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モブライフを、君に  作者: カナレイモク
一章
21/54

(21)土下座から受諾する依頼もある


「このたびは、大変申し訳ありませんでした」


 正座の状態から地面に手をつき、指先を揃える。

 そして、額を地面にこすり付けるように伏せ、平伏姿勢を保つ。

 これぞ俺の国に伝わりし由緒正しき礼式、土下座。

 謝罪は誠意で示せ、行動で償えと言う奴もいるだろうが、反射的にこの動作に至ってしまった。

 ふと記憶の中に、異世界へ転生、または転移して右も左も分からぬまま、王族や貴族などの権力者と対等かのように会話をする奴の出てくる話が浮かぶのだが、はっきりいって俺からすれば自殺志願者にしか思えない。

 人間は平等と言っても、立ち位置には明確な差異があるのが社会の構図なのだ。

 そしてどの世界にも円滑に社会を回していく上で必要な、差別ではなく区別が存在する。

 ヒエラルキーは常に基準となってそこにあるし、モンスターという明確な外的要因が跋扈するこの世界では命の重さなど、俺の知る平和大国と比べるまでも無い。

 武力か、財力か、権力か。

 なんにせよ力を持たざる者は軽々と喧嘩を売るべきではない。

 頭にドが付く平民風情である俺が、王族に目をつけられたらどうなるかなんて、考えたくもない。

 一心不乱に、そして誠心誠意の謝罪。それ以外にないのです。


「ええと、事情が読み取れないのですが……と、ともかく顔を上げて下さい」


 文化の違いか、あるいは本当に意味が分かっていないのか、アルフレッドは俺の謝罪に対して狼狽えながらも返答してくれた。

 言われるがまま顔を上げ、次は正座の姿勢にて反応を待つ。


「御意に。どのような処罰でも甘んじて受ける所存。ただ、恩赦を頂けると大変恐悦至極に――」

「その……話し方や態度なども普通にしていてくれると助かるのですが」

「あ、はい」


 成る程、と立ち上がって膝を払う。今の俺は機械人形(イエスマン)になることで何とか胃の痛みに耐えている。普通にしろと言うのならばそうするだけだ。


「えーと……じゃあ、お言葉に甘えてそうさせてもらうよ。アルフレッドさん、でしたっけ?」

「アルフで結構です。親しい者はそう呼びますので、マサヨシさんもどうぞ気兼ねなくお呼び下さい。敬語も不要です」


 さわやかなイケメンだ。やっぱこの世界の神は俺以外の特定の人物に、二物を与えすぎじゃないだろうか。

 第一印象、良さそうな人。

 人当たりが良く寛容で、確か守護者として相応しい武力や名声もあり、王族の血統などという肩書き持ち。

 どう考えても主人公キャラじゃねーか。なんでこんな奴ばっか俺の周りにやってくるのだろうか。


「んじゃアルフ、と。えとさ、気を悪くして欲しくないんだけれど、聞いたところによると俺の仲間に重傷を負わされたとかどうとかって話なんだが」


 恐る恐る言葉をかけると、


「ああ、そのことでしたか……いえ、勝負を提案した者として、それに敗北したからと言って勝者を恨むことなんてありませんよ。むしろ、元々のきっかけはこちら側にある訳ですから、お気になさらず」


 アルフはそう、あっけらかんと言い放つ。

 いや、こっちは笑い話にならねーんですが。そのせいでどれだけ心中穏やかでなかったか。

 当の本人が笑い話で片づけてくれているという事実は嬉しいが、ここで一つ疑問が発生する。

 個人的な話をするならば、アルフとはこれが初対面。

 自分で言うのも何だが、メイリスの一件が関係ないとすればうだつの上がらない一契約者に過ぎない俺を指名しての依頼とは一体なんだ?


