9話 子供
「今日も頑張ろう。」
朝、四包が魔法を使いこなせるようになったことで、昨日までより少しだけ早く顔を洗う。
ところで、今の僕達兄妹の服装はというと、四包は大人たちの服を借り、ぶかぶかのTシャツに、裾を折ったジーンズのような素材のズボンだ。今はズボンのことをパンツと言うのだったか?田舎者にはわからない。僕の服装は、大人といえば女性しかいないこの教会になぜか置いてあった男物のシャツとズボンを万穂さんが適当に選んできたらしい。
「どうしてこんな服が?」
「それは...」
梓さんに訊ねると、悲痛な面持ちで黙りこんでしまった。迂闊だった、これは訊ねてはいけないことだったか。
「あ!その服!陽介兄ちゃんのだ!」
紫色の服の少年、宗介君が、僕を指差して寄ってくる。宗介君は子どもたちの中で一番幼い。5歳児で真っ黒な髪をしている。黒い髪で言うなら梓さんと柑那さんもだ。
この教会の7人の子どもたちは、それぞれ赤、橙、黄、緑、水、青、紫の虹色7色の服を着ている。遠くから見てもわかりやすいように工夫しているのだという。
梓さんは、一瞬悲痛そうな表情を強めた後、いつもの大人びた笑みを作り、宗介君に注意する。
「こら宗介、人を指差すものじゃありませんよ。」
「ごめんなさーい。」
梓さんは優しそうな外見をしつつ、子どもたちを叱るときに大人の中で一番怖い。そのため、やんちゃな子どもたちもみんな梓さんには逆らわないのだ。
「梓、こっち手伝っておくれ。」
「わかりました、万穂さん。」
万穂さんに呼ばれ、梓さんは食堂の方へ歩いていく。その寂しげな後ろ姿を見送っていると、宗介君に対して声が掛けられた。
「こら宗介!梓さんに陽介兄ちゃんの話は駄目だって言ってるだろう!」
「うん...」
今、宗介君を叱っているのが黄色の香那ちゃん。子どもたちの上から3番目で、9歳。茶髪の活発な女の子だ。万穂さんと千代さんも茶色がかった髪をしている。
「ねぇ、陽介さんって...」
「よそ者には関係ねぇだろ!」
そう僕に噛み付くのは赤の桜介君。年齢は僕より5つ下の12歳。この教会では長男のような立場だ。彼は最初に自己紹介をしたときから僕に対して、強い警戒心を持っているようだった。曰く、「無表情で何を考えてるかわからない。」 だそうだ。自分でもわかっているが結構傷つく。
2度と地雷を踏まないようにと陽介さんとやらについて教えてもらおうかと思ったのだが、そう簡単にはいかないようだ。
「陽介兄ちゃんはね、梓さんの彼氏さんだったんだよ。」
「あ、こら、早那。」
僕に教えてくれたのは水色の早那ちゃん。下から3番目の女の子。桜介君と同じ白い髪の7歳。白い髪というのは、こちらの世界では珍しいわけではなさそうだ。
「だった」ということは振られたりしたのだろうか。それとも既に亡くなられているのか。どちらにせよ、大切な人を失う辛さは僕もよくわかっている。無闇に掘り返さないほうが良い。
「教えてくれてありがとう、早那ちゃん。」
「えへへ。」
「...」
僕が早那ちゃんの頭を撫でるのを、無言、無表情で見つめる青の多那ちゃん。すごく親近感が湧く。6歳で黒い髪をしている。
橙の亜那ちゃんと緑の浩介君は食いしん坊で、一足先に食堂へ行ってあわよくばつまみ食いをしようとしているようだ。ちなみに、2人共黒い髪をしている。
「「「「ごちそうさまでした!」」」」
朝食が終わり、仕事の時間を迎える。今日、子どもたちはお休みで、教会の前の広場で遊んだり、中で本を読んだり、気ままに過ごしている。本と言っても、置いてあるのは絵本がメインだ。さすがの僕も読書好きといえど、絵本に心を奪われるほど純真無垢ではない。そんな時期はとうに過ぎ去った。まあ、もしそうであったとしても、仕事がある僕達は本に触れられないわけだが。
本日も牛の世話だ。生物と関わる以上休みなどない。今日は四包も慣れ、昨日よりも早く終わった。待ちに待った実験タイム、もとい休憩時間を迎える。
「さて、食料問題をどう解決しようか。」
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