28話 探検
「さあ、探検でござる。」
蔦が生えている扉を軋ませながら中へと入る。周りを建物に囲まれているせいか、半開きの扉からしか光の入らない玄関。
「うわぁ、いかにもって感じだね。」
「四包、魔法で光って出せるか?」
「やってみるよ。点灯。」
四包の手から懐中電灯のように光が伸びる。もちろん、玄関に靴などない。それどころか、靴を脱いで入るということすらしないようで、靴箱なんかも置かれていない。いわゆる洋館というものの様だ。
「なんというか、普通で、ござるな。」
外観で言えばあれだけ古かったのに、中に入ってみると、蔦など生えていないし、床や壁に何かあると言うわけでもない。多少床が軋む程度だ。
「ね、ねえお兄ちゃん。あれ、人の顔に見えない?」
四包が魔法の光で指し示す先は、ただの木目。あれをどう見たら人の顔になるんだ?
「四包、あれはただの木目だ。考えすぎだろう。」
「そ、そうだね。」
目がキョロキョロしている。動揺しまくりだ。そんなに怖いものだろうか。
玄関ホールには2階へと続く階段と、左右に扉がついている。広そうな屋敷だ。
「拙者は魔法が使えない故、こちらの広間を調べております。お二方はどうか奥へと。」
なぜか早口に不自然な誘導をされる。よく見ると、稔君の膝がガタガタ震えていた。お前もか。
年上としての意地がそうさせたのか、四包は決心したような顔で、僕の服の袖を掴み直す。というか、シワになったらどうするんだ。
「じゃ、じゃあ、頼んだよ。」
「ま、任せてくだされ。」
なんだこの死地に赴くような感じは。両方声が震えている。二人がそんなに怯えていては、僕も怯えるに怯えられない。別に怖くなんかないんだが。
「じゃあ行くぞ、四包。」
「お、おー。」
玄関ホールの向かって左側の扉から廊下へ入った途端、目の前にまた扉が。
「おおお兄ちゃん、これってあれだよ。無限に扉が続いて戻れなくなるやつだよ。」
「なんだそれ。」
言った四包が更に強く袖を握る。自分で自分を追い込むなよ。
目の前の扉に驚きつつも、暗闇に慣れてきた目で周りを見渡すと、左側は壁だが、右側には暗闇が続いている。
「とりあえずこの扉から開けてみよう。」
「お兄ちゃん、そーっとね、そーっと。また扉が見えたら引き返そう。」
ゆっくりと扉を開くと、また扉、ではなく部屋だった。細長いテーブルがあり、それを囲むように椅子が並んでいる。
「なにここ?」
「四包、あっちを照らしてみてくれ。」
魔法の光が部屋の奥を照らす。そこには、光を受けて銀色に鈍く光る、鋭利な刃物の姿。どことなく赤みを帯びている。
それを見つけた四包が冷静を保てるわけもなく。
「に"ゃぁぁー!」
「あっ、おい!痛い痛い痛い!」
猫のような叫び声を上げた四包が僕の服の袖を掴んだまま、僕の後ろへ高速で回り込み、反対の腕で僕の身体をガッチリ固定した。腕が変な方向に引っ張られて、尋常じゃなく痛い。
「お、お兄ちゃん。今の何?」
「いや、そんなことより手を離せ手を!あ"ぁぁー!今ゴキッて鳴ったから!早く!」
「え?あ、ごめん!」
やっと痛みから解放された。幸いにも腕は動く。本当に折れるかと思った。
「で、お兄ちゃん!今の何なの?!」
「もうちょっとお兄ちゃんを労ってくれてもいいんだぞ?」
「お兄ちゃんは身体が固すぎるんだよ。」
否定はできない。学校の体力テストで、長座体前屈が評価1を脱出したことがないレベルの固さをほこっている。いや、今はそんなことはどうでもいい。
「見たら分かるだろ。」
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