「なら、話を変えさせてもらう。俺に依頼って聞いたんだけど、どういう事?」

「こちらも単刀直入に聞きますが――――ウルズ迷宮で起こっている出来事に、心当たりはありませんか?」

「知らん。と言うか、ウルズ迷宮という名前すら初耳だ」


 即答すると、アルフは眉を顰めた。聞き覚えが無いのだからそんな顔されても、困る。


「この町から東方向にある、洞窟型の魔宮(ダンジョン)ですわ。つい先日まで最奥にキマイラが生息していた、と耳に挟んだことがあります」

「ほお」


 ミナの解説に、思考を巡らせながらに相槌をうつ。

 キマイラ……キマイラ……どっかで聞いたような、言われたような。 


「しかし、ウルズ迷宮のキマイラはアルフさんが討伐なされたと存じておりますが?」


 ああ、確か以前セフィアがアルフの事を説明しているときに、そんな話をしていたな。

 んで怪我を癒している最中にメイリスにさらなる深手を……う、胃が悲鳴をあげてきた。


「はい。私たちのパーティに依頼がありまして、確かにキマイラは倒しました。ですが、つい最近になってウルズ迷宮の最奥地に多数のモンスターが現れるようになったそうで、迷宮観測の依頼を受けた何名かの守護者が被害に遭っているそうなのです」

「つまり、主がいなくなった迷宮に別のモンスターが住み込んで、立ち入ってきた守護者を襲っているって認識で良いのか。で、流れからいってそのモンスターの討伐なり調査なりがアルフに来たって事か?」

「大まかに言ってしまえばその通りです……それで、そのモンスターの中に珍しいことに人語を理解する存在がいるらしく、どうやら倒された守護者の話を聞くに全員が『お前はマサヨシか?』と言った問いかけをされているらしいのです」

「は?」


 は?


「そう言うわけで、私もこの町でマサヨシと名の付く守護者を探した結果、ようやく貴方にたどり着いたと言うわけでして――」

「──離せ、ミナっ!」

「いけませんわ、マサ兄様。お話はちゃんと最後まで聞いていきませんと」


 リアクションを取ればまずいと無言で踵を返そうとした俺の動きは、ミナによる拘束で阻止された。

 腰元に手を回され、抱きつかれる行為そのものには悪い気がしないのだが……って違う! 

 この力……コイツ、本気だと?


「何やらマサ兄様とご関係がある出来事のようですし、名のある方からの直々のご指名ですわ。こういう機会はぜひ生かしていかないと勿体ないですわよ」

「勿体なくねーよ。全然普通の依頼の匂いがしねーよ!」


 契約者資格の剥奪だとか、仲間が怪我を負わせた負い目なんか忘れて、叫ぶ。

 ここに来て発生した、守護者を襲ったモンスターとの内通疑惑。 

 まったくもって冗談じゃない。

 しかし、アルフもそれなりの根拠があるからこそ俺に接触してきたのだろう。

 だからこそ、声を大にして否定しなければならない。


「ご、誤解だ! 俺は……俺は、そんなモンスターなんぞに知り合いはいない!」


 無関係であることをアピールしなければ、俺に未来はない。

 武器を貰ったかと思えば取り外し不可の死に装備。よかれと思い依頼を受ければ守護者資格を剥奪されかけ、知り合いの妹を探しに行けばボス級モンスターが出る世界だぞ、ここは。

 王族を罠にはめた疑いをもたれ、国家反逆罪の容疑から処刑コンボとか、考えすぎでもねーぞ!

