武道会1
妹たちが入学してきて2ヶ月が経った。
もうすぐ学園最大のイベント、武道会が開催される。
王国が国費で学園を運営し、魔術師を育成しているのは、軍事目的だ。
この世界の戦争は魔力を持った者達で行われる。魔力を持たない者は弱すぎて戦力にならない。
魔力は貴族の血筋に現れ、だから、貴族は貴族であると考えられている。
そして、国の戦力を引き上げるための重要なイベントが武道会だ。
これは年に2回、今回行われる夏の武道会は学園の生徒のみ。冬の武道大会は騎士団や有力貴族、一般参加を含めたもっと大規模なものになる。
大会には教会から神聖術師が大勢呼ばれてきて、蘇生を含めあらゆる傷を治してくれる。心臓が止まった直後だったら生き返らせることもできるらしい、すごいよな。
そんな環境で、出場者たちは全力で戦う。
学生にとっては、テストの成績よりも、武道会で活躍する方がはるかに自分の名声を高めることができる。皆本気だ。
「トーナメント表が出たな。妹とは、準々決勝で当たるな。」
俺の目標は、この大会で妹に勝つこと。兄の威厳のためだ!
勝つために女を殴るのかって? この世界でも魔力のない女を殴るのは男として最低の行為とされているけどな。魔力のある女は全力で攻撃してオーケーだ。じゃないとこっちがやられる。
武道会当日、4ブロックに分かれた会場では、激しい戦闘が繰り広げられている。次々とすごい光や音のエフェクトつきで魔法が放たれている。
ここだけ見ると、本当にゲームの世界だな。
「はい、これで終わり!」
俺は鞭で縛り上げた女生徒を会場の外に放り投げた。
変なプレイではない。俺に合う武器を探したら鞭になったんだ。
勝敗はリングアウトか降参宣言で決着がつく。
「次は準々決勝、いよいよ妹とだな。」
大会の優勝候補は3年生をさしおいて、2年のカルロス王子と騎士団長息子のヒューゴだ。
ただ、この2人はトーナメントでは準決勝で当たることになり、決勝のカードがどうなるかは予想できないと噂されていた。
俺の知るゲームでは、決勝はヒロイン対カルロス王子だ。
ヒロインは準決勝で妹を破り決勝に臨む。
直接対決で負かされ、さらに、王子との対決で絆を深めたヒロインに対して、妹の憎悪が膨れ上がるイベントでもあった。
「まあ、この世界では、準決勝に上がるのは俺だ。」
妹とヒロインの直接対決は阻止する。
今までのところ、ヒロインと妹がぶつかりそうなところは、俺が全て邪魔してきた。今回も妹を負かして彼女に憎まれるのは俺にする。
妹のヘイトを俺が吸っていったら、俺が嫌がらせされるんじゃないかって? 俺なら1学年先輩で公爵家嫡男だ。妹も簡単に手出し出来ないさ。
「お兄様がここまで残っているとは意外でした。ですが、ちょうどいい。最近の貴方には腹の立つことがいくつもありましたの。ここで晴らさせてもらいますわ。」
準々決勝の舞台に立つと、妹が話しかけてきた。俺だってお前のせいで最近は胃に穴が空きそうなんだ。日ごろの恨みをぶつけてやるよ!
「はじめ!!」
審判のコールとともに、妹が巨大魔方陣を作り出した。妹の得意魔術は炎、サブが風だ。
俺に向かって炎の弾丸が次々と迫ってくる。
俺は魔力で強化した鞭で、それを全て叩き落した。
「大技は苦手だけど、コントロールには自信があるんだ。」
俺の血の半分は東の皇国のもの。皇国の魔術師の魔力総量は、王国の半分程度らしい。だが、王国と皇国の戦闘力は互角とされ、過去に皇国のほうが強かった時代もある。皇国貴族は魔力の少なさをコントロールで補う。エネルギーを効率よく使い、さらに、王国貴族には出来ない細かい制御が可能だ。
「小賢しい。」
大剣を持った妹が身体強化してこちらに突進してくる。
「土魔法!」
俺は妹の足場を泥に変えた。
「くっ……」
足を取られた妹に俺の鞭が迫る。
「こんなもの!」
鞭は妹の風魔法で粉々になるまで切り裂かれた。
「……パワーでは負けるか。」
武器が壊れたが何の問題もない。俺は襟元や袖口にいくつも結んでいたリボンの1つを引き抜いた。鞭は魔力で強化しなければ、ただの紐だったのだ。
「魔力総量では、王子殿下とマリアを10として、お前は8、俺が6くらいか。」
妹も皇国の血を引くはずだが、魔力総量がかなり多い。やっぱ、ライバルチートだよな。
「王子はともかく、私が平民に魔力で劣ると? いい加減なことを言わないでください。」
「……お前、相手の力量が読めないのか? 死ぬぞ?」
パワー型は魔力探知とか苦手な奴が多い。大技を放つ前とか、かなり予測できてしまうんだけど、お構いなしだ。
妹の魔法攻撃が次々と俺に襲い掛かるが、俺は難なくそれをかわしたり消滅させたりしていった。
事前に次の動きが読めるのだ。処理することも可能だ。
「このまま魔力切れを狙っても勝てるな。」
「ちょこまかと……、逃げずに勝負なさい!」
魔力切れは魔力ポーションで補えるから、実際の戦闘ではポーションをガブ飲みしながら大技を打ち続けるのが大貴族の仕事だ。だが、大会ではポーションは禁止されている。
「まあ、魔力切れで勝ったって、お前は納得しないよな。兄の威厳のためだ。頑張るか。」
俺は全身に魔力を行き渡らせて身体を強化し、妹に向けてつっこんだ。
「この!」
飛んできた魔法を横に大きく跳んで避けた。ステップを踏むように左右に動きながら、徐々に妹との距離を縮める。
「はっ!」
鞭で妹の腕を絡め取った。
「こんなもの……!」
妹はまたも風で鞭を粉砕しようとするが、その前に、
「ぐあっ……」
鞭を伝って魔法の電撃を流す。実際の電流と違って魔法耐性で弱められてしまう攻撃だけど、
「一瞬でも硬直してくれたらこっちのもの。」
俺は渾身の風魔法で妹を場外へ吹き飛ばした。
「勝者、ラヴェンナ・ルクソール!」
審判の声とともに、見物客から大きな拍手が起こった。
準々決勝だったし、ギャラリーも大分増えてきたな。