(17)魔道具屋を求めて
翌日。
ギルドに着いた俺は、取りあえず受付へ向かった。
「うっす」
「……どもです」
何やら、朝っぱらから不機嫌なセフィア。
「元気ねーな。二日酔いか?」
「そんな飲み方はしません。まあ、頭が痛いと言う意味では当たっておりますが」
はぁ、とセフィアは大げさにため息をつく。
「……マサヨシさんって、良く厄介ごとを連れてくる奴だー、とか言われませんよね?」
藪から棒に失礼極まりない奴である。
「ねーよ。なんかあったのか?」
「昨日の五点鐘発令規模のモンスター襲来、そして今度はフィル=ファガナに近い地域でのモンスターの生態系に異変があるらしく、朝一で王都から観測と詳細の報告をせよとの指令が来ました……ひょっとしてこれマサヨシさんが原因では無いかなー、と」
「たまたまだろ。俺自身が何かをした覚えは無いぞ。このナイフにあった魅惑とやらの魔法は、お前が何とかしてくれたじゃねーか」
「それはそうですが、昨日の今日で立て続けて問題発生ですよ。マサヨシさんを疑う私の気持ちも当然といえるのではないでしょーか……はぁ、もっとだらだらとしていたいのに」
セフィアの個人的な不満に付き合っていると長くなりそうだ。ここは、ストレートに用件を伝えることにしよう。
「それはそれとして、楽して稼げる依頼くれ」
「そんなもんはねーです! というか、マサヨシさんが受けられる依頼自体が殆どねーですよ。急募でなく受けられそうな依頼なら取っといてあげるので、時間を置いてまたどうぞ!」
にべもなく追い払われる。貧窮守護者には優しくして欲しいものだ。
その後、ギルド内でシロア達の姿を探すと、両名はカウンターで食事をしている最中だった。
「お、おはようございます」
こっちはこっちで、シロアの何とも言えない表情で迎えられた。
何があったのかと聞いたが、
「いえ……別に…………なんでもない、デスヨ?」
うん、シロアは嘘をつく才能がないことは分かった。
対照的にメイリスはいつもの無表情。
一晩寝て無事体調が戻ったのかいつも通り、淡々とパンを口に運んでいる。
「身体は大丈夫か?」
メイリスは俺の方をちらりと見て、
「…………ええ」
視線を反らし、食事を再開。
冷淡な相槌。若干トゲがあるように聞こえるのは、何かしら気に障ったのだろうか。
表情はいつも通りなので、それすらも分かりにくい。
「なんだよ、まだ怒ってるのか?」
「…………いえ」
絶対怒ってるよね、この子。
「なあ、コイツ昨日のことまだ根に持ってるのか?」
「それは違うんですけれど、あー、その、えっと……詳しくは私からは、ちょっと……」
小声で問いただしたが、シロアは言葉を濁す。なんだ、そんなに言いにくい事なのか?
「――そ、それより、マサヨシさんこれを受け取ってください」
シロアに手渡されたのは、皮袋に入ったロギン。どうやら昨日の飯代みたいだ。
とはいえ、俺の判断でセフィアの分も払ったという事で全てをシロア持ちにするのは気が引けた。
元々、依頼の報酬として食事をご馳走する契約を交わしたのだからはその辺りも含めて全額支払わなければ釣り合いが取れないとシロアは主張したが、本来予定にない奴の分まで奢って貰うというのは、俺の方こそ申し訳ない。
そのため割り勘という形を取ることでシロアには無理矢理納得させ、話は纏まった。
代わりと言っては何だが、前に治癒薬を作ってもらったとか言う店――道具屋に案内してくれないかと、シロアに打診する。俺にとってはそちらの方がメリットがあるからだ。
初めて会ったときに馴染みだと言っていたし、まだこの世界のことを知らない俺からすれば知り合い同士の店の方が安心感がある。
妥協案に対して納得しきっていないシロアではあったが、その頼みには二つ返事で了承してくれた。
今よりも先を考えるという点では、その肯定の方がよっぽどメリットがある。
道具屋に行くにあたり、目当ての代物は当然魔晶石。
欲を言えば、シロアのワンドのように、俺でも扱える魔道具なんかもあれば良いかなと思っている。
