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聖剣面接  作者: ゆまち春
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エピローグ

 空想世界。

 人が生み出した妄想上の世界。


 乱立するはずの樹木には整然性があって、道路も舗装するだけの技術がないのにまっ平だ。


 けれど俺は生きていて、ここにいた。

 道のど真ん中に突き刺さっているけれど。


 とりあえずどこかに行ってみるか、と土から抜け出そうとしたら、上から男の子が降ってきた。


 年は十一、二歳の短パン小僧は、「いてて」と地面と衝突したお尻をさすっていた。


「あ!」


 キョロキョロと周りを見渡した後に、俺を見つけた男の子は声を挙げた。近寄る男の子をどう扱えばいいのかわからないままに、俺の柄を男の子は握りしめた。


「女神様が言ってたチート武器ってこれのことか!」


 ……どういうことだってばよ。

 俺を握った男の子は、鉄製の剣の重さに振り回されることもなく、まるでヌンチャクのようにぶんぶんと回転させた。


「なんだか体も軽いや。これも女神さまのおかげかな? ありがとう、世界樹の女神様!」


 快活そうな男の子は、柄を片手で握りしめ、切っ先を二つある太陽の大きい方に向けた。


「よーし、今から僕の冒険だ! 魔王を倒して女神さまにお願い事を叶えてもらうんだ」


 願い事か。

 この年の子供は何を願うだろうか。ドイツの子供なら既に現実的な夢を見据えている頃合いだが、日本の子供なら億万長者かプロ野球選手かな。


 ここではっと気づいた。


 いかん、いかん。振り回さていたらダメだ! 面接でロンギヌスの槍様が言っていただろう。


――英雄の間違いは聖剣が正す。聖剣の間違いは英雄が正す。


 子供がお金欲しさに、ファンタジーの世界で剣を振るうなんて。剣を振るうということは、死がつきまということだ。


 この子が誰かなんて知らないが、冒険なんて行かせないぞ!


「魔王を倒して、それで、それで……お母さんの病気を治して助けてあげるんだ!」

「……」

「だから待っててね女神さま!」


 俺をポケットに収納しようとしていた少年は、諦めて腰のベルト型ゴムに挟んだ。


 ……英雄の間違いを正すのも役目なら――


 俺はどんな聖剣になりたいか、と問われた時の答えを思い出す。


 英雄を救うのも聖剣の役目だ。

 



 いつか英雄となる少年は一本の剣と共に道を走り始めた。

 いつか聖剣になる剣と、共に。




    ――――――




 女神と入れ替わりに、カーテンを音もなく通り抜ける剣がいた。


「おや、君が直接ここに顔を出すなんて珍しい。仕事なら伝書鳩で伝えただろう」


 結局、若い剣にロンギヌスおじと愛称で呼ばれることのなかったロンギヌスの槍は、予定外の来客に驚くこともなく、ショーケースの中から対応した。


「ああ、まあな」


 来客である剣は、用を口にすることもなかった。

 ロンギヌスおじは察する。


「ああ、あの子が気になっていたのかい?」


 来客は何も言わないが、ポンメルの色が赤みを増した。図星みたいだ。


「紹介してくれたのは君だったからね。頼まれたときは驚いたよ、いきなり聖剣でもない子を相手してあげてくれだなんて。隠し子かい?」

「笑わせるな」


 ロンギヌスおじからすれば、あながち冗談でもなかった。聖剣が弟子を取ることは珍しいが、前例がないわけでもない。


「弟子でもない。三十年くらい前に一度、いや二度ほど、暇なときに戦い方の指導をしてやっただけだ」

「筋がよかった?」

「普通だな。でも、この間また会ったときには、教えを守って努力通りに伸びていた」


 ペリープトはそういう剣だった。


「あいつは」


 来客の聖剣は、思ったことを口にした。


「本気で聖剣を目指すアホだ」


 笑いながら。


「そうだねえ。夢を追いかける剣なんて、永く生きているけれど久しぶりだったよ。だから、ちゃんと評価して、面接を行ったよ」

「……それで、どうした?」

「やっぱり気になるんじゃないか」


 聖剣は機嫌が悪そうに、鞘をガシャガシャと鳴らした。面接室に金属音が響いた。


「ひとまずは保留かな」


 採用と言っておきながら、ロンギヌスおじは身も蓋もないことを言った。


「そもそも、斡旋所は聖剣にする場所じゃないからね。元からお仕事を紹介することしかできないよ。苦難を乗り越えて名前を売る手伝いくらいが関の山だよ」


 今後のペリープトの身の上を考えると不安な言葉だったが、聖剣は気にせず、


「ありがとう。貸しにしてくれ」


 と呟いた。


 何百年と生きても不器用さの治らない聖剣に、ロンギヌスおじは暖かなため息をつく。


「貸しはいらないよ。でも、介入しちゃだめだよ。彼に任せたからには、どう転ぼうが彼のお仕事なんだから」

「手伝う気はない。本気で目指している者にはチャンスを与えるべきなだけだ」


 ロンギヌスおじは、目の前の聖剣が何を根拠に彼を推薦したのか理解して、もう次の仕事の準備に取り掛かった。


「さって、お仕事だ。君もはやく次の異世界に行ってくれ。遅刻したらレプリカリバー社から不満が来るんだ。この間も、それで死にかけたブレードの子がいたらしいじゃないか」


 上司の愚痴を無視して、聖剣は踵を返してカーテンを抜けようとする。


「あ、そうだ」


 と、ロンギヌスおじは立ち去ろうとする聖剣の足を止めた。


「聖剣――というか、お仕事には自己判断がつきものだ。それを面接で確かめる質問として、

『あなたは大地の台座に突き刺さっています。

 あなたの柄を掴んだ人間からは悪しき心が流れ出し、引き抜かれた展望に光はありません。

 しかしその人間は聖剣を欲している状態です。貴方はどうしますか?』というのを追加しようと思うんだ。

 一応、出自元である君の許可を取っておこうと思って」


 聖剣は若き日の生い立ちを持ち出されたことが気恥ずかしくなって、


「それで貸しはなしだ」


 とだけ言い残して聖剣のお仕事をしに向かった。




あとがきその1

 タイトルの語呂を勝手に拝借した某スクエニ様のゲームですが、やったことないですごめんなさい。もっとネタを仕込めればよかったのですが……。


あとがきその2

 『聖剣伝説2』のリメイク版が出るよ買ってね。コレクションも発売中!(ダイレクトマーケティング)

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