35話 料理
「さあ!作るぞ!」
と言っても、作るのはドレッシングくらいなものなのだが。大豆もいただいているので、タンパク質も十分だ。
「四包、この野菜洗ってくれるか?」
「まっかせて!」
その隙に、大豆とジャガイモを茹でておき、ドレッシングを作る。摩り下ろした玉ねぎ、人参、お酢、油、砂糖、塩を混ぜ合わせて作る、簡単なドレッシングだ。
「海胴殿、拙者は?」
「じゃがいもの皮むきをお願いできますか。」
「承ったでござる。」
広めのキッチンに3人並んで手を動かす。なんだか調理実習みたいでワクワクする。前の世界での調理実習は、みんなが楽しそうにしている中、その輪から外れて手際良く作業をこなしていた。我ながら寂しい奴だ。
そんなことを考えながらも手を止めることなく、大豆に片栗粉をまぶしていく。
「お兄ちゃん、次は?」
「盛り付けて、ドレッシングもかけておいてくれ。」
「あいあいさー!」
「海胴殿、皮むき終わったでござる。」
「えっと、じゃあボウルに入れて潰しておいてください。」
「承知でござる。」
僕の方も作業を進める。錆を取っておいたフライパンに、多めの油を引き、大豆を入れてカラッと揚げていく。
稔君からじゃがいもを受け取り、小麦粉と混ぜて、形を整えてから揚げる、というより焼く。焼き上がりを待つ間に、トマトソース、大豆用のタレを作っていく。
最後に全部を盛り付けて...
「完成だ!」
「おぉー!」
「海胴殿は料理が達者でござるな。」
「有り合わせにしてはいい物ができたと思います。冷めないうちに頂きましょう。」
今回作ったのは、サラダ、大豆の小鉢に、じゃがいもだけで作った焼きコロッケ。トマトソースはライスコロッケに使っているのを雑誌で見たことがあったので使ってみた。合うといいのだが。
「「「いただきます。」」」
野菜オン野菜になったサラダもおいしい。あまり味の感想を言うのは得意じゃないが、あっさり系というやつだろうか。さっぱりしていて好きな味だ。
「このじゃがいものソースおいしい!」
「それはよかった。」
好評なようで一安心だ。注意されてまで雑誌を読んだかいがある。こんな学生が料理雑誌を立ち読みしていることに、店員さんはぎょっとしていたが。
「この豆料理もとてもおいしいでござる。父上に振る舞えば喜びそうでござる。今はお酒を飲めなくなってしまったでござるが。」
たしかに、お酒のつまみっぽい感じだ。もちろん、お酒を飲んだことはないが。襲撃後にお酒を作る余裕はないだろうな。成人したら飲んでみたかったのだが。
掃除し続けてお腹が空いていた僕達はあっという間に全ての料理を平らげてしまった。
「「「ごちそうさまでした!」」」
蝋燭の灯りだけを頼りにした食堂で、しばしの団欒。
「四包、魔法でもうちょっと明るくなったりしないか?」
「んー、やってみるよ。光源。」
真っ暗だった食堂の中に、ポッと明かりが灯る。出来てしまったか。さすが魔法だな。僕に出来ないことを平然とやってのける。
「すごいのでござる。光っているのでござる。」
稔君が光に手を触れようとするが、そのまま通り抜けてしまう。これは物質ではなく、光エネルギーだけを生みだしたのか。
光は四包の手が届く範囲に設置しておけるようだ。四包がジャンプで天井近くに設置する。
「これを何箇所も設置しよう。四包、いけるか?」
「うん!やっと真っ暗からおさらばだよ!」
廊下、台所、その他にも色々な場所に置いていく。これで入ったときの見栄えも良くなるだろう。吹き抜けになっている玄関ロビーは、軽い四包を肩車して置いた。相変わらず軽いな。ちゃんと食べさせているのに。
「さて、拙者はそろそろお暇するでござる。」
「あれ?この家に住むんじゃないの?」
「いえ、実家がそう遠くないので通わせていただくのでござる。」
「そうですか。」
この広すぎる家に2人では寂しさが残るが、2人暮らしは慣れたものだ。ただ、毎日の掃除が大変だな。
「お兄ちゃん、明日はどうするの?お店開ける?」
「明日は開店準備にあてよう。」
看板やチラシを作る。作ることができればだが。紙なんてそう沢山はないだろうし、言伝に頼むか。
食器の片付けも終わり、お楽しみの入浴タイムだ。一番風呂は四包。お湯を張ってもらっている以上これは仕方ない。
四包が入っている間は暇なので、残りの野菜で明日の献立を考える。あと1日くらいはいけるだろう。大根が丸々1本あるから...あれでいいか。
「お兄ちゃーん!」
倉庫で野菜の確認をしていた僕に四包から声がかかる。ちょうどよかった。もし僕が部屋にいたら気づかなかっただろう。
扉の音を立てて脱衣場へと入る。型板ガラスの向こうから、気づいた四包が話す。
「お兄ちゃん、石鹸とかシャンプーがないんだけどどうしよう。」
「そりゃあシャンプーはないだろうな。」
石鹸の代わり...というか下位互換だが、灰を入れるというものがある。石鹸が作られるより前の洗浄剤だ。掃除が大変になるのでしたくないが。
「今日は我慢してくれ。石鹸が売っていたら買いに行こう。」
「ぐむぅ...仕方ない。わかったよ。」
四包が上がってすぐ、僕も風呂に入った。今日の疲れが一気に流れ落ちる。
「あ"あ"ぁー。」
こんな気の抜けた声が出るのも仕方ないのだ。
ふと、湯船に白く長い糸が浮いているのに目を留める。石鹸はどうにかなるだろうが、シャンプーをなんとかしないとな。せっかく綺麗な髪なのだから、ずっと美しくあってもらいたい。
「髪に良い物ねぇ...」
じーっと考えながら、風呂を上がり、ベッドへ潜り込む。なんだか温かい。よく見ると、人ひとり分ベッドが盛り上がっていた。
「なんでいるんだ?四包。隣の部屋にするんじゃなかったのか?」
「えへへ、お兄ちゃん1人じゃ寂しいかと思って。」
情けない話だが、夢のこともあるし、1人では不安だった。四包だって1人は不安なのだろう。
「ありがとう、四包。」
「う、うん。今日はお兄ちゃん素直だね。」
何か戸惑いつつも、「消灯」の言葉で明かりを消す四包。
そういえば、気になっていたことがある。
「四包はどんな夢を見る?」
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