後者に関しては望み薄なのだが、少なくとも試してみるくらいはいいだろう。武器では無く魔道具というカテゴリーならば、ナイフの持つ特性をすり抜けられる可能性もあった。
いかに簡単な依頼を受けたとしても、そこで強力なモンスターと遭遇しないとも限らない。
パーティを組めばメイリスが一人でなんとかしてくれるだろうが、今回の件で自称やや弱体化したというメイリスの武力だけに任せてモンスターと対峙するというのは、危険だと判断。
補助魔法が使えるシロアはいいとして、相も変わらずピーキーな武器での攻撃しかできない俺は、魔法という別の戦闘手段を手に入れるべきなのだ。割と切実に。
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「しかし、白騎士でも使用できる魔道具となると、かなり値が張りますよ」
三人で歩く町中。
食事をしたことで余裕が出来たのか、その後メイリスは普通に話しかけてきた。
空気が重いまま行動を取らずに済んだので、助かった。
「そうですね……魔晶石もかなり高価ですから、今の私達では手が出ないですよ」
「今回は見学だけだ。どんなものがあるのかを知るだけでいいんだよ」
向かう先は、シロアが懇意にしていると言う魔道具を扱っている店。
場所的には、中層部へと向かう途中にあるそうだ。
フィル=ファガナは、外から見ると山の様な形をした町だ。
町の中は主に三つの地区に分かれており、それぞれ小さめの壁で仕切られている。
それらは、中心部の高度が高い場所から順に高層地区、中層地区、低層地区と呼ばれているそうな。
高層地区は主に領主や貴族など、身分の高い住人やこの町を拠点とする一流守護者達の屋敷なんかがあり、中層地区は一般民の住宅や、一級守護者ご用達の高級武器、魔道具を扱う店があるそうだ。
そして俺たち低ランクの守護者が使用するような店や宿、ギルドがある所が低層地区というらしい。
「あの酒場に書いてあった『低い』って、高度の話かよ」
「料理は美味でしたよ」
「そりゃ確かに」
そんな会話を交えつつ緩やかな坂道を歩き続けているのだが、この町に来てからギルドと宿の往復くらいしかしていない俺からすれば、いつもは見慣れない町並みなどの異世界要素が気になっていた。
おのぼりさん丸出しだが、ここが近代世界でないことを実感できるいい機会だと割り切った。
果物や肉が露天で売り出され、怪しげなアイテムが並ぶ様。それだけならば俺の世界にもあっただろうが、俺の利用した転送屋や、鍛冶屋、魔法を用いた武術指南専門の店なども見受けられる。
この町に来たときは、まずその広大さに目を奪われた事もあり、周囲が見えていなかったのだが、建物のつくりから西洋文化だと思いきや、和風の建物や、異種族の特徴とでも言うのか、猫や犬のような獣耳を持つ亜人種だっている。
多種多様、和洋折衷、とにかく色々と混ざっている。節操が無いようにも思えるのだが、それはそれで異世界だと言いきってしまえば妙に納得できる。
それに、電気などの科学文明の要素を排除した、魔法文明をありありと体現しているその光景は俺の知っている世界と似て非なる物だ。
とある人だかりの中では、武装した守護者達の片割れにモンスターだっている。
……モンスター?
「なあ、小さいけどドラゴンらしき物が見えるんだが、この町ではモンスターを連れ歩いても問題ないのか?」
「あれはドラゴンではありません。召還師の従魔ですね」
サモナーというと、魔物使いみたいな物か。取りあえず野生のモンスターでは無いらしく、一安心。
「モンスターを使役出来る職業もあるのか、奥が深いな」
「いえ、あのモンスターは生きている訳ではありませんよ。召還師は魔魂札を消費することによりその魔魂札の元になったモンスターを作り出せるんです。いわば、魔力で造られた疑似生命体ですね」
成る程。換金せず、戦力を補強することも選べる訳だ。
「だったらパーティを組んで、仲間の魔魂札を全部従魔にするって事も出来るわけか。すげえな」
戦いは数とも言う。魔魂札から作り出した従魔でモンスターを討伐し、その魔魂札を使って……あれ、無茶苦茶強くね?
