猫の目に映るもの
僕は猫を2匹飼っている。
いや、正確には預かっていると言ったほうがいいだろう…。
その猫達は人懐っこく僕の両足にすり寄って来ていた。
なぜ預かったかと言うと、飼い主が行方不明になり、たまたま隣近所だったのが僕の家で、他に近所付き合いもしていなかったのでやむなくと言う感じだ。
警察も親戚からの依頼で捜査していたが、なかなか状況が見えてこない。
そんな経緯から僕は猫達を飼っているのだが、猫達は飼い主がいなくなった事に何かを感じていないのだろうか?部屋中元気に走り回っている。
おもちゃで遊んであげたこともあった。
そんな事が数日続いたある日、いつものように猫じゃらしで遊んであげようと猫達に近づいたが、突然猫達は僕に対して威嚇し始めた。
何故なのかは分からない。
尻尾もボンボンに膨れ上がって立っていた。そして逃げるのだ。
何が何だかわからなかった。
今まで何ともなかったのに何故突然逃げるようになったのか…。
しばらくは様子見して見る事にした僕は、餌やり等以外では極力近づかないようにした。
しかし猫達は僕が近づくだけで逃げて行く…。
分からない。
何故?
疑問符だけが頭に浮かんだ。
そんなことがあって数日後、いつもの様にすり寄って来てくれるようになったのに、また同じことが起こるようになってしまい、僕は途方に暮れた。
この部屋には僕達しかいないのに何故こんなに威嚇してくるのか?
まさか僕の顔を忘れたとか?んなわけないか。毎日顔合わせてるからな。じゃあ何だ?家族がたまに来るからビビってるのか?だとしても家族がいる時には特に変わった行動はしていなかったはず…。じゃあ何?何か見えない何かを感じ取っているってことか?それは…何?
パッと振り返って辺りを見回して見たが特に何も変わったところはなさそうである。
もしかして目には見えない何かか?
霊…とか?
マジ勘弁。
僕は信じてないけど万が一でも出たとしたら怖くて震えるだろう。
でも見えないんだよ?わかるか!
それでも猫達は僕の方に対して威嚇するのをやめない。僕がいる場所が問題なのか?
僕は場所を移動して様子を見る事に。
すると甘えた声で近づいて来るではないか。
じゃあ、何?さっきいた方には何かがいたって事?
じっと見て見ても特に何も変わったところはない。
分からない…。
ゾクっとした。
もうそちらへ行く気にはならなかった。
その時ガタッと突然音がなった。
何かがぶつかった音?!
何に?
よく見て見ると本棚の本が傾いていた。
たまたまかそれとも偶然か…それでも恐怖を増長するには申し分なかった。
心臓がバクバクいっている。
このバクバクは何に対してなのかは分からないが、怖いと思ったのはこれが初めてだった。
電球が突然チカチカと光り始めた。
僕は怖くてその場にしゃがみ込んで立てなくなっていた。
「何なんだよ。一体?!」
独り言が大きいのは怖さを隠すためだ。
ブツブツと喋りながら鼻歌なんかも歌っている。もう何でもありだ。
それからは部屋の1箇所は近づかないようにしている。正直怖いのだ。
神社に行ってお札を買ってきて今は部屋の隅に飾ってある。神頼みだなこりゃ。
猫達は今は落ち着いている。
よかったぁ〜。
にしても飼い主は一体どこに?
行方不明になってからもう2週間が立つ。
早く見つかってくれないとと切に願う。
それから1週間が経った頃、ようやく捜査線上に1人の男性が浮上した。
飼い主と仲がよかった男性だ。
何か知っているのかもしれない。
期待をして向かったが、そこで驚きの事実を知ることに。
「すみません。私が彼女を殺しました。毎日が地獄で苦しい。もう生きていたくありません。」
そう書かれたパソコンが押収された。
男性はその場で首を吊って死んでいたのだ。
じゃあ、彼女はどこに?
部屋中をくまなく捜査していた警察官の1人が床板がずれている箇所があるのに気がついた。慌ててめくって見るとそこにはいなくなった彼女の亡骸が折りたたまれるように入れられていた。
そのことを知らされた僕は猫達をどうしようかと悩んだが、そのままうちで飼うことにした。
あとでわかったことだが、彼女の死体は僕が猫達から威嚇を受けていた場所と同じ方角に埋められていたと聞かされた時にはゾクっとなった。まるで知っていたかのような感じだ。それとも彼女が自分で現れたのか…。
今となっては分からない。