 

「落ち着いて下さい。何も貴方を疑っているわけではありません。ただ、この件の解決にあたりお力添えをお願いしたいだけなのです――それとも、何か後ろめたい事でもおありなのですか?」


 アルフの目つきが鋭くなった。

 確認を取るまでもなく分かる、疑念の目だ。


「べ、別にそういうわけでは……」

「ウルズ迷宮まで同行してもらい、そのモンスターの調査に協力をお願いします。誤解だと言うのならば、何も問題はないはずです」

「そうですわ。マサ兄様はまだこの町からほとんど出ていないのですし、これも経験だと割り切るのも一つの手ですわ」


 ミナは完全に他人事だと思ってアルフの言葉に賛同している。どうやら味方はいないようだ。


「あー……分かった。分かりました。お手伝いいたします。けど、本当に身に覚えが無い事だけは強調させてほしい。割と本気で」

「…………やはり、嘘をついているようには思えませんね」


 アルフの物腰が柔らかくなり、多少張りつめた空気が弛緩する。


「申し訳ありません、お気を悪くしないで下さい。マサヨシさん達の人となりはセフィアさんに聞いておりましたが、私自身が確認したかったというのもありまして」

「いや、信じて貰えるだけで助かる――って、俺たちの事?」

「はい。無名ながらも。少数でバジリスクを退けた貴方達の武功もお聞きしました。付与師(エンチャンター)シロア=クロフォード、拳撃士(アサルター)メイリスの名は、この町では少なからず有名でしたから」


 単純だとは思うが、賞賛されて悪い気はしない。セフィアも良いところがあるじゃないか。


「そうか。ところで、俺のことはどんな感じで言ってたんだ?」

「え、いや、その…………はい、頼れる方だと言っていました」


 うん、嘘だな。目線泳いでるし。

 アルフが良い奴なのは分かったが、こいつも嘘がつけない性格のようだ。

 セフィアには次会ったときにでも言及してやるとして──やっぱ、泣かすか。

 胸中で呟いていると、ミナがアルフの前に一歩出る。


「私、シロア=クロフォードの妹でミナと申します。アルフレッド――いえ、アルフさん、一つお聞きしてもよろしいですか?」

「はい、なんでしょう」

「色々な町を旅していると耳に挟みましたが、王族である貴方が、なぜそのようなことを?」


 ミナの問いかけに、アルフは苦笑するように反応を見せる。


「王族と言っても、私はまだ未熟な身。正式な王位継承権は私ではなく兄が引き継ぐでしょうから、そんな物は飾りに過ぎません。兄は私よりも強く、そして王に相応しい器の持ち主なのです。守護者の道を選んだことも、そんな兄に憧れてのことなんです」

「守護者は命の危険が付きまとう職業ですわ。命をかけるだけの理由があるとは思えないのですが」

「全てを救いたいというのは大言壮語です。私はただ出来るだけ多くの――せめてこの手が届く距離の人を救いたいと思っております」


 ピクリ、とミナの身体が震える。


「魔王がいなくなっても、人を襲うモンスターは後を絶ちません。そして、私にはそんな人を守るだけの魔法の才と武術を指南してくれる機会を得ていました」

「……恵まれた環境を捨ててでも、ですか?」

「たしかに、王都にいれば何不自由なく暮らしていけるでしょう。しかし、だからこそ、その力を手を伸ばし助けを求める民の為に使いたいのです。それが、力を持つ者の使命だと思っておりますから」


 おっと聖人君主のバーゲンセールだな。シロアと気が合いそうな程の思想の持ち主だ。

 しかし、


「…………ご立派です。その志が、貴方の言う『覚悟』を貫けるといいですね」

 

 ミナは素っ気なく、どこか棘のある言葉を呟いた。

 そして、それ以上アルフに話すことなど無いといった具合に、視線をギルドに彷徨わせる。


「……失礼、私は何か失言をしてしまったのでしょうか?」

「俺に聞かないでくれ」

 

 アルフはミナの態度が気に掛かったのか耳打ちしてくるのだが、客観的に見ていてもミナがなぜ気を悪くしたのかなんか分からない。

 ミナなりに思うことでもあったのか。それは、本人のみぞ知る。


「――ま、ともかくだ。依頼を受けたんだし取りあえずはそれをどうにかすることにしよう。アルフ、出発はいつごろになるんだ? 俺、今日中に依頼を達成させないとやばいんだけれども」


