはまるためには攻撃手段が欲しいところですが、剣としての格を持つだけなら十分な能力だ。頑張りましたね」

「はい!」


 極上の嬉しさは一秒と持たなかった。


「他にはありますか?」

「……他に、ですか?」

「ええ。なければないで構いませんよ」

「……ありません」

「……そうですか。では、次の質問に行きましょうか……」

「はい……」


 ロンギヌスの槍は間を置いた。

 そして、これまでは前座だったと示すかのように、彼はショーケースの中で居住まいを正した。


「あなたが聖剣になってからやりたいことはなんですか?」


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