25話 仕事
「繋様が我らをお救いになったのだ!」
ギャラリーの1人、若者が声を上げる。その声に対し、口々に「神が奇跡を起こした」だのと賛成していく人々。四包が困ったような顔をしている。自分を神様とはいえ他人と間違えられているのだ。誰だって困ってしまうだろう。
「繋様!うちの畑で採れた野菜です!是非お召し上がりください!」
「うちのも!」
「ちょ、ちょっと。あの、勘違いしてませんか?」
四包が異議を唱えようとするも、周りの熱気に掻き消されてしまう。オドオドする四包の横に、明日香さんが現れ、言葉を発する。
「あんたたち!ここに居るのはその「繋様」とやらじゃない!四包だ!お礼を渡すなら、それをわかった上で渡すことだ!」
言いたいことは言った、というように、小さな身体を翻し、歩き出す。最後にチラリと僕の方を見て、意味ありげなウインクをした。「これでチャラだぜ。」とでも言いたいのか。
釈然としないが、おかげで四包に対して感謝されるようになったし、許してあげよう。
一通り感謝され尽くし、今日と明日は困らない程の野菜を頂いたところで、最初に四包を神と間違えた若者が、声を掛けてくる。
「四包殿!大変な無礼を働いたこと、御容赦くだされ!」
言葉遣いが古くさい、というか歪な人だな。きちんと頭を下げにくるあたり、悪い人ではないようだが。
「大丈夫ですよ。顔を上げてください。」
「間違えることなんて、誰にだってあることだよ。それで怒ったりなんてしないから。」
おずおずと頭を上げる若者。その瞳には大粒の涙を堪えていた。
「ああ、なんて慈愛に溢れた方でござろうか。本来なら拙者の首をもって償わせるものでござるのに。」
うそだろ?こちらの世界では、人違いをしただけで打ち首なのか。いくらなんでも理不尽だろう。訴訟ものだぞ。こちらの世界に裁判所など無いとは思うが。
「こら、稔。昔から言っているでしょう。現実と物語は混同するものではありません。人を間違えたくらいで罪になるわけがないでしょう。」
ああ、本当は大丈夫なんだな。よかった、裁判沙汰にならなくて。
実さんの登場に、先程の若者、稔さんとやらは、顔を引き攣らせる。実と稔、もしかして親子だろうか。
「お恥ずかしいところをお見せしました。」
「いえ。息子さんですか?」
「はい。怠け者の役立たずですが。」
「違うのでござる。拙者はまだ本気を出していないだけなのでござる。」
「実力があろうと、働かなければ無いのと変わりません。」
秀逸な返しにぐうの音も出ない稔さん。僕より身長の高い人が子供のようにあしらわれる姿は少し面白いな。
「と、そういえば、自己紹介がまだでしたな。拙者は稔。歳は15で、実の息子で御座る。」
「15って、私達より年下?」
「そのようでござるな。何卒、拙者のことは稔と呼び捨てになさって下され。」
「わかりました、稔君。」
「稔君ではなく稔と。」
「そこは譲れませんね。」
ガックリと肩を落とす稔君。そこまで落ち込むことか。物語のように友情を育むことを期待していたのなら、それは甘い。物語のようなものどころか、普通の友情すら育んだことのない人間には不可能だ。そして何よりも、僕的に語呂が悪い。
「海胴殿、四包殿、これからどうするでござるか?」
「そうですね。また農業を手伝うというのも、雇って貰えなさそうだしなあ。」
「お兄ちゃん、魔法をどうにかして商売にできないかな?」
「良いですね。魔法を使える便利屋などがあると、この町としても助かります。もしものときのために体内魔素を温存しておこうとする人もいるにはいますし。」
便利屋、便利屋か。それなら四包の才能を活かすことができそうだ。しかし、それを実行するには建物が必要だろう。さすがにテントが店舗というのは商売人としての沽券に関わる。お客さんも入りにくいだろう。幸い、食料はあるので探すまでの時間は稼ぐことができるはずだ。
「その線で行こうと思うのですが、店舗となる建物に、良い物件などご存じですか?」
「いえ、知らないですね。」
やはりそうか。さすがにここからは自分たちで探すしかないだろう。
「拙者、心当たりがあるでござる。」
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