 空気に耐えられそうにないので、やや強引ではあるが本題に戻るとしょう。


「あ、はい。準備をすませればすぐにでも――そういえば、マサヨシさんはメイリスさんの宿をご存じでしょうか?」

「ご存じも何も、同じ宿にいるぞ」


 相変わらず謹慎処分は継続中のため、依頼を受けられないメイリスは俺と同じようにシロアの宿を手伝ったり、偶にふらりと出かけていったりしている生活を続けている。

 あ、間違っても男女間で発生するようなハプニングなんて起こってはいないので、同居だとかいう面白ワードを出すのだけは勘弁願いたい。

 

「それでしたら――」



▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼


「おかえりなさい。お客ですか?」

 

 タイミングが良いというか何というか、宿に戻った俺たちを迎えたのは、ちょうど玄関口を清掃中のメイリスだった。

 今日はそういう気分だったのか、珍しく給仕用の服に身を包み、仕事モード中。


「姿形が以前と変わっているようですが……気配が同じですね」


 とまどいを見せるも一瞬。どこぞの金ピカよりも数段に早く、アルフは現状を理解してくれた。


「何か、この人がお前に話があるんだってさ」

「話、ですか?」


 掃除用具を壁に立てかけ、メイリスはアルフをじっと見つめる。


「お久しぶりです。その節は、大変失礼いたしました。お聞きしたところ謹慎処分中、だとか」


 申し訳なさそうに頭を下げるアルフ。

 どうやら、自分に暴力を振るったことでギルドから処罰を受けたメイリスに対して、一言謝りたいとか言い出したのだ、この真人間は。

 人が良いにも程がある。

 いやまあ、事の発端は確かにアルフの取り巻きとはいえ、大けがを負わされたのにこの態度は何かおかしい気もする。

 どっちが悪いかと言えば、最終的に手を出したメイリスな気がするのだが、それを言うと話が纏まらなくなりそうなのでここは置物に徹しよう。後は当人達の問題だしな。


「………………ああ、あの時の」


 思い出すまで随分時間がかかっているあたり、メイリスはつくづく大物だ。そして胃が痛い。


「ギルド側も完全に処分を撤回するわけにもいかないらしく、しばらくご不便をかけますが何とぞご容赦下さい」

「いえ、私もやりすぎたようですので、その話は水に流しましょう」


 え、何で上から目線? コイツ怖いよ。少しは反省の色を見せて!