一人で大軍を生み出せる職業。しかし、俺の理想とする姿に、
「あ、それは無理だと思いますよ」
シロアが一蹴し、
「従魔は使用者の魔力に依存する存在ですので、複数の従魔を生成することや複雑な命令をさせるためには膨大な魔力を必要とします。と、言うよりもそれだけ魔力を持っている守護者ならば詠唱師となった方がより合理的です」
メイリスが補足した。
畜生。相変わらず変なところで息ぴったりだな、お前ら!
「勘違いであれば良いんだけれど、お前らあらかじめ打ち合わせているとかじゃないよな?」
「はい?」
「意図が不明です」
怪訝そうな顔二つ。
足りていないのは俺の知識量と言うことで、目下の課題がまた一つ増えた。
こんなことなら、アムカの講義をもう少し真面目に聞いておくべきだったと少し後悔する。
連日の疲労でまともに頭に入りきらなかったと言うのは言い訳にしかならず、ある意味で自業自得だ。
「先ほどから表情がコロコロと変わりますが、そんなに珍しい物ですか? もう少し落ち着いても良いと思いますよ」
そんな俺の行動に呆れたのか、メイリスがそう呟いた。
一喜一憂する様はどうやら少し目立つようで、シロアも苦笑いしている。
「悪い悪い。なんかこう色々と……新鮮っていうか、そんな気分だ」
気を取り直して、今の感想を素直に告げた。
「新鮮……そういえば、マサヨシさんは記憶喪失らしいですけれど、何か思い出したという事ですか?」
シロアの疑問はごもっともなのだが、そうではない。
異世界で約一週間とちょっと過ごしているのだが相変わらず記憶は不明瞭で、何も思い出せていない。
「いや、残念ながらというかまったく。ただ、こうやって町中を歩いて店を見るのが初めてのような気がするだけなんだ」
自分でもよくわかっていないのだ。上手く説明できる自信が無いので、あいまいに答えた。
「そうですか。まあ、マサヨシは鍛え方が足りていないように見えるので、以前守護者をやっていたという可能性だけは否定できますね」
間違いないだろうが、肉体的な評価をするのはやめてほしい。俺にだって少なからず男としての自尊心とか、そういうものもあるのだ。
「まあ、モンスターとやりあった過去が無い事だけは、断言できる。なんとなくだが」
「だとすれば凄いです。普通の守護者でもバジリスクに立ち向かえる人なんて、ほとんどいないですよ」
皮肉にしか聞こえねえ。
シロアの純粋な眼差しが嘘をついているとは思えないが、もし俺があの場にいてその光景を目撃する立場にあったのならば、頭がおかしいの一言で切り捨てる所行だぞ。
あれを勇気と称するか無謀と蔑まれるかは紙一重……と言うより、愚行でしかないと思える。
無論邪推だろう。しかし、何事も疑ってしまう性格なのか、どうにも言葉道理に受け取れない。
「そうですね。少なくともバジリスクに肉薄していく守護者なんて、ギルガ以外で初めて見ました」
いや、彼の者と比べられても困る。
確かに死を覚悟したという意味ではバジリスクは脅威だったが、その相手がギルガとなれば話は変わる。ギルガがやられる姿は、ちょっと想像できない。
「ちなみに、ギルガだったらどう対応するんだ?」
「ほとんど私と同じようにしてましたよ。あ……けれど、一度だけバジリスクの身体に触れる寸前まで拳を突き出し、寸前で引くことで衝撃破のような物を出して倒しているのを見ました……拳撃士の固有技能ではなく誰かに教わったと言っていましたが、性に合わないと言って後にも先にも使用しているのはその一度限りでした」
個人的には、それを教えた奴が非常に気になる。
っていうか、やっぱりギルガかそいつか、転生者じゃねえの?
