22話 旅路
「次の町は、どんなところだろう。」
...歩き続けて、およそ3時間。朝露を斜めに照らしていた太陽も、今では僕達の頭に照りつけている。
いい加減疲れてきた。景色としては、代わり映えしない砂利道に、木組みの家が並んでいるのみ。お店のようなものがあるわけでもなく、人の通りも疎らだ。前の世界の田舎の方がまだ自然があって良い。
「襲撃でどこも余裕がないからね。みんな畑で仕事してるよ。そもそもこの辺りは農業中心の区画だから、店なんてないしね。」
「通りで、人が、少ない、わけですね。」
「お兄ちゃん大丈夫?」
いや、大丈夫じゃない。朝からぶっ続けで歩き続けているんだ。疲れない方がおかしい。疲れを感じ取ってくれたのか、明日香さんは手頃な広場に腰を下ろす。
「さてと、そろそろ休憩しよっか。お昼ご飯の時間だー!」
「はぁ、やっと休憩か。」
「お疲れ様、お兄ちゃん。お昼ご飯だけど、それ飲むの?」
四包が指をさすのは僕が背負っている水槽。こんなものを背負って歩いているんだ。そりゃ疲れる。
「覚悟を決めるしかないだろう。腹は膨れないかもしれんが、栄養は多分なんとかなる。」
「大丈夫かな。」
意を決してコップに汲んだ「特製ミドリムシジュース」を一気に呷る。
「どう?お兄ちゃん。」
「なんというか、微妙な味だな。決して美味しくはない。」
「うへぇ、飲みたくないよぉ。」
四包が毒でも飲むように、ぎゅっと目をつぶってコップを傾ける。
「何このワカメから旨み全部抜き取ったような味。」
「なんともいえない味だろう。」
「お前らそんなので生きていくつもりかよ。おもしれえな。」
僕達兄妹の様子を明日香さんはケラケラ笑いながら見ている。その手にはパン。なんて羨ましい。
数杯目のミドリムシジュースを飲み終えたところで、また出発する。
日が傾き、世界が紅色に染まる頃、ようやく明日香さんの店へと辿り着く。
「ここが私の店。「服屋 和泉」だよ。」
前の世界に似たような名前の店があったような気がするが、気のせいだろうか。
「そしてこの町が、向日葵区画の主要都市ってわけよ。」
たしかに、ここの通りの地面は砂利道ではなく、石畳になっている。向かいの店には車輪の付いている乗り物が見えるし、やはりここは主要都市で間違いないようだ。
「さて、お前らとはここでお別れだな。ところで、お前らどこに泊まるんだ?宿なんかやってねぇぞ?」
「ああ、ちゃんと折りたためる住居を持って来ているので大丈夫です。」
「そんなもんこんなとこに広げるなよ?邪魔でしょうがねぇ。」
「わかってますよ。日が落ち切るまでには設置しないと。行こうか、四包。」
「うん。明日香さん、ありがとねー。」
さすがに大通りはまずいので、脇道に逸れる。裏路地とも呼べるような場所に、丁度良い隙間を見つけ、テントを設置することができた。
夕食とは名ばかりの、罰ゲームのようなミドリムシジュース一気飲み大会が行われた。
「お兄ちゃん、もうちょっとそっち詰めてよ。」
「無茶言うなよ。はみ出ないギリギリだぞ。」
2人で仰向けになって寝転ぶ。結構なスペースのテントを作ったはずなのだが、実際に入ってみると狭かった。寝返りなんて打てやしない。
「そうだお兄ちゃん。横向けになって、腕を伸ばして。」
「ん?こうか?」
言われた通りに動かしてやると、四包は僕の身体で自分の身体を包むように陣取り、僕の腕を枕にしてしまった。四包の背中と僕のお腹が密着している状態で、とても温かい。腕は痺れるが、仕方ないだろう。
「はぁー、お兄ちゃんに包まれてるのって落ち着く。おやすみ、お兄ちゃん。」
「ああ、おやすみ。」
床の状態はお世辞にも良いとは言えないが、歩き続けた疲れのせいか、すぐに夢の世界へと旅立った。
最初に目にしたのは白い空間。その次の瞬間には、見知らぬ屋根があった。
「どこだここは?」
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