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ポルックス  作者: リア
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0話 転移

「はぁ...そろそろ限界か。」



 薄暗いリビング。僕は一人、息を吐く。

 何が限界かと言うと、お金だ。母は3年前に他界し、父は僕達が生まれてすぐ居なくなったらしい。この家には双子の妹と僕の2人で住んでいる。

 今までは両親の遺産でなんとか生きてこられた。



「どうしたものか...」



 バイトでも探そうか。しかし無表情な僕には接客は不可能だろう。かといって機械の扱いも慣れていない。パソコンなんて買うお金は無いのだ。パソコンが普及した今、事務も難しいだろう。体力も人並み程度だ。



「はぁぁ、僕に取り柄なんてあるのだろうか。これじゃあバイトなんて...」

「お兄ちゃんっ!」

「うわっ! ...なんだ、驚かすなよ。」



 2階で寝ているはずの妹、四包(しほ)がいつの間にか1階にいる僕のすぐ後ろに来ていた。



「お兄ちゃんは賢いんだから、バイトなんてしないで勉強しないとダメ!」

「でもそれだとお金が...」



 照明に照らされて銀色に輝く髪を振り乱して、四包はイヤイヤと首を振る。



「私がバイトして稼ぐ!」

「それこそダメだ!四包には弓道があるだろう!」



 四包は弓道部に所属している。その腕は確かだ。練習を見学に行ったとき、的の真ん中を射ているところを見た。弓道だけじゃない。四包はどんなスポーツでも上手くやってのけるのだ。



「そんなのよりお兄ちゃんの勉強のほうが大事!いっぱい勉強して、良い大学行って、幸せになるの!」



 こんなやり取りを何度しただろうか。お互いにお互いを思って、それで自分を犠牲にしてまで相手の幸せを願う。でもそれだけじゃない。僕は、兄として、妹に養ってもらうのだけは絶対に嫌だ!



「いいや!僕は明日からバイトを探す!」

「お兄ちゃんっ!」



 四包を振り払って、僕は2階への階段に向かう。四包がまだ何か言いたそうにしていたが、無視して階段を駆け上がる。僕の部屋でベッドに倒れ込み、泣き出しそうな四包の顔を忘れようと、強く目を瞑り、眠りに落ちた。




 翌日。

 窓から差す小さな光で目を覚ました。

 昨日の四包の顔を思い出して、微睡んでいた意識が一瞬で覚醒する。



「...少し、強引だったかな。」



 いつかはこうするべきだと思っていた。しかし、家計を気にして焦っていたのかもしれない。もっとよく話し合うべきだった。



「ひゃっ!?」 「うおっ!?」



 どう謝るか考えながら部屋のドアを開けると、同じく起きてきたらしい四包と鉢合わせた。心臓に悪い。



「お、おはよう。」

「う、うん、おはよう。お兄ちゃん。」



 ぎこちない挨拶を交わす。



「えっと、その...ごめん。」

「え?」

「四包の話を聞かないで勝手に決めちゃって...」

「そ、そんな、私のほうこそ...お兄ちゃんは私のことをちゃんと考えてくれてたのに、私、我儘ばっかりで...」



 しばらくの沈黙。



「決めたよ。僕はバイトをする。だから応援して欲しい。お願いできるかな。」

「うん...ありがとね、お兄ちゃん。頑張って。」




 その日の夕方。



「落ちた...」



 勢いよく四包に宣言しておきながら、このザマだ。母さん、どうしてこんな無表情な子を産んだの...

 僕達は、歩いて2kmほどの高校に通っている。町の周りは山に囲まれていて、まさに田舎という感じだ。母方の実家は昔、この辺りで地主をしていたらしい。実際僕は今、母さんの実家が持っている山に立ち尽くしている。小さい頃から、気分が沈んだときはよくここに訪れるのだ。その度、母さんにこってり油を絞られたものだ。



「お兄ちゃん、やっぱりここにいたんだ。その様子だと、落ちたんだね。」



 秋めく山の、小さく開けた見晴らしの良い場所。赤い山が夕日に照らされ、磨いた銅のように輝いている。

 僕を見つけた四包は、後ろから抱きつき、頭を撫でてくる。仄かに感じる温かさ、柔らかさが心地いい。

 妹に慰められる兄。情けないな。



「気にすることないよ。また次があるって。」



 僕の肩に顔を乗せて、耳元で囁く。くすぐったい。四包は身体を離し、僕の前へゆっくりと歩いて、振り向く。銀の髪と銅の景色が目に眩しい。



「帰ろ、お兄ちゃん。たまには私が晩御飯作ってあげる。」



 そう言って僕と目を合わせたまま後ろに歩き出す。



「おーい、ちゃんと前向いて歩けー。」

「ひゃっ!?」



 言わんこっちゃない。木の根に躓いてコケそうになっている。って、その先は...!?



「四包っ!」 「お兄ちゃんっ!」



 四包が転んだ先、そこは不自然に開いていた深さ数メートルの大穴だった。咄嗟に四包の手をつかむが、バランスを崩してそのまま落ちる。

 まあ、この高さなら死ぬことはないだろう。

 背中に響く鈍い音と共に意識を手放した。




 意識がだんだん浮き上がってくる。

 目を覚ますと見えるのは青空。あれ?確か夕方だったような...

 首を捻ると隣には四包。よかった、無事みたいだ。安心して身体を起こすが、不思議と痛くない。しかし、そんなことは気にならないほどの光景が広がっていた。

 ...荒野だ。起き上がった視界には荒野が広がっている。



「...どうなってんだコレ。」

お読みいただきありがとうございました。

アドバイスなど頂けると幸いです。

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