10話 前進
「さて、食料問題をどう解決しようか。」
昨日の実験結果について、万穂さんに質問をしたところ、普通、魔法で生み出せるのは常温のものだけで、そのとき固体以外の状態のものらしい。炎や雷は物質ではないので、常温かどうかは関係なさそうだ。しかし、四包は水蒸気を生み出すことができた。固体が生み出せないのは変わらないが、温度の変化は魔素量に依存するようだ。
また、生物を生み出せないのではなく、有機物を生み出せないということらしい。
さて、本題の食料問題だが、これが全然進んでいない。作戦では食料の細かいところまで決めていなかったのだ。詰めが甘すぎる。こんな調子では自立なんていつになることやら。
「はぁ、どうしたらいいんだろう。」
「ほんとにね。植物みたいに光合成でもできたらいいんだけど。」
「植物、光合成...でも人間には光合成をする器官なんてないし、そもそもそれを補うために食事を必要としているわけで...栄養さえ摂ることが出来れば...」
植物では持ち運びができないし、湖のそばでしか育たない。動物なんて植物があってこそのものだ。現実的な案が思いつかない。
「栄誉ドリンクで補給!とかできたらいいのにね。」
「栄誉ドリンク?...それ、ありかもしれない。」
「え?うそ?」
早速実験だ。四包の魔法でコップに水を入れてもらい、その中に湖から採ってきた水草を入れ、これで実験の準備は完了だ。あとはこれを日光に当てて放置しておく。また数日経ったら続きをしよう。
「よし!これで食料問題が解決するかもしれない!」
「よくわからないけど、やったー!」
これで作戦の第一段階はクリアだ。続いて第二段階としては、居住スペース、いわゆるテントを作ろうと思う。教会を出た後は、特に当てがある訳でもないので、しばらく向日葵区画を旅することになるだろう。毎日都合良く泊めてもらえるわけがない。というわけで、雨を凌げる程度のテントを作ろう。
「さて、どうやって材料を集めようか。」
本で読んだ、狩猟民族の使うテント。あれの材料としては、角材5本ほど、ロープ、布があればできるわけだが、ロープは代用が効く。そのへんの草を編み込めばいいだろう。そのための知識は教わっている。伊達に年寄りばかりの田舎で過ごしていない。
「ねぇお兄ちゃん、あの木って1本くらい切り倒してもいいかな?」
「ん?まあ何も実っていないようだしいいんじゃないか?」
「よし!じゃああれを角材にしよう!」
「...は?」
チェーンソーも、斧すらもないというのにか?ついに妹の頭が壊れたようです。この世界には精神科医はいらっしゃるのでしょうか。
四包はおもむろに手を木にかざし、呟く。次の瞬間、台風かと思うような強風が吹き荒れ、またその次の瞬間には、ゆっくり倒れていく1本の木。綺麗な切り株もできている。嘘だろ?何しやがった?
「どうだ!」
「どうだじゃない!何をしたんだ!」
「風でカッターを作ってみた!」
「お、おう。」
いわゆる鎌鼬というやつか?実際には不可能らしいぞ、あれ。イメージの力って凄い。
ともあれ、これで木材も手に入った。倒した木をさらに6本ほどに分けてもらう。残りは布だが、誰かに貰うしかあるまい。さすがに布の作り方なんて知らないしな。
「誰か大きい布を持ってないだろうか。」
「何に使うんです?そんなもの。」
教会へ戻る途中、独り言を柑那さんに聞かれてしまった。これから自立しようとしていること、そのためのテントに必要なことを話す。
「いい心がけです。そういうことなら、私に当てがあります。数日待ってください。」
柑那さんは元々僕達の居候に反対だったので、嬉しそうに協力してくれる。どうやら布の方もどうにかなりそうだ。
これで自立作戦の第二段階もクリアできる。現在、食と住は当てが見つかりそうだ。残りの第三段階、衣服。これは布と針と糸さえあれば縫ってやれるのだが、手っ取り早いのは教会からもらうことだろう。これも柑那さんに頼んでみようか。
「あの、柑那さ...」
〜みんながいつでも そばにいる〜
歌が、聴こえる。
〜いつだって どこだって ひとりじゃない〜
懐かしい、この曲は...
「母さん?」
お読みいただきありがとうございます。
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