「メイ姉様、マサ兄様が依頼を受けてきたんですよ。期限ギリギリですけれど、一安心です」


 ミナは嬉しそうに言う。


「……そう言えば、今日が一ヶ月目でしたか」


 同じく契約者であるメイリスは何かを察したようで、合点がいったとうなずく。 


「ま、そう言うわけだからちょっと出かけてくる。帰りは遅くなるかもしれないから、カルネさんにはよろしく伝えておいてくれ」

「だそうです、ミナ。私も準備してきますので、後はお願いします」 

「分かりました。お任せ下さいませ」

「待て、話の流れが色々とおかしいぞ」

「? 依頼を受けるのでしょう?」

「受けたのは俺。お前は関係ない」

「私はマサヨシと一緒でないと、依頼を受けられませんよ?」

「……付いて来る気か」


 あまりに自然すぎて、俺が間違っているみたいになるこの現象やめろ。


「最近はやることもなくなってしまったので、腕が鈍ってしまいそうなんです。それに、マサヨシの受ける依頼には期待できそうなものを感じます」

「相変わらず直球な奴だな。何に期待しているのか知らないけど、そういう事はアルフに言ってくれ」


 ため息をつきながら、アルフが依頼主であることを諭す。


「依頼内容は知りませんが、参加人数が増えても構いませんか?」

「ええ、構いませんよ」


 ……もうちょっと渋る所ではないのか、そこは。

 自分を傷つけた人間が依頼に便乗してくることに毛ほどの逡巡も見せず即答するアルフに、尊敬の意を感じざるを得ない。


「戦力が増えることは心強いことですから。ところで、マサヨシさんのパーティは三名だと聞いていましたが……?」


 ふむ、確かにこの流れでシロアに声をかけないという選択肢はないよな。

 それに、俺ほどでは無いと思うのだが、ギルドでのやりとりを見るにシロアも期日ギリギリなのかもしれない。


「私は着替えてきますので、シロアに声をかける役割は任せます。マサヨシ達より先に戻ってきましたので、今は自室にいると思いますよ」


 言うが否や、メイリスは素早い足つきで階段を上がっていってしまう。

 掃除道具くらい片づけていけ。


「では、私も一度宿に戻ります。準備ができ次第ここに戻りますので、また後ほど」


 続いて軽く礼をすると、アルフは宿を出て行った。こちらはおそらく、自分の宿に戻るのだろう。


「……あ、そう言えば俺、シロアの部屋知らないぞ」


 従業員で同じ宿に寝泊まりしているとは言え、俺の部屋は使用の少ない二階の端にある。

 シロアの部屋は一階にあるが、俺の担当ではない為客室とシロアの自室の違いがわからない。

 ちなみにメイリスは俺の隣の部屋なのだが、お互いに寝るとき以外部屋に戻らないためそこまでプライバシーを気にする必要はない。


「同じ屋根の下に済んでいるのに仲間の部屋を知らないだなんて……マサ兄様、頭は正常ですか?」

「失礼すぎる! シロアもミナもカルネさんも大体受付か台所にいるから、気にならなかっただけだ!」


 まあ、女子の部屋にお邪魔するという度胸がなかったのも事実なんだが、これはわざわざ言うべき事でもないな。


「はぁ……部屋に戻るついでですし私が案内いたしますわ。一階の奥から二番目がシロアの自室です」

「いや、場所さえ分かれば案内しなくても行けるんだが」


 そもそもそこまで広くないからな、この宿。


「まあまあ、お気になさらず」 


 そう言って一緒に廊下を歩き出しながら、


「一つだけ、いいか?」

「はい?」

「さっき途中から機嫌が悪くなったみたいなんだが、あれ、何か気になることでもあったのか?」


 アルフとのやりとりを思い出し、ふと聞いてみる。


「……別に、たいしたことではございませんわ」


 ふい、と俺から目をそらしてミナは告げる。 

 詮索されることを拒絶しているようなのだが、言いたいことがあるなら言葉に出すべきだ。


「いやさ、アルフも気になっていたみたいだし、直接言いにくいなら俺が遠回しに言っておくぞ?」


 ミナは小さく首を振る。


「アルフさんは何も間違ったことは言っておりませんし、彼自身が誠実なのも理解できましたわ」

「でも、何か気にくわないことがあったんだろ。流石に俺でもそれくらいは分かるぞ」

「そう思われたのでしたら、忘れて下さいませ。この感情は、ただの子供じみた八つ当たりのようのものですから」 

「八つ当たり、ね。まあ、ミナは俺よりは年下なんだから、子供じみたってのもあながち間違って無いと思うが」

「くすっ。これは一本取られましたわ」


 そう言って、笑う。

 

「さ、シロアの部屋はここですので、後はよろしくお願いしますね、マサ兄様」


 すぐ隣の自室へと入っていくミナは、笑顔だった。

 良くも悪くも、ミナは感情を素直にぶつけてくる子だ。それがいつもと違う、取り繕われた笑顔であることは、目に見えて明らかだった。

 けれど、同時にそれ以上の追求を拒むものだと感じたからこそ、引き留めることも出来ない。

 他人である自分を気遣ったのかどうかは知らないが、一人残された俺は頭を掻いて呟く。


「はぁ…………わっかんねえなぁ」


 本当に、もう。回りくどい言葉遊びは苦手だ。

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