14話 収穫
「行こうか、四包。」
教会が管理する畑へと向かう。実った小麦が朝日に照らされ、黄金に輝いている。その光景に見とれ、立ち尽くす四包。その髪の白銀との対比がまた美しい。
「絶好の収穫日和だね。晴れてよかったよ。」
「ええ。この綺麗な小麦を刈り取るのは気が進みませんが。」
「生命の最期。美しいものですね。」
今日の快晴を喜ぶ万穂さん。柑那さんも、四包と同じようにこの光景に心を奪われている。
「さあ、収穫だよ!こっちの小屋においで!」
畑の側にはこじんまりとした小屋。鎌でも置いてあるのかと思ったら、黒光りする機械が構えている。前の世界で言う「コンバイン」というやつだろうか。
「ちゃっちゃと終わらせて、あたしたちも収穫祭の準備に取りかかろう。」
サッと乗り込み、電気を通して動かす万穂さん。作業に慣れているのか、あっという間に刈り終えてしまう。刈り終えた麦を、魔法で風を送り乾燥させ、持ち帰った。
収穫の間、万穂さんはお祈りなんてしなかった。これで、万穂さんがテオス教徒ではない、という可能性が高まった。なぜ万穂さんは僕達にそんな嘘を吐いたのだろう?気になるが、まずはやるべき事をしよう。
「千代さーん、この机はどこへ運べば良いですか?」
「あ、それはここにお願いします。」
今、僕達は収穫祭の準備で大忙しだ。なにせ男が少ないので、力仕事にこき使われている。貧弱な読書好きには厳しい。
「お兄ちゃん、大丈夫?」
「お、おう。任せろ。」
子どもたちと飾り付けをしている四包に心配される。兄として、妹にしっかりしたところを見せねば。
そうして迎えた収穫祭。辺りはもう暗い。いつもなら月明かりが照らすのみの広場だが、今は子どもたちの装飾と、近所の方々による屋台の光で華やかに彩られている。
普通に電球のようなものが使われているが、電気が通っている訳じゃない。昔は、国の中心都市から送電されていたそうだが、襲撃によりストップしたらしい。今日だけは体内の魔素を使って電気を灯している。
「お兄ちゃん、あれ!あれ見に行ってみよ!」
一夜限りのイルミネーションに気分が高まっている四包と腕を組み、散策する。斯く言う僕も、無表情の下で心が沸き立っている。そうじゃないと、腕を組むなんて恥ずかしいことはできない。妬みの視線を感じるが、満面の笑みを浮かべる四包の前には無意味だ。守りたい、この笑顔。
「お兄ちゃん!あれね!私が飾りつけたんだよ!」
「え?あれをか?」
視線の先には教会の壁。カボチャの馬車や、お姫様、お城なんかがライトを使って表現されている。こんなものを作ることができるのか、うちの妹は。
「どうだお兄ちゃん!すごいでしょ!」
「ああ。すごいよ。とっても綺麗だ。」
「え、えへへ。」
照れくさそうにそっぽを向く四包。小声で、「その笑顔は反則だよ...」なんて言っているが、そんなに笑えていたのだろうか?
また四包と歩き出す。突然、四包がピタッと止まった。
「お兄ちゃん、あれ食べてみようよ!」
「ああ、いいぞ...いや、待て。待ってくれ。」
悪戯っぽい笑みを浮かべた四包が指差す先には、「野菜たっぷり旨辛鍋」の文字。四包のやつ、僕が辛い物を好まないのを知っていて、敢えてのおねだり。うっかり許可をしてしまった。
嫌がる僕を引きずって、屋台のおじさんに振る舞ってもらう。
「お嬢ちゃん見ない顔だね。彼氏さんと一緒に遊びに来たのかい?」
「はい!そうです!」
「元気いいねぇ。大盛りにしといてやるから、たくさん食べな。」
「ありがとうございます!」
おじさんめ!余計なことを!僕は彼氏でもない!引きずられているが、ちゃんとした兄だ!
僕の抵抗も虚しく、四包にガッチリ掴まれ、椅子に座る。細い身体に反して、僕より力が強いのだ。ちくしょうめ。
「はい、お兄ちゃん。あーん。」
「あ、あーん。」
こうなったらさっさと食べてしまおう。抵抗せずに受け入れる。熱いっ!それより辛いっ!超辛い!水!水!
じたばたする僕を楽しそうに見つめる四包。水くらいくださっても良いのですよ?そんなに良い笑顔をされたら文句も言えないが。うちの妹がサディスティックな件。
後から旨味がこみ上げてくる。辛い物が得意な人には極上の品だろう。現に四包はハフハフしながらも美味しそうに食べている。それに釣られた人たちが、おじさんの屋台に押し寄せてきた。忙しそうなおじさん。いい気味だ。
「お兄ちゃん、あれやってみようよ!」
「なんだあれ?」
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