15話 林檎
「なんだあれ?」
向かう先には、教会の7人の子どもたちが元気に屋台をしている。そこまでは普通なのだが、その看板には「りんごあて」とある。「りんごあめ」なら僕も、前の世界で地域の祭りに行ったとき、見たことがある。いったい何なんだ?
「あっ、四包姉ちゃんじゃん。やっほー。」
「やっほー!『りんごあて』ってなーに?」
四包と仲の良い、橙の亜那ちゃんが気付いて声をかけてくる。
「「りんごあて」っていうのはね、私達が作った遊びなの。ここに6等分した林檎が並んでるでしょ?この中から1つ取って食べてみて。」
「じゃぁー、コレっ!」
四包は選んだ欠片を爪楊枝で突き刺し、口へ運ぶ。ひとくち目を噛んだ途端、泣きそうな顔になった。
「なにこれ!すごく酸っぱい!お兄ちゃん!助けて!」
「いや、そう言われても。」
「あははっ、ハズレー!この中には熟してない林檎が混ざってるの。見る人が見ればわかるんだけどね。」
「ううっ、じゃあお兄ちゃん、敵を取って!」
四包に押され、僕も挑戦してみる。ふむ、この綺麗なツヤ、君に決めた!
特有の甘みと仄かな酸味が口に広がる。当たりだな。にしてもこの林檎、今まで食べた中でダントツの美味しさだ。ぜひ製法を知りたい。知って作れるという訳では無いが。
「美味いな、この林檎。」
「でしょ!」
「えー、いーなーお兄ちゃん。口移しでいいから食べてみたいなー。」
「いいわけあるか。」
楽しい時間が過ぎていく。ふと、赤の桜介君が、祭りの光が届かない場所まで、歩いていくのが見えた。
「四包。桜介君がどこかへ行くみたいだから、ちょっと見てくる。」
「はーい。私はもうちょっと子どもたちと話してるよ。」
「了解。」
さて、桜介君を追いかけよう。どうやら教会の裏側まで行ったようだ。
「こんなところで何してるんだい?」
「うわっ!いや!これはその...って、なんだお前か。」
慌てて飛び退く桜介君。お前かって、一応年上なんだけどな。
桜介君がいた場所には、小さな袋が置いてあった。前の世界で女性が持っている「何を入れるんだ?」ってカバンほどに小さい。
「いったい何が入ってるんですか?」
「お前には関係ねぇだろ。」
またそれか。でも、こんなところでこっそりとするくらいだから、バレるとまずいのだろう。
「いいんですか?万穂さんにバラしてしまっても。」
「ぐっ...わかったよ。その代わりに、お前らのことも教えろ。賛美歌のときの取り乱しようは尋常じゃなかった。」
「ああ、あれは万穂さんにも話したんですが...」
僕達には父親がおらず、母親が3年前に他界し、四包がトラウマとも言うべきものを患ったこと。それらを手短に話す。
「へぇ。お前らも苦労してんだな。万穂さんに話したなら、だいぶ心配されたろ?それも他の大人とは段違いに。」
「よくわかりましたね。」
「ああ。あれはそういう人種だ。不遇な子どもを自分の好きな様に育てる。あんなの偽善でしかない。」
「何もそこまで言わなくても。」
「万穂さんに育てられたのは事実だし、感謝もしてる。でもな、育て方が家畜と同じなんだよ。魔法も使わせないし、包丁も持たせない。そんな出来すぎた暮らしはごめんだね。」
「そうですか、その荷物は出ていくための...」
「その通りだ。」
なるほど。僕達とはまた違う考えで、この教会を出ていこうとしているわけか。
「でも、それだけの荷物でどこへ行くつもりですか?」
「俺の、親のところへ。」
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