19話 魔族
「柑那!届けに来てやったよ!」
柑那さんに向かって気安く手を振る少女。この子、柑那さんを呼び捨てにしている。柑那さんは礼儀に厳しいと思っていたのだが、案外甘いのだろうか?
「久しぶりだね、明日香。」
おや?柑那さんも名前の後に「さん」を付けないあたり、相当親しい間柄なのか。でも、こんな10歳くらいの少女が?
「あの、柑那さん。どなたですか?」
「この人は明日香。私の幼馴染です。」
なるほど、幼馴染。そりゃあ親しげなわけだ。...って、え?じゃあ明日香さんっていったい幾つなんだ?
「見ない顔だね。新入り?」
「えっと、この教会で1週間程前からお世話になっている海胴で、こっちは妹の四包です。...失礼ですが、年齢をお伺いしても?」
「女性に年齢を訊くなんて、野暮ってもんだよ。」
そう言ってウインクする。その子供っぽい仕草は様になっている。小学生くらいにしか見えない。
「明日香は私より2,3歳上ですよ。」
「うそぉ?!」
「あーこらー、乙女の年齢をバラすなよー。つまんねーなー。」
「何が乙女ですか。いい年してまったく。」
よく見ると、明日香さんの耳の先は少し尖っている。いわゆる、北欧神話に出てくるエルフというやつだろうか?
「そこの坊やが困惑しまくってるから、説明してあげなよ。」
「そうですね。」
曰く、彼女は「魔族」という種族だという。正確には種族という程ではなく、突然変異のようなものらしい。
変異する理由としては、妊娠した母親が魔素の濃い場所に居続けることで、体内を経由して胎児に渡る魔素が多くなるから、ということだ。
魔素が多くてなぜ耳が尖るのかはよくわからないが、寿命が延び、体内を廻る魔素が増える代わりに、身体の器官が衰え、子供が産めなくなるらしい。
「だいたいどのくらい長生きするんですか?」
「うーんと、普通の人の3倍くらいって聞いたことあるよ。あ、そうそう。これを届けに来たんだった。」
身体のわりに大きなリュックから大きな布を取り出す。いわゆるモノクロカラーで、チェック柄になっている。僕の好きなタイプだ。四包はもっと派手なのが良いらしいんだが。僕らはやっぱり似ていない。
「でっかい布ってこれしかなくてさー。我慢しておくれ、お嬢ちゃん。」
背伸びして四包の頭をヨシヨシしようとする明日香さん。年齢は上だが見た目が伴わないとすごく違和感を感じるな。
「じゃ、積もる話もある事だし、今日は教会にお泊まりしていこうかな。」
「そう言うと思ってましたよ。仕事はいいんですか?」
「んー、まあ大丈夫かなー。」
「明日香さんはどんなお仕事してるの?」
「服屋さんってやつだよ。襲撃前はそれなりに繁盛してたんだけど、今じゃ仕事が少なくてねー。農業の手伝いもしてるんだよ。今日の分は若造どもに押し付けてきてやったけど。」
ニシシと笑う明日香さん。柑那さんの肩を掴んで教会へと入っていく。子どもたちと混ざっても、違和感が働いていない。あれで三十路だぞ?さすが異世界。
さて、第二段階、住の材料は手に入った。組み立てくらい旅先でもできる。
「あとちょっとだね、お兄ちゃん。」
「ああ、あとは食料。さて、どうなってるかな。」
陽のあたる場所に置いておいた容器を覗き込む。
「うわあ。」
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