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ポルックス  作者: リア
ポルックス
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4話 過去

「こうしていると、前の世界でのことを思い出すな。」



 あれはたしか、母さんが死んでから2年くらい後だったか。今から1年と半年ほど前、僕達が15歳の頃の話だ。




 入学から1週間ほど経ったある日。田舎の高校なんて、都会の高校に行った奴らも少しはいるが、メンバーは中学の頃とほとんど変わらない。

 四包は小学校からの友達と弓道部に入ったようで、今日はその見学に行くのだ。2つしかないクラスに僕と四包はばらけている。僕の片付けはとてつもなく遅いので、普通なら四包が呼びに来るのだが、どうしたのだろう?疑問に思いつつ隣の教室へと向かう。すでに教室に残っている人はまばらだった。四包は...いた。机に突っ伏している。



「おーい、四包?」

「あぁ、おにぃちゃん。」



 まさかと思い額に手をあてる。高熱だ。荷物を下ろし、四包に保健室へ行くよう促す。



「ほら、保健室行くぞ!」

「やーだ!今日はおにーちゃんにいいとこ見せるんだから!」

「バカ言うな。そのくらいいつでも見てやる。今はそんなことより四包の身体が大事だ。」

「そんなことってなによ!大好きなおにーちゃんにカッコイイとこ見せたいの!褒めてほしいの!」



 四包は発熱したり、軽い体調不良になると、なぜか幼児退行する。何をそんなにこだわる必要があるのかわからないが、四包は今褒められたいらしい。四包はこうなると長い。だが、そんなことに付き合ってはやらない。さっさと保健室に行くために、交渉のカードを切る。

 


「弓道の練習は大事かもしれんが、四包の体調のほうが大事だ!休んでくれたらデザートに桃缶もつけてやる!」

「うぅ...じゃあ行く。」



 それでいいのか妹よ。少しちょろすぎないか?

 そうして、ときどきよろめく四包を支えながら保健室へと辿り着く。

 保健の先生は40代くらいの、優しげな笑顔が印象的なおばちゃん先生だ。



「これは風邪だね。」



 僕が栄養を考えて作った料理を毎日食べている四包だ。何か特別な原因でもあるのだろうか?



「しばらく休んでいきな。そこのベッド空いてるから。」

「はい。ありがとうございます。」

「ありがとぉ、せんせぇ。」



 四包をベッドに寝かせ、とりあえず体温計を渡し、額に冷却シートを貼ってやる。



「うひゃぁ、冷たぁい。あぁーでも気持ちいいねぇ。」



 気持ちいいのはわかるがそんなオッサンみたいな声を出さないでくれ。女の子だろう。

 四包は体温計を使おうとしているのか、制服のボタンを外そうとしているがうまくいっていない。おもむろに体温計をこちらに差し出してきた。



「お兄ちゃん、体温計。」

「はいはい。...え?」

「おにぃちゃん、はーやーくー。



 いやいやいや、妹のシャツのボタンを外してそこに手を突っ込むだと?そんな恥ずかしいことさせるなよ。一応学校だぞ、ここ。



「ボタンだけ!ボタンだけだ!」

「えー、なんでー?」

「いくら風邪でも自分で出来ることは自分でしなさい!」



 サッと四包のシャツのボタンを2つほど外す。若干、白い紐のようなものが見えたが気のせいだろう。うん。

 ベッドのそばのカーテンを閉める。ふぅ、これでひと段落だ。まったく世話が焼ける。



「おにぃちゃぁん。」

「熱測ったか?何度だった?」

「38度3分ぅ。」

「わかった。じゃあそのまま寝てろ。」

「はーい。」



 今のうちに荷物を取ってこよう。下校時間までに熱が引かなかったらどうしようか。



数時間後。


 ピピピピッ、ピピピピッ。体温計が鳴る。



「おにぃちゃーん、熱下がったー。37度2分。」

「少し高いけどまぁいい。もうすぐ下校時間だ、帰るぞ。」



 戻ってきていた保健の先生にお礼を言い、学校を後にする。帰り道がまた長いんだ。家までの間にぶり返さないといいけど。



「おにぃちゃん、ちょっと身体が熱くなってきちゃった。」

「案の定かよ。」



 四包の額に手を当てる。さっきよりひどくないか?とりあえず四包の荷物を代わりに持つ。辺りはだんだん暗くなっている。病人が休めるような場所もなさそうだ。



「家まで頑張れるか、四包?」

「うん。大丈夫、だと思う。」

「あれ?四包ちゃんじゃないか。どうしたんだい?こっちの子は?」



 通りがかったおじさんに声を掛けられる。田舎は狭い。明るく元気な四包はこの辺りではけっこう有名人だ。対して僕はそういったコミュニティに疎い。



「四包の双子の兄で海胴(かいどう)と申します。実は四包が熱で倒れまして。」



 これまでの経緯を話す。つい早口になってしまった。慣れない人が相手だからだろうか?



「そういうことなら俺の車を出すよ。家はどっちだい?」

「いいんですか?」

「必死さが伝わってきたからね。任せておきな。これでも昔は『疾風迅雷』って呼ばれててな。」

「安全運転でお願いします。」



 おじさんの運転で家に辿り着き、四包を寝かせる。晩ご飯の支度をしようと立ち上がろうとすると、幼児退行してワガママな四包に引っ張られる。おでこ同士が触れ合い、四包の顔に少し赤さが増す。やっぱり熱い。やっぱり薬と栄養のある食事が必要だ。



「四包、お兄ちゃんはこれから晩ご飯を」

「ヤダ!一緒にいて?お願い!」



 そんな必死にお願いされては仕方がない。四包が寝付くまで一緒にいよう。



「しょうがないな。」

「ありがとう、おにぃちゃん。いつもありがとう。」

「早く元気になれよ、四包。」

お読みいただきありがとうございます。

アドバイスなどいただけると幸いです。

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