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モブライフを、君に  作者: カナレイモク
一章
6/54

(6)初依頼?


 フラワータートルに攻撃を仕掛けて、十分ほど経ったであろうか。

 危機的状況とは言わずとも、ちょっとした事態に陥っていた。 

 ある意味記念すべき一匹目との戦いは一瞬で終わった。

 取りあえず弱点など分からないので、堅そうな甲羅を避けナイフが通りそうな首元を狙ったところ、一撃でフラワータートルは動かなくなった。

 刺さった感触はあるが、血は出ない。

 スプラッター的な要素が無かったのはラッキーだった。

 なんだ、雑魚モンスター相手なら俺もやれるじゃないか。

 と、安心したのも束の間。

 倒したと思っていたフラワータートルは、僅かに動くような行動を取った。

 ここで思い出したのだが、モンスターは完全に息の根を止めた場合魔魂札(カード)を出して絶命する。

 魔魂札(カード)が出てこない。つまりそれは、フラワータートルが存命だということ。

 若干抵抗はあったがそのままにしておく訳にもいかないので、完全にとどめをさそうとして再度首元を狙ったナイフが、今度は刺さらない。

 フラワータートル特有の能力のせいであろうか、と疑い何度か試していると時折ナイフが首元の肉に刺さる。けれど、倒すに至らない。

 ひょっとするとこれは、武器が悪いのか。アムカも拾ったと言っていたし、ガタが来ているのかも。


「マサヨシさん! まわっ、周りを見て下さいっ!」


 シロアの悲鳴に顔を上げると、四方に別のフラワータートルが集まってきていた。

 三匹のフラワータートルに包囲されていてることに気づき、流石に焦る。 

 各個撃破すべく一匹ずつ首元を狙った一撃を繰り出すと、三匹とも動かなくなった。

 が、少し経つとやはりと言うか、三匹とも身じろぎを始め出す。

 そうこうしているうちに、どこから現れたのかまた別のフラワータートルが現れ、近づいてくる。

 そしてまた討伐を繰り返していると、気が付けば俺の周囲にはもぞもぞしながらも倒しきれないフラワータートルの群れが互いに重なり合いちょっとした壁が出来上がってしまった。


「こいつら不死身とかじゃないよな、全っ然死なないんだけどーっ!」

「そんなことないです! フラワータートルは弱いモンスターです、こんな耐久性はありませんーっ!」


 いや、もうちょっと早く抜け出せよ、と自分に突っ込みを入れるが後の祭り。

 シロアとは完全に隔離された状態。現在は新たなフラワータートルが現れないので、これ以上圧迫されることは無いのだが、もう何十匹いるのかも分からない群れに囲まれているこの状態は軽い恐怖だ。


「シロア! 援護してくれ!  殺される気はしないんだけど、すっげえ怖い!」

「無理ですー! 依頼をお願いするのに夢中で武器を忘れてしまったんですー! ごめんなさい!」

「くそったれー!」


 救援は望めないらしい。さあ、どうしよう。

 ナイフでの攻撃では倒しきれない。

 しかし、殴ったり蹴ったりでどうにか出来るとも到底思えない。

 この状況を打破できる可能性を探して、何か無いかと思考を巡らせてみるしかない。

 こうなったらベルトで殴ってみるか、と腰に手を当てた時点で、セフィアに返して貰った魔晶石(マジックジェム)の存在に今更ながら気が付いた。

 これが有ったか、と言うよりはもうこれくらいしか無い。

 願わくば攻撃手段であってくれと、魔晶石(マジックジェム)を握りしめながら叫ぶ。


「今から魔晶石(マジックジェム)を使うけど、正直何が起こるか分からんっ! シロアは 避難しててくれ!」


「ええっ? わ、分かりましたーっ!」


 シロアの返答から、ゆっくりと脳内で二十秒ほど数える。

 セフィアは念じるだけでいいと言ったが、実際はどうなるんだろう。

 そう思いつつ、フラワータートル達(こいつら)をぶっ飛ばせ、と念じるとフラワータートル一匹一匹に、図形みたいな物が浮かび上がると同時、空中に魔法陣のような物が浮かび上がる。

