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白サク その3


***


ヴォルザビス第一学院。

 

ヴォルザビス国内の教育機関の中で、設備・実績・難易度を含めて1番目に数えられる国内一のエリート学院。

中等部三年、高等部三年で中高一貫の六年制ではあるが、定期テストで赤点を取れば即退学、途中からでも試験に受かれば編入可能、といった実力主義システムのため、入学時と卒業時の顔ぶれが同じという事はほとんどないといわれている。


また、敷地内には、全国各地から集まった生徒のための宿費全額免除の寄宿舎が存在し、実際に生徒の大半がそこから通っている。さらに、奨学金制度も充実しており、定期テストで学年十位以内に入れば、一年分の学費が免除される。




「――――もう、なんて素敵なシステム!!」

「・・・・・・エミ、正直に言え。お前ケン兄にもらったお金がもう残ってないんだろ?」

 

―――春が来ていた。その証と言わんばかりに、校庭の周りには桜が咲き誇り、蝶々が舞い、気温も随分と暖かい。

 

だが、ベンチの右隣に座る幼馴染の視線は心なしか冷たい気がする。


「何よその疑わしげな眼は。別に無駄遣いしたわけじゃないってば。盗まれたのよ。三か月くらい前に」

「っはあ?! 誰に?!」

「それがわかってたらとっくに取り返してるって」

「なんでそういうことすぐに言わないんだよ!?」

「言ったらどうにかなるわけでもないでしょ?」

「なんなくても言え! 一大事だろうが!」

肩をすくめてごまかすエミに、ユウキは盛大にため息をついた。


「警察には?」

「言うわけないでしょ。お兄ちゃんに言われたし」


警察を頼るな、と。


「だよな・・・・。どうすんだよ?」

「大丈夫だって。全部盗まれたわけじゃないし。もしものために持ち歩いていた十分の一は盗られなかったから」

「んなにたくさん持ち歩くなよ。それはそれで危ないだろ。ったくお前は、金運がないんだか金銭感覚がおかしいんだか」

いやどっちもか、と再びため息をつくユウキ。

「そんなにため息ばっかついてると幸運ににげられるよー?」

「すでに金運ゼロに等しいお前よりはましだ」

「だからさあー、ここに来たんじゃん? 万事オーケーじゃん? もっとポジティブに考えようよー」

痛いところを何度も突かれていじけるエミ。だが幼馴染は容赦などしてくれない。

「お前が最初の中間テストで学年十位以内に入れるっていうならポジティブに考えてやる」

エミはどきりとする。

ズバリそこが問題だ。地方の学校で多少成績が良いほうだった、というだけのエミが、この第一学院で上位になれるという保証はない。現実的に言うと、難しい。

ちなみにユウキのほうはというと、学費全額免除の優秀な生徒である。


「やっぱり、お金払えなくなったら退学?」

未成年の女の子をはたらかせてくれる仕事場はそうないため、ここを失うとエミは行き場を失ってしまう。

「知るか。ここに通っている生徒は大半が金持ちだからな。金が足りなくて退学ってのは、今まで聞いたことがない」

ユウキが答えた。なんだか悲しくなってきた。

「どうせわたしは貧乏ですよーだ」

エミは唇を尖らせる。ユウキが何か言いたげな目で見てきたが、気づいてないふりをしておいた。その時、



「おっはー」



突然のあいさつに二人同時に顔を上げると、エミの知らない少年が駆け寄ってきた。


「久しぶり、ユウキ!元気してた?なになに、彼女?お前ついに口説かれちまったのか?」

ユウキの肩をがしっと掴んで揺さぶる少年に、ユウキは「なんで、俺が、」と、途切れ途切れに返す。

「え、じゃあお前から・・・?」

「まず彼女じゃねえって。前に話したろ?幼馴染のこと」

「ああ、確かに」

納得したらしい少年は、改めてエミに向き直って一礼する。

「ユウキの友達のカリヤといいます。いつもユウキがお世話になってます」

その台詞を言うべきなのはこっちじゃないのかなあ、と心の中で呟きながら、こちらの自己紹介もする。

「ユウキの幼馴染のエリカです。よろしくお願いします」

「おう、よろしく!」


「それよりカリヤ」

挨拶を終えたところでユウキが間に入る。

「見てきたんだろ、クラス分け。どうだったんだ?」

まあな、とカリヤがうなずく。

「残念だったな、ユウキ。お前は3‐Aで、クラスの女子の大半が、クラブのメンバーだ」

カリヤが心底同情したような表情で告げた。とたんにユウキの表情が凍り付く。


「クラブって?」

「ユウキ様ファンクラブだよ。中等部の女子なら、四人に一人は所属してるだろうな」

エミが聞くと、カリヤは耳打ちで教えてくれた。

「そういえば、エリカってことは、あんた、シリロス・エリカか?」

「えっ」

何で知ってるの?そう聞く前に、カリヤが理由を明かした。

「クラスの名簿に一人去年見かけなかった名前があったんで覚えてたんだ」

「それって、同じクラスってこと?」

「イェース! でも、俺たちはAじゃなくてC組だけどな」

つまり、ユウキとは違うクラスということだ。

まあ、そこは問題ないだろうな、と、フリーズしたままの幼馴染を見つめる。


「ユウキ、ファンククラブなんてあるんだ?」

「俺は知らない。勝手に作られたんだ」

ようやく解凍したらしいユウキがため息をつく。

「あ、カザンが呼んでる。ってわけで、じゃあなっユウキ! エリカも、また明日、教室でなっ!」

「じゃあな」「また明日」

 来た時と同様、慌ただしく去っていくカリヤを見送りながら、ユウキが聞いた。

「お前、あいつと同じクラスなのか?」

 エミはうなずいた。

「そうみたい」

「でもなんか安心したなー。もっとエリートって感じの人ばっか通ってるのかと思ってた」

「まあな。・・・あいつの場合は、血筋だと思うけど」

ぼそっと呟くユウキ。

「血筋?」

「あいつだけじゃないって意味だ。それに、エリートっていうならあいつも相当だぞ。ああ見えて有名な貴族の長男だし、成績優秀者にもはいってる」

「え、うそ、何位?」


「二年の時の総合だと、学年で6位だ」


「すごー」

エミは感心して、カリヤの去った方を見つめた。




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