29話 調査
「見たら分かるだろ。」
銀色に煌めく刃物。少し赤みを帯びた刃。それだけ聞くとサスペンスのような感じがするのだが、怖がることなんてない。
「わかんないから聞いてるんだよ!」
「あれはどう見ても包丁だろう。赤黒くなってるのは錆だな。長い間使われていないのがよくわかる。」
「なんだ、殺人現場じゃないんだね。」
「王様は病死だぞ。そんなのある訳ないだろう。」
まったく、片付けがなっていない屋敷だ。包丁なんて真っ先に片付けておいておくべきだろう。誰かが怪我をしたらどうする。
「ここは食堂とキッチンみたいだな。」
「そうだね。殺人現場でもないみたいだし、ちょっと調べてみようよ。」
食堂、というかダイニングには特にこれといった物もなく、テーブルと椅子が並んでいるだけ。
キッチンだが、片付けがされていないのは包丁だけではない。鍋のようなものや、菜箸まで出しっぱなしだった。まるでこれから料理を始めようとしているかのように。
「なんでこんなに出しっぱなしなんだろ?めんどくさがりさんだったのかな?」
「錆びてはいるが、汚れているわけじゃない。片付けをしなかったというより、きっと出した途端にここを離れざるを得なかったんだろう。」
「そっか。じゃあなんで出してすぐどこかへ行っちゃったのかな?」
「それはわからない。でも、3年前に亡くなった前王の、後に住んでいた人も、包丁の錆からしてここは使っていなかったみたいだな。使っていたならここまで錆びてはいないだろう。」
「まあ、考えても仕方ないや。」
僕の簡単な予想だが、前王はこれらの器具を出してすぐ、病で倒れたりでもしたのではないだろうか。亡くなったのはこの屋敷でのことらしいからな。まあ、四包の言う通り考えても無駄なのだが。
「先に進もう、お兄ちゃん。」
四包も慣れてきたのか、震えが止まっている。キッチンの横にある扉を開くと、目の前に扉。さすがにもう驚かない。
「あれ?お兄ちゃん、なんだか臭くない?」
「え?ああ、一昨日から風呂に入ってないしな。」
「いや、そうじゃなくって。この臭いは...生臭い?」
「そう言われるとたしかにそうだ。」
「というかこれって血の匂いだよ!きっとこの扉の先には血塗れの死体がゴロゴロと...」
自分で言って自分で怯えるのがマイブームなのか?さっき殺人などある訳がないと言ったばかりなのに。
新手の自傷行為をする四包をよそに、ドアノブに手をかける。そのまま押した途端、ゴミ処理場を彷彿とさせるほどの臭いが漂ってくる。服に臭いが付きそうだな。
「なにほれ。くしゃいー!」
鼻を摘んで四包が苦悶の声を上げる。部屋の中をサラリと確認して、悪いものに蓋をするように扉を閉めた。
「どうやら食料庫だったみたいだな。なんで生ものが置いてあるんだよ。」
「ここ使えるの?」
「掃除したらどうにかなるだろう。多分。」
屋敷1階向かって左側はこれで探索終了のようだ。ひとまず玄関ホールへ戻ろう。
「あれ?稔君は?」
「どこに行ったんだ?」
「まさか!お屋敷の幽霊さんに食べられてしまったんじゃ!」
「いや、だから...」
また自分で自分を追い詰める。もはや阿呆としか言いようがない。
「し、四包殿?海胴殿?」
「あっ、稔君!無事だったんだ。何してるの?そんなところで。」
玄関の隅で蹲っている稔君。いったいどうしたのだろう。まさか本当に幽霊でも出たというのか?
「で、出たのでござる。幽霊が。」
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