2話 出会
「どうなってるんだ?」
壁が崩れたように途切れた先は、崩壊した建物がどこまでも続いていた。どうやら街を囲っているように見えていたのは、巨大な廃都市を囲う壁の隅だったらしい。
「いったいここで何が起こったんだろう。」
「お兄ちゃん、残ってる壁の内側に人が見えるよ!第一異世界人発見だ!」
そう言って駆け出す四包は、崩壊した都市など気にもしていない様子だ。慌てて僕も追いかける。あれ?四包が走っているにしてはどこか遅い気がする。好奇心旺盛な四包のことだ。僕に合わせてくれているというわけではないだろう。
「すみませーん!」
四包が大声で呼びかけ、手を振る。向こうも手を振ってくれている。どうやら相手は気のいいおばちゃんのようだ。
「どうしたんだい、見ない顔だね。」
「ええ、旅の者です。」
そう言うと少し怪訝な顔をされたが、理解はしてくれたようだ。まだここが異世界だという確証はないし、異世界人だと言っても信じて貰えないだろうから、旅の者ということにしておいた。
「見たところ荷物も無いようだけど。」
「ええ、食料も水も尽きたところにこの街を発見したもので。」
苦しい言い訳だ。おばちゃんがこちらをじっと見ている。怪しまれるのも無理はないだろう。すると、おばちゃんは小さな声で呟いた。
「街...か。あれからもう20年だものな。この子達は知らないか。」
「えっと...何かおかしなことを言いましたか?」
「ああいや、気にしないでおくれ。ちょっと昔のことを思い出していただけだよ。」
さっきから四包が静かだ。いつもの勢いならおばちゃんを質問攻めしているのに。四包のほうを横目で確認する。
不意に四包の体が揺らぐ。そのまま後ろに倒れそうになるのを咄嗟に支えた。
「四包っ!四包っ!」
必死に呼びかけるも反応はない。艶やかな頬には赤みが差し、熱は無いようだが、息が荒い。四包ら普段から僕が健康に配慮した料理を食べ、たっぷり睡眠をとっている。そんな四包に限って大きな病気ということはないだろう。
「これは過魔素摂取だね。」
「知っているんですか?!」
助けを求めるような視線をおばちゃんに向ける。焦りからか少し近づきすぎたようで、2,3歩後ずさりながらおばちゃんは言った。
「別に死にゃしないよ。うちで看病してやってもいいけど、身元もわからない奴をうちに連れていくわけにはいかない。」
「怪しいのはこちらとしてもわかっています!ですがそこをなんとか!」
「まあ、とりあえず本当のことを話しな。あんたたち、旅なんかしていないんだろう。そんな整った身なりの旅人なんて聞いたこともないよ。」
今の僕らの服装はというと、バイトの面接に行っていた僕は制服だ。四包は膝が見えるほどの丈で、赤いチェック柄のスカートと、半袖の白いシャツ。確かに旅人の服装ではない。完全に盲点だった。
「ほら、さっさと吐いちまいな。」
「実は...」
これまでの経緯を掻い摘んで話す。焦ってつい早口になってしまった。そういえば、あのときもそうだったな。
「なるほどねぇ、そんなことがあったのか。よし、ついてきな!」
あっさり信じたおばちゃんが歩き出す。どうしてこんな話を信じられるんだ?物わかりが良すぎるだろう。
「信じていただけるのですか?」
「半信半疑ってところかねぇ。まあでも、アンタがその子を休ませたいってのが伝わってきたからねぇ。そんな思いやりが出来る子達が、迷惑かけたりしないだろう。」
ちゃっかりこちらのことを観察していたようだ。このおばちゃん、なかなか侮れないぞ。
僕は四包を背負っておばちゃんと並んで残っている建物の間を歩く。
「アンタ、その、四包ちゃん?のことになると感情を剥き出しにするんだね。案外かわいいところあるじゃない。まあでも、この国の人達に迷惑かけたら承知しないけどね。」
笑いながら脅してくるおばちゃん。そんなに顔に出ていたのだろうか。そんなことより、四包の容態はどうなのだろう。悪化していたりしないだろうか。
「そんな心配そうな顔するんじゃないよ。もうすぐうちに着くから、彼女ちゃんの話もうちでゆっくりしようじゃないか。」
「彼女じゃないです。妹です。」
「妹?もしかして双子かい?」
「ええ、まあ。」
「へえーぇ、ぜんっぜん似てないね。」
「よく言われます。」
「ほら、着いたよ。ここがあたし達の家さ。」
そう言っておばちゃんは得意そうに胸を張る。そういう言動は子どもっぽいな。おばちゃんのドヤ顔を尻目に、家のほうへ目を向ける。
「え?ここ?」
お読みいただきありがとうございます。
アドバイスなどいただけると幸いです。