「なあ、一応聞いておきたいんだが、ソニックブームって知ってるか?」
「何ですか、それ?」
「いや……忘れてくれ」
俺だって詳しい原理なんぞ知らん。とにかく、毛ほどの参考にもならないので、手をひらひらと振って会話を終わらせる。
取りあえずは、ギルガという人物の非常識ランクをもう一つ上げておこう。
既に上限突破しているけど。
「ところでシロア、後どれくらいなんだ?」
「あ、もう見えてますよ。あそこです」
シロアの指さした先、三十メートルほど先に、様々な店や民家が建ち並ぶ一角にその店があった。
すぐ目の前にあるというのに、言われるまで気づけなかった。それほど会話に熱中していたようだ。
「……失礼ですが、この店は大丈夫なのですか?」
メイリスの言うとおり、外装はかなり古め。赤い屋根と、フラスコのようなマークのある看板が見たまんまゲームの中にあるような道具屋を示している。言っちゃ悪いが、見た目はかなりよろしくない。
加えて窓から見える店の中はガランとしており、とても営業しているようには思えない。
そのことに関してシロアに尋ねると、ここの店主は別の店も掛け持っている為、いないことが多いらしい。
それでも、購入等の際にはいつの間にかそこにいて、別段問題なく営業が回っているそうな。
元々中層地区よりのこの場所は、守護者がアイテムを購入する目的では足を運びづらい場所だそうだ。
そのせいもあってかシロア以外の客はあまりおらず、いつもこんな感じだと告げられた。
「それはまた……なんというか、防犯意識が低すぎないか? 窃盗とかあったらどうすんだよ」
「私も気になりましたが、不思議なことに開業以来、何かが盗られたといったことは無いって言っているんですよ」
単に潰れた店だと思って誰も近づいていないだけでは、と思うが口に出して言うほどでもないか。
「取りあえず入りましょう。置いてある商品は、良い物が多いですから」
そこまで言うのならばと、ドアを押して中に入る。予想道理というか何というか人の気配は全くない。
「お邪魔します――――ん?」
カラン、というドアベルの乾いた音が静謐な店内に響くと同時、言葉で表せない変化――いや、変質のような何かが身体中を伝わるような感覚。
例えるなら、少しの間空けていた自分の家に戻ったときのような、懐古の情……とでも言うべきか。
それが失った記憶の一部に起因している物なのかは不明だが、ただそう感じた。
「…………物取りが現れない訳ですね」
俺とは違う何かを感じたのか、メイリスは神妙な顔つきになり、今しがた入ってきたドアを見つめている。
「どうしたの、メイリスちゃん?」
メイリスはシロアの問いに答えず、しばらくしてから目線を逸らした。
「いえ、少し……気になっただけです」
「何が?」
「すいません、忘れて下さい。大したことではありません」
意味ありげな言葉。しかし、メイリスはそれ以上は喋らず、店の中へと進んで行く。
メイリスは、基本感情を表に出してこない。無愛想と切り捨てるほどではないのだが、何を考えているのか分からない。
そう考えると、昨日の光景はそれなりに珍しい物だった。もう少し笑えばトラブルも起こらんだろうに、とは流石に余計なお世話か。
気を取り直し、シロアの後をついて回ることに。
「魔晶石が置かれているのは、この辺りですね」
シロアによって案内された目の前の棚には、様々な色の魔晶石が、手の触れられる形で陳列されていた。ケースに入っているわけでもなく、無造作に。
このままこっそりと持ち帰ってもばれないのでは、と思ってしまうほどのセキュリティレベルの低さ。
しかし、それぞれに付けられている値札の金額のおかげか、邪な考えは吹き飛ぶ。
「高すぎるわっ!」
「だ、だから、言ったじゃないですか……」
最低価格がゼロ七つとか、逆に萎縮して手が震える。
「魔晶石は、込められた魔法の質や使用期限の長さによって値段に差があるんですけれど、この店の物は私の知っている中ではまだ良心的な方で……」
まだ上があると申すか。
「と言うか待て、そもそも魔晶石って魔法が使えない守護者のための魔道具だろ? こんな馬鹿げた金額を出せる奴がなんで魔晶石を欲しがるんだよ」
需要と供給がかみ合っていないように思える。