 どうやらこれがターゲットカーソルと魔法の発動ポイントか。

 変なところだけゲームっぽいが、分かりやすくて良い。


「食らえっ!」


 魔晶石(マジックジェム)が一瞬光ったかと思うと、粉々に砕ける。

 そして、その場にいるフラワータートル全部に対し、空中に描かれた魔法陣から魔晶石(マジックジェム)と同じ青い輝きが降り注ぐ。

 べごん、と鈍い音を出してフラワータートルのいた場所の地面が陥没した。

 見たこともあるその光景は、アムカの使っていた重力を操る魔法の痕跡に酷似している。

 相変わらずな威力を目の当たりにして、腰が抜けて座り込んだ。

 これ、一つ間違えていたら俺ごと範囲に入ってたんじゃねえのか。そう思うと、背筋がぞっとする。

 危ねえ。自分の使った魔法で死亡とか、笑い話にもなりゃしない。


「ま、マサヨシさん、生きてますか?」  


 慌てたようなシロアがこちらに近づいてきたが、穴を越えられないためその手前で止まる。

 確かに底が見えないって程ではないが、少し深いな。

 取りあえず中に浮いたままの魔魂札(カード)は忘れずに回収、腕輪に収納する。


「な、なんとか……」


 正直あせったが。今はアムカに感謝だな。


「えぇっとぉ……どうやって合流しましょうか?」 

「あ」


 しばし二人して悩んだ結果、勇気を出して飛び越えるということになり、実行。

 ギリギリ飛び越えることに成功した。

 きっとシロアの支援効果のおかげだな。魔法万歳。

 多少アクシデントはありつつも、シロアの方は目標を達成できたらしく手持ちの鞄には治癒薬の材料とやらが必要量確保されていた。

 そこで買い物帰りの主婦かな、と思った俺の頭は正常だ。

 シロアの持った鞄の中に入っているのは見たまんま、俺の知っているナスやらジャガイモやらニンジンやらの野菜だ。色まで同じ。

 念のために確認したが間違いなく治癒薬の材料だそうで、そのまま食べる類のものではないらしい。

 カレー作るんじゃねえんだぞ。

 と言うか、品種の違う野菜が同じ場所で取れるってのはどうなんだ。農家の人に謝れ。

 その後釈然としないまま、町までシロアと歩いていき任務完了。

 町に着くまでが依頼です。

 ちなみに腕輪に収納してしまったフラワータートルの魔魂札(カード)をどうやって分配しようかと尋ねたところ、全部貰ってくださいとのこと。

 一度収納した魔魂札(カード)のパーテイ分配はギルドで行えるらしいが、貴重な魔晶石(マジックジェム)を使わせてしまったこともあり、本当に僅かではあるが足しにして欲しいとシロアに言われたからだ。

