7話 歴史
「おまたせ!じゃあ、話そうか。この国の話を。」
万穂さんは、昔聞いた話だから、うろ覚えなんだけどね。と前置きを置いて話し始める。
曰く、この国は数百年前に突然現れた真っ白な人?が魔法を使って狩りをしていた人間たちをまとめて作ったらしい。その真っ白な人、国王は、様々な技術...科学を持ち込んだそうだ。
真っ白な人が持ち込んだ技術はこの世界の文化レベルを格段に上げた。真っ白な人は、魔法で生み出す雷を使って動く機械を数多く発明し、その技術力を後世に伝え、亡くなったらしい。
魔法で生み出す雷というのは、電気のことだろう。
「科学技術ってのが昔はすごくってねぇ。」
真っ白な人が亡くなってからも、この国の魔法と科学の発展は止まらなかった。あちらの世界での自動車のようなものや、農業用の機械、蓄電器なども作られたそうだ。ちなみに、池の水は機械を使って地下水を汲み上げているらしい。どうりで干からびないわけだ。
「そういえば、魔法で出来ることってどのくらいが限度なのでしょうか?」
「そうだねぇ...個人差はあるけど、体内の魔素を限界まで使うと、この部屋を丸焦げにできるくらいかねぇ。」
「へーぇ、この世界の魔法は案外規模が小さいのかな?」
「この世界の魔法?あんたたちの世界は魔法なんてなかったんだろう?」
「僕達の暮らしていた世界には、魔法のある世界を夢想した物語があったのです。」
「へぇ、そんなものが。」
「私の好きなお話はね!」
「四包、落ち着きなさい。」
興奮してマンガの話を始めようとする四包を宥める。今は万穂さんの話を聞く時間だ。
「えっとね、この後に重大な出来事が起こるんだけど、その前にまずこの辺りの地理的なことを話そうか。」
この街、もとい国は広大な平地に建てられている。この平地は東西南の三方向を山に囲まれているが、山の向こうに行った人はいないらしい。そんなことをするより、この国にいた方が暮らしやすかったのだろう。
そしてもう一方、北は海に面している。しかしこの国では漁業は栄えていない。海に面した場所には、すでに他の民族が栄えていたのだ。その民族は温厚で、こちらに害意はないことを伝えると、すぐに話し合いをして、相互不干渉を決めたそうだ。当時の国王は、科学が広まることを恐れていたらしい。
この国の形としては、国土の中心に巨大な湖があり、それを囲うように都市が栄え、東西南北の四方向を角とするほぼ正四角形の外壁が作られた。僕達がいるのは南のほうの区画だという。
「あの、この国はどうして崩壊しているのでしょうか?」
「まあ待ちな。これからその話をするよ。」
今から20年前、北から巨大な軍勢が攻めてきたという。その軍勢は、海を渡って臨海の民族を滅ぼし、この国へと侵攻し始めたらしい。
この国は建国から国外の人間とは臨海の民族以外に交流を持っていない。それ故に戦いの準備、武器や戦略など全くと言っていいほど無く、軍勢にされるがまま蹂躙された。何故か南を攻める前に大急ぎで撤退していったため、今は南の「向日葵区画」だけ残っているという。
「そんな過去があったのか。でも、科学技術があったなら、ここまで酷くはやられないのでは?」
「それがその軍勢はね、さっき言った最大火力の魔法を1人で何発も連射できるほどの人間ばかりだったのさ。」
「え!うそ!そんなの卑怯じゃん!」
「ほんと、そいつらが南まで来なくてよかったわ。さあ、最後に最近の話をするよ。」
侵攻から数年後、ある1人の人物、四包と同じ白い髪の人が新たな王を自称し、向日葵区画をまとめ始めたらしい。その行政は驚くほど順調に進み、向日葵区画全体の協力体制を作るまでに至ったそうだが、新たな王は3年前に亡くなったという。
今は2代目の王がいるが、評判は悪いそうで、このままでは折角の協力体制が崩れてしまうと万穂さんは危惧している。
「これでこの国の話はおしまいだよ。さて、もう夜遅いし寝るとするかね。」
「はい。ありがとうございました。」
「おやすみ、おばちゃん!」
「おやすみなさい。」
「ああ、おやすみ。」
次の朝。僕達兄妹の作戦、その第一段階をスタートさせる。
「さあ、始めようか。」
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