40話 開店
「お兄ちゃんっ!これっ!」
ドタドタと激しく廊下を走り、僕の部屋の扉を勢い良く開けた四包。『この紋所が目に入らぬか!』のように小麦粉シャンプーが入った容器を手にしている。その四包の格好はバスタオル一枚。到底人様にはお見せできない姿だ。もう少し恥じらいを持って欲しい。
「このシャンプー...」
「どうだった?」
「すっごくいいよ!乾かしてみたら髪がサラサラしてるの!」
よく見ると髪が濡れていない。魔法は万能だな。日常生活にも役立つ。便利すぎて依存しすぎないようにしないと。水を使っている時点で遅いかもしれないが。
「そうか、よかったな。じゃあ作り置きしておくか。」
「うん!ありがとうお兄ちゃん!」
本日2回目の喜びの舞。上気した肌は艶めかしくて、普段は感じられない色っぽさがある。これが風呂上がり且つタオル1枚の力か。
「わかったから踊るな。タオル落ちるぞ。」
「へ?あ。」
言わんこっちゃない。身につけていたタオルがはらりと落ちそうになる。そこは四包の持ち前の反射神経で見事キャッチ。
「ふー。危ない危ない。じゃあお兄ちゃん、お風呂入っていいよ。」
「わかった。」
さっとタオルを戻し、脱衣場へ着替えに戻る四包を見送り、そのあとで僕もお風呂に入る。小麦粉シャンプーは、ちょっとベタつく感じがするが、概ね許容範囲だった。
「おかえり、お兄ちゃん!さあ!早速作ろうか!」
いつもなら布団にくるまって温めていてくれるのだが、今日は扉の前で仁王立ちしていた。そんなに良かったのか。
特に何事も無く淡々と作業を進めた。1週間分くらい溜めたところで終え、床につく。今日も作業ばかりの1日だった。
今日の夢は目覚めから始まった。何を言っているのかわからないと思うが、ありのままを言ったのだ。夢で見る最初の光景が、最初の夢で見た天井と同じだった。
同じように老人が部屋を訪れ、何事か話す。どうやら今までの戦いの傾向についてのようだ。
『また前回までと同じように、力で押してくるだけでしょうな。』
『それでは俺たちの作戦には勝てない。準備は怠るべきではないが、そう緊張する必要もあるまい。』
今までの戦いでは、馬や歩兵がバラバラに追って来るだけの戦法だった。というのも、作戦や編隊などを作っていても、未来視があるので分散してしまうからだ。そうして、ことごとく策を破り、もう攻めてこないだろうと思っていた矢先の未来視だった。
この人たちは甘く見ている。僕が感覚を共有して見たものには、銃声が混ざっていた。ということは、あの未来は変わらない。今までは弓兵で一方的に射掛けられたかもしれないが、現代兵器によってそれは一変する。
『それでは、準備を。』
『ああ、まずは...』
夢の中の僕が準備についてを話し始めようとしたとき、今日の夢は終わり、僕の意識は現実へと引き戻された。
「おはよう、四包。」
「おはよう、お兄ちゃん。」
ほぼ同時に目を覚ました僕達は、同時に顔を合わせ、同時に朝の挨拶を交わす。ぴったり息が合った。能力的に似ていない双子でも、生活リズムが同じだと行動も似通ってくる。
今日も快晴。雨が必要な農業従事者にとっては悪いが、開店日和と言えるだろう。
「お兄ちゃん、開店だよ!お客さんいっぱい来てくれるかな?」
「昨日の四包の頑張り次第だな。」
「昨日はいっぱい宣伝したから大丈夫だよ!」
「それならきっと、お客さんも来てくれるのでござる。」
「そうですね。」
...と、思っていたのだが。
「全然、来てくれないねぇ。」
「そうでござるなぁ。」
開店から数時間。既に日は真上に上っている。昨日でほとんどの野菜を使ってしまったため、今日からはまたユーグレナドリンク生活に逆戻りだ。
「あー、せめて1日1食はまともな料理が食べたいよぉ。」
「これじゃあどっちが助ける側かわからないな。」
そんなとき、不意に玄関の扉が開かれた。
「「「い、いらっしゃいませ!」」」
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