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ポルックス  作者: リア
ポルックス
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1話 到着

「...どうなってんだコレ。」



 そう呟いて周りを見渡す。ちょうど僕の後ろに街壁のようなものがみえるだけで、それ以外は荒野しか確認できない。

 ギラギラとした太陽が剥き出しの岩肌を照らす中、僕は思考を巡らせる。

 いったいここはどこなんだ?いくら田舎だと言っても、こんな荒野は知らないし、地図にも乗っていなかっただろう。小学生の頃の地元探検で我が家の周辺は完璧に把握している。



「うぅん...おにぃ...ちゃん?」



 四包(しほ)が目覚めた。まだ意識がはっきりしていないのだろう、身体は起こしたものの、頭がフラフラしている。



「おう、御門海胴(みかどかいどう)、お前のマッスルなお兄ちゃんだぞ。」

「その細っちい身体のどこに筋肉があるんやぁ」



 僕としてはおどけて言っているつもりだが、周りから見ると無表情で冗談を言うシュールな絵なのだろう。それが原因で気味悪がられることもあるのだが、寝起きの四包はどんなつまらないボケにも欠伸混じりで付き合ってくれる。

 さて、そろそろ目覚める頃合いか。



「...っ!お兄ちゃんっ!大丈夫!?身体痛くない!?私の不注意でお兄ちゃんまで...」

「大丈夫だよ。妹を守るのはお兄ちゃんとして当然だ。四包こそ大丈夫か?」

「私は大丈夫なんだけど...お兄ちゃん、本当に大丈夫?」

「ああ、何故かどこも痛くない。」

「よかったぁ。ごめんね、お兄ちゃん。」

「ごめんじゃなくてありがとうがいいな。」

「そうだね。お兄ちゃん、ありがとうっ!」



 そう言って天使のような笑みで抱きついてくる。

 ところで、あの高さから落ちて何の痛みもないというのはどういうことだろう。まさか死んでしまったのか?もしかして、ここは天国?ここに四包がいるということは、四包を守れずに?それとも四包は本当に天使だったのか?

 しかし、抱きついている四包の体温も自分の少し速い鼓動もしっかり感じとれる。死んだわけではないだろう。ではどうしたのか。何か僕には予想もできないことが起こっている。うむむ...



「おーい、お兄ちゃーん?」

「んあっ?おう、どうした?」

「どうしたじゃないよもう!さっきからずーっと呼びかけてるのに!」

「あぁ、ごめん、考え事してた。」

「またお兄ちゃんは!考え事してるとなーんにも反応しないんだから!」

「ごめんごめん、気をつけるよ。」



 昔からいつもそうだ。考え事をしていてお風呂でのぼせたこともあった。僕が長時間トイレから出てこなくて四包が...これ以上はやめておこう。主に四包の尊厳のために。



「で、お兄ちゃん。この世界って何だと思う?」

「どうした?哲学か?」

「そうじゃなくて!周り見たでしょ?」

「ん?あ、そういえばここってどこなんだろうな?」

「ここってさ、いわゆる異世界なんじゃない?」

「は?マンガの読みすぎじゃないか?」



 読書好きの僕が毎週のように図書館に行くと、いつも四包がついてきて、子どもばかりのマンガコーナーに陣取るのだ。



「いや、でもその可能性も...」



 あるはずの怪我も痛みもないのだ。僕には思いつかない何かがある。ならば異世界というのもあながち間違いではないかもしれない。



「でしょでしょ!じゃあほら!まずは情報収集だよ!立って立って!」



 楽しそうに僕の手を引く四包。僕は不安しか覚えないのだが。やはり双子か疑わしいほど似ていないな、僕達は。



「ところで四包。」

「なぁに?お兄ちゃん?」

「もしもこの世界が異世界だとして、どうやって帰るんだ?」

「え?帰れないよ?普通のマンガでは。」



 予想外の回答です。てっきり帰る方法があるのかと思ってました。物語の主人公の気持ちがよくわかる。これは戸惑うよな。

 僕には友達すらいなかったし、思い残すことと言えば、図書館の本を読破出来なかったことくらいだ。でも四包は違う。少なくとも僕よりは交友関係が広かったし、部活もしていた。見た目も可愛い。...告白とかも、されてたかもしれない。



「もしここが本当に異世界だとして、四包は前の世界に未練とかないのか?」

「ないよ?」

「だって戻れないんだろ?その...彼氏とかいなかったのか?」

「いないよ、そんなの。私はお兄ちゃんがいてくれたらそれでいいのっ!周りに合わせるのも疲れるしね。」



 四包は照れたように微笑む。兄としては喜ぶべきか悲しむべきか悩みどころだ。四包は僕とは違って表情豊かなのだから、もっと周りの人との人生を楽しんでほしい。

 四包が僕にべったりなのは3年前からだ。四包は父親がいないせいか、ただ1人に依存する傾向がある。僕の前は母さんにべったりだったが、それでも周りと関わりを持てるように、母さんが配慮していた。母さんが死んでから3年間、僕にはそれが出来ていない。

 ...父親がいれば、母さんだって今も僕達のそばにいられたかもしれないのに。



「お兄ちゃん!前!前!」

「へ?ぶべっ」

「あははっ。お兄ちゃん、『ぶべっ』て、あはははっ。」



 気がついたときには街の外壁にぶつかっていた。無意識に変な声が出る。ちょっと恥ずかしい。



「とりあえず入り口まで回ってみよう。」



 壁伝いに歩いていく。体感で5分ほど歩いたところで壁が途切れた。



「どうなってるんだ?」

お読みいただきありがとうございます。

アドバイスなど頂けると幸いです。

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