 貰い物なんで、そこまで気にしていないのだが、まあそういうことならと遠慮なくいただいておくことにする。


「ごめんなさい、道具屋の人が待っていますのでここで失礼します。今日は本当にありがとうございました。報酬は後日必ず払いますのでっ!」


 そう言ってフィル=ファガナの入り口に着くなりシロアは走り出した。


「おう、気をつけてな」


 急いでいるようだし、引き留める必要もなかったのでシロアに対して手を振る。 

 よろめきつつ走っていくシロアの姿を見送った後、さて何をするんだっけか、と頭を捻って気づく。


「あ……宿の紹介」


▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼


 なんとか、と言っていいのかどうか、結局足を使って歩き回った結果、空き室のある宿を発見。

 外装は少し古いものの値段も一日千ロギン程度であり、朝食付きでこれは無茶苦茶お得だと、即決。

 もっとも風呂が無く町にある公衆浴場を使用しないといけないとのことだったが、俺としては風呂という概念が流通していること自体に歓喜したので問題なし。やったぜ。

 荷物と言うほどの持ち物も無いので、部屋の鍵を貰った後、もう一度町に出ることにする。


「じきに日も暮れます。お気をつけて、いってらっしゃいませ」


 柔らかな物腰で言いながらお辞儀をする初老の男性。

 礼儀正しく整然とした様は、宿屋の主人っていうよりか執事のようだ。 

 ヴィルダンスと名乗った老人は、自分自身で宿の主であることを断言していたのでその感想はすでに否定されている。

 何を隠そう、路地裏をさまよっていたところで声をかけてくれたのもこの人だ。

 身なりが良いので上品な雰囲気が強いが、タキシードの上に着ている猫のアップリケ付きエプロンが少し気になる。

 それはそれとして、夕暮れ時。夜が近づく町を出歩くのにはそれなりの理由がある。

 可及的速やかに解決しなくてはならない出来事がある。そう、装備だ。

 着ている物は一般的な衣服。弱小モンスター一匹倒せない俺の攻撃力は守護者をやっていこうとするこの先、致命的な問題ではないか。

 

「すいませーん、ここで武器の鑑定をしてくれるって聞いたんですが」


 それらしき店を道行く人に尋ねつつ、とある武器屋へと入る。


「おう、初めて見る顔だが、お前さん守護者かい?」


 やたらでかい声で答えながら店主らしき男性が、店の奥から顔を出す。

 ギルガほどの長身に、スキンヘッド。

 そこに厳つい表情と来たら、いかにもな武器屋のおやっさん、といった感じだ。

 実際の物腰は柔らかく、こんな時間だというのに愛想も良い。


「今日初依頼を受けてフラワータートルと戦ったんだけど、倒しきれなくて……武器を見て欲しいんだ」

「ほお、武器の具合かどうかは知らんが、次の依頼のために準備するその姿勢は評価してやる。どら、見せてみろ」


 店主に見えるよう、カウンター上にナイフを置いた。


「鑑定には二千ロギン前金で貰うが、構わないな?」

「ああ、待っている間に防具も見せて貰っていいかな? この服、もうぼろぼろなんだ」

「ならそこにあるやつなら一つ百ロギンで構わんぞ。サイズは自分で合わせろ。んじゃ、鑑定させて貰うから少しの間借りるぜ……っと、やけに重い短刀だな」


 店主は首をかしげつつも、店の奥に引っ込んでいった。

 俺はと言うと、箱に詰められた衣服を漁る作業に入る。男の着替えなど誰も見たくないだろうが、着替える場所もないので店中ながら失礼してこの場で着替えさせて貰うことにしよう。

 やはり守護者用のものなのか、サイズがでかい物が多い。

 ズボン類は裾を折りたたんでどうにかなるな。

 シャツ関係は、一枚だけサイズの合う物があったので拝借。

 上着は……なるべく短めのフード付きマントで代用することにした。

 これはこれで異世界っぽさがあり、気に入った。

 店主が戻ってこないので触れられる範囲で長剣だの槍だの、小さめの斧だのを手にとっては見たのだが、どれもこれも重過ぎて使えそうにない。

 そのうち諦めて椅子に座り込み、着ていた服をどうしようかなどと考えていた頃、ようやく店主が戻ってくる。何やら微妙な顔つきだが。


「鑑定は終わったが……ってなんだ、兄ちゃんここで着替えちまったのか」

「すいません、とっとと着替えたかったんで。あ、料金は着替え料混みで払わせて貰います」

「いや、そりゃ構わねえが。それより、このナイフの鑑定が終わったんだがこりゃあひょっとしたら神具(ロストウェポン)かもしれねえ。すまんが、ここで出来る鑑定ではそこまで詳しくは分からなかった」

神具(ロストウェポン)?」


 店主によって再びカウンターに置かれたナイフを仕舞う。大仰な名前だが、それは何を意味するんだ?


