20話 風呂
「うわあ。」
夕焼け色に染まらない容器、というか水槽の中は緑色に染まっていた。見るからに不味そうだ。大丈夫かな、この作戦。
「お兄ちゃん...これ、飲むの?」
「ああ、そのつもりだったが...嫌になってきたな。」
いったい何を作っていたのかというと、ミドリムシ。いわゆるユーグレナというものだ。植物のくせに動き回る特殊な生物で、豊富な栄養素を含んでいる。ビタミンやミネラルが多く、人間はミドリムシさえ摂取していれば生きられるだろう。なんて聞いたこともある。
「ま、まあこれで何日かは持つだろう。」
「私、旅するの嫌になってきたよ。」
ともかく、これで旅立ち作戦の準備は整った。今日はとりあえず休むとして、いつ出発しようか。考えながら晩御飯まで済ませる。
「「「「ごちそうさまでした!」」」」
「みんな!今日は風呂に入るよ!」
「やったー!」
喜びを顕にする女性陣。たしかに今まで濡れタオルで身体を拭くくらいだったが、そんなに喜ぶほどか?
「だってお兄ちゃん!お風呂だよ!お風呂!ひっさしぶりだなー!」
理屈なんてものは無いらしい。お風呂を沸かすのに必要な薪やら何やらを運ぶのは男の仕事になるんだが。割と理不尽だと思う。
薪を運び終えて気づく。これ、四包の魔法があれば薪いらなくないか?四包は凍る寸前から蒸発する寸前までの水を生み出せる。それさえあれば苦労して薪を運ぶ必要もなく、毎日だってお風呂に入れると思うんだが。
普通の人の体内魔素量では、水を生成した上で、大量のお湯を沸かすことができないが、四包の魔素量は異常だ。どうにかなるだろう。けれどまあ、用意してしまったものは仕方ない。
「「「さいしょはグー!じゃんけんポン!」」」
今何をしているかというと、沸かす時間を使って入る順番を決めている。あれだけ嬉しがっていた四包が1番最後になった。可哀想に。ちなみに僕は四包の前。僕達兄妹には不運の神でも憑いているのだろうか。
「はぁー、生き返るぅー。」
お決まりの台詞と共に肩まで湯に浸かる。四包ほどではないが、僕もお風呂は好きだ。
「お兄ちゃーん、入るよー。」
返事を聞く前に四包が浴室へ入り込む。タオルを巻いているので目のやり場に困るということはないが、恥ずかしくないのか?
「良いとは言ってないぞ。」
「えへへー、だって待ちきれないんだもん。いいでしょ?」
またもや返事を聞く前にタオルを取り、極力僕に見えないようにして浴槽へと入る。四包の真っ白で透明感のある艶やかな肌が見えて、正直、眼福です。
「お兄ちゃん、1度お風呂に入ったらなかなか出てこないし、ちょっとは後に入る私のことも考えてよ。」
「すまんすまん。」
「あ、あんまり見ないでね。」
「はいはい。」
まったく、うちの妹様はワガママだ。お風呂ぐらいゆっくり入らせて欲しいものだ。四包は僕に背中を向けて浴槽に座る。こうやって2人一緒にお風呂というのも久しぶりだな。
「あぁー、気持ちいいねぇ。」
「おっさんみたいな声を出しおって。」
「だって気持ちーんだもん。」
僕の胸にもたれかかる四包。頭がぶつからないように逸らしてくれているが、それはちょっとまずいぞ。アングルが。四包の控えめな膨らみが見えかけている。脱力モードの四包は気づいていないようだ。思春期の男には、妹とはいえ刺激が強い。
妙なところで妹の成長を感じていると、頭がクラクラしてきた。のぼせてしまったようだ。そのまま前のめりに四包へ身体を預けてしまう。
「ひあっ!お兄ちゃん!どしたの?」
「...」
「お兄ちゃーん。...この頭の角度って、もしかして見えてる?」
「...」
「お兄ちゃんのヘンターイ!」
四包は飛び跳ねるように浴槽を飛び出す。支えを失った僕の身体はお湯に沈んでいく。そこで僕の意識は途切れた。
「しっかりしてお兄ちゃん!おにーちゃーん!」
目を覚ますと、すぐ目の前に四包の顔。後頭部には素晴らしく柔らかい感触。
「ここは、天国?」
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