魔法の素質がない一般人が欲しがるにしては、あまりに法外。この世界の貨幣価値が俺の世界と大差ないことを鑑みるに、どう考えても高すぎる。
「い、いえ。別に魔晶石は守護者専用の魔道具というわけではありませんし、貴族の方達が蒐集しているという話は珍しくありませんよ」
要するに、金を持て余した奴らの自己顕示欲を満たす美術品扱いってことか。
まったくもって、羨ましいことだ。こちとら生き死にがかかっているというのに……そう言えば、アムカに貰った魔晶石も中々の物だとセフィアが言っていたな。
ひょっとしてあれを売っていれば、現在の環境は大きく違った物になってたんじゃないのだろうか。
「なあ、シロア。俺がフラワータートルに使った魔晶石なんだけど」
「あぅ……その説は色々と申し訳ありませんでした」
「もう過ぎたことだから本当に気にしなくていいぞ。ただ、あれってもし購入するとしたらどれぐらいかかるのかな、と気になったんだが、後学の為にも知っていたら教えてくれないか?」
「そうですね、おそらくここの魔晶石より一桁高いと思います――――ひぃっ!」
あはは。ぶっ飛ばすぞ、過去の無知なる俺。
「あの、マサヨシさん……笑顔なんですけれど、目が怖いです」
どうやら表情に出ていたようで、シロアが距離を離しながらおそるおそる言った。
「――悪い。今俺は、俺自身が許せなかった」
いかん。最近どうにも感情的になりがちである。これでは先ほどのメイリスやセフィアの事を言えないな。
金銭的に困窮なことと、ここ最近の神経をすり減らす戦闘のせいか、どうにも心に余裕がない。
なにやら、もやもやとした自己嫌悪に陥ってしまう。
「ふぅ……カルシウムが足りてねえのかな」
「かるしうむ?」
「魚不足ってことだ。そういや、酒場でも見たことが無いな」
「あ、お魚ですか。フィル=ファガナは肉類が主流ですから、別の町の商人が売り込んでくるのを待つか、自分で捕りに行くしかないですね」
「自分で?」
「はい。別の町まで行って――と言っても、一番近場でも馬車で五日はかかるので気軽にとはいきませんが」
「移動屋を使えば早いんじゃないのか?」
俺がこの町に来た時のことを思い出していると、顔を振ってシロアが否定する。
「転送屋は高いんです。ただでさえ希少な固有技能ですし、場所にもよりますが往復分となるとかなりのロギンが必要になります」
「……金無しには厳しい現実だなぁ」
あの時はレオが払ってくれていたから気が付かなかったが、異世界と言えど瞬間的な移動を行うにはそれなりの経費がかかるらしい……って、いつの間にか話が逸れてしまっている。
ともかく、手持ちでは魔晶石が買えないことは判明した。
別方面で考えを巡らせるしかないか。
「メイリスが持っていたような装備系の魔道具も、ここで買えるのか?」
「うーん、このお店で売っているのは、主に治癒薬等の回復系の道具ですから……メイリスちゃんが持っていたような魔道具は、むしろ武器を扱う店に行った方が良いかもしれないです。一応、魔晶石より安価の魔導符と言う魔道具もあるにはありますが、守護者としてはあまりお勧めは出来ませんね」
「と、言うと?」
「魔導符は日常生活で使用されている魔道具ですので、魔晶石に比べると全体的に効果が低すぎるんです。加えて一度きりの使い捨てですし、火種を作ったり、飲み水を出したりする程度ですね」
つまり、戦闘向きではないってことか。魔法が無い世界ならそれはそれで便利なんだろうが、仮にライターを持っていたとしてもモンスターに立ち向かうのは馬鹿げている話だ。
仕方がない。無理をしない範囲で、地道にコツコツと稼いでいくしか無いみたいだ。
そう結論づけていると、背後でドアベルの音が鳴った。新しい客だろうか。
「あ、マサヨシさん。ちょうど戻ってきたみたいですし、直接聞いてみてはどうですか?」
――ではなく、どうやら店主らしき人物のお帰りのようだ。
この際だし本職のアドバイスを聞くことも大事か。
そう思い振り向くが、逆光で顔が良く見えない。
「これはこれは、ご来店ありがとうございます――おや、シロア」
……どこかで聞いた覚えがあるような?
「治癒薬は、つい先日お渡ししたはずですが?」
尋ねる声。閉まるドア。窓から差し込む光で照らされた店の中。
意外と言えば意外で、そこには俺が世話になっている執事風宿の主、ヴィルダンスが立っていた。