18話 新風
「やるか、片付け。」
夜の闇の中、月明かりを頼りに、ある程度の片付けを進める。やはり男手が足りず、散々こき使われた。身体が痛い。
「はーっ、疲れた。」
「お疲れ様、お兄ちゃん。からのー、そーいっ!」
四包が僕に抱きつき、そのままベッドへ倒れ込む。四包が軽くて助かった。
...四包も万穂さんのように、僕を母さんの代わりとは思っていないのだろうか。
「なあ、四包?」
「んぅ?なーに?」
「四包はさ、俺のこと、どう思ってる?」
「え?!何、どうしたの急に?!」
顔を真っ赤にしてアワアワする四包。何その反応。いや、可愛いけども。
「え、ええと、その、お兄ちゃんのことは、す、好き、だよ?」
「いや、そういうことじゃなくて。なんというかー、」
思ったような答えが返ってこず、質問を変えようとする。だが、真っ赤になってベッドに蹲り、足をバタバタする四包には聞こえていないようだ。これは立ち直りそうにないな。
「仕方ないな。こら、暴れるなよ四包。もう寝るぞ。」
「これはお兄ちゃんが悪いよっ!」
次の朝を迎え、部屋から出ると、何やらいつもより騒がしい。
「桜介兄ちゃん、顔洗ってー。」
「...」
「わかったわかった、順番な。」
「桜介兄ばっかりずるいよ!私も!私も魔法使いたい!」
寝ぼけた早那ちゃんが、多那ちゃんの顔を洗う桜介君にまとわりつく。香那ちゃんが魔法を使おうとして失敗し、教会の床に水をぶちまけてしまった。
「あーあーまったくもう。おや、兄妹、起きてきたんなら食堂のほうで亜那と浩介を止めてくれるかい?」
相変わらず朝から忙しそうな万穂さんに救援を頼まれる。
「あっ、海胴さん四包さん、この子たちを抑えるので手一杯なんです。調理場で柑那さんを手伝ってください。万穂さんも入らせて良いって言ってました。」
橙と緑の服を引っ掴む千代さんに、調理場へ行くよう頼まれる。なんだこのたらい回し感。
「ああ、あなたたちが来てくれたんですね。それじゃあ、あれの盛り付けと、それから...」
大量の仕事を回されて、四包はもう目が回ってしまっている。対する僕は、母さんを亡くしてからの3年間が生き、四包の分まで順調にこなす。
「やりますね。」
「これでも家事には自信がありまして。」
やっと仕事が終わり、朝食の席を囲む。すごいな、こんなことを毎日しているのか。
「みんな、おはよう!」
「「「「おはようございます!」」」」
「今日からはいつもの仕事に加えて、魔法も教えていこうと思ってる。誰かさんは勝手に練習してたみたいだけどね。」
「ぎくっ」
万穂さんに睨まれた桜介君が視線をそらす。通りで朝、きちんと顔を洗えていたわけだ。ちなみに僕達も勝手にしていたんだが、バレていないようだ。隣で四包が冷や汗をダラダラ流しているが。
というか、魔法の練習ってそんなに必要なんだろうか。四包は案外あっさりやってのけたけど。
そのことを万穂さんに聞くと、「過魔素摂取」直後は、なんとなくやり方がわかるそうだ。魔法をしばらく使わないと、感覚を忘れてしまうらしい。
今日の仕事も終わり、帰途につく。そう言えば、衣服の話をし忘れていた。今はもう反対もされないだろうし、万穂さんに相談しよう。
「万穂さん、教会にある服を、幾つか譲っていただきたいのですが...」
「構わないよ。」
「え?そんなにあっさりと?」
「予想はしていたんだ。旅に出るっていうんだから、服くらいいるだろうってね。大事にしておくれよ。」
「はい!ありがとうございます!」
よかった。僕達が旅に出ることをきちんと認識してくれていたようで。これでまた反対なんかされてはたまったもんじゃない。
これで第三段階はクリアだ。三段階目からクリアするのはちょっと変な気がするが、些細なことだろう。
「海胴さん、丁度、この間言っていた布が届いたようです。」
柑那さんに声を掛けられる。教会の前には大きなリュックを背負った小さな女の子。
「柑那!届けに来てやったよ!」
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