神具(ロストウェポン)ってのは、ダンジョンなんかで見つけられる、魔力が形を持った武器や防具のことでな。付与師(エンチャンター)が武器に魔法を付与する物とは違い特性(ハイスキル)っつー天然物の強力な力を持っているんだが、王都にも完全に解析が出来ていない物を言う。っても、魔王が討伐された後国中のダンジョンやら何やらは王都の守護者達に探求されきっちまって、今時こんな物が出てくるってこと自体がかなり珍しいんだが……」

「んー、簡単に言うとすごい武器ってことか?」

「通常ならな。神具(ロストウェポン)かどうか分からないって部分は、コイツの性能を調べた結果なんだが、その、これだ」


 親父は言いよどみながら、何かが印字された紙をカウンター上に置く。


 『近死(ダイイング)

 この武器で肉体及びそれに該当する部位への攻撃が成功した場合、対象を行動不可状態にする。

 その後時間経過と同時にこの効果は解除されるが、使用者による対象への物理的な殺傷行為は無効化される。

 使用者以外の他者が装備、使用した場合、重量の変動、近死(ダイイング)限定封印。

 使用者が他の武具を装備しようとした場合、重量の変動、及び武具の持つ魔法効果を限定封印。


 うん、なんだこれ。


「要約すると、このナイフの肉体的な攻撃は全部瀕死ダメージが入る代わりにその後とどめが刺せない。俺は他の攻撃力のある武器なんかを装備できないってこと?」


 親父は無言で頷く。


「いやいやいや、それって遠回しな戦力外通知じゃん。何それ、有効打は入るけど、決定打にならない感じとか、神具(ロストウェポン)だか何だか知らねえけど、そもそも武器の変更不可とかもはや呪いじゃねーか!」


 武器の威力はそりゃすごい。相手の防御力を無視しての強制ダメージの発生武器なんてチート級だ。

 だけど、とどめをさせない武器しか装備できない俺は、今後守護者としてどう活躍しろと?


「俺に言われても困るが、お前さんが言う通りどちらかと言えばデメリットが目立つこれを神具(ロストウェポン)認定すべきなのかどうか、判断に困ってな……まあ、認定するのは王都だから俺がどうこう言ったところで意味は無いんだよな、実際」


 遠い目をする店主。あ、コイツ今完全に他人事にして乗り切るつもりだ。


「で、どうするよ。俺としてはその防具以外にも何か売ってやりたいところだが」

「ぐぬぬぬぬ…………」


 すでに答えは出てしまっている。

 こっちとしても買いたいが、無駄金になるものに手を出す気にはならない。この武器屋に置いてある物に限らず、重くて使えなさそうではなく、使えないのだ。絶対的に。


「言っておくが分かる範囲での鑑定は本物だぞ。ここで鑑定できる魔道具には王都の刻印もあるからな」


 明確に装備不可能と言われて、武器を見繕う必要性が感じられない。と言うか、脱力でその気にすらならない。半チート武器は、やはり欠陥持ちで呪い持ち。前途多難という言葉もこれほど胸に響かないことはない。


「……帰る。あ、この服処分して貰ってていいかな」

「お、おう――まあ、生きろよ」


 哀れみを含んだ視線を背に、武器屋を出る。こんなのってないよ。

 外に出て、しばし立ちつくす。

 日は完全に暮れており、予想した通り外灯もない町の光は僅かなものだった。

 宿までの距離がそれほど無いことだけが唯一の救いか。

 何か、この世界はおかしい。

 俺の知っているゲームや漫画のような存在のはずなのに、ところどころがずれている。

 忘れられた記憶の中には、この世界に俺を呼び寄せた神みたいなものと会っていたものもあるのだろうか。

 それすらも分からない。


 軽く失意の帰路。足を踏み出した瞬間、遠くでどかん、と爆発音のような何かが聞こえた。

 

 数秒遅れて、辺りの住人が音の正体を確かめるべくして家から出てくる。

 その中には、武器屋の店主の姿もある。そりゃ、町中で爆音がすれば確認したくなるだろうな。

 誰もが突然の轟音にあわてふためいている中、俺の脳は極めて冷静に判断を行った。回れ右。 

 宿に帰って寝よう。今日は色々と疲れた。

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