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断罪

 ある日登校すると、教室に置いていた俺の教科書が引き裂かれていた。


「え……!?」


 俺の顔が青くなる。嫌がらせに対してショックを受けたのではない。犯人が俺の予想通りなら、大変なことになってしまったからだ。


 俺の登校は早い方ではないから、既に教室には人が多い。そして、王子が登校してきて、妹もやってきた。


「あら、お兄様。そんな嫌がらせをされるなんて、人望がないのではありませんか?」


 小馬鹿にしたように妹が笑う。

 勉強出来ても馬鹿な奴はいっぱいいるが、これ程馬鹿だとは思っていなかった。


「エリカ……。」


 青ざめた、多分情けない顔で妹を見つめる。


「あ…、あら、ちょっと、ショックを受けすぎではないですか? この程度のことで。公爵の跡取りなのですから、もっと気丈に……」

「そういうことではない!」


 俺の厳しい声に、妹は戸惑った顔をした。

 実際、破かれた教科書なんて大したことはない。俺はあまり使わない教材だけを教室に置いたままにしていたし、買えばすぐに手に入るものだ。

 だが、公爵家の嫡男の私物が破壊されたんだ。学校関係者はどんな手を使っても犯人を見つけ出そうとするだろう。それをかいくぐれるほどの隠蔽をして、俺の教科書を破いたのか? バレたら、自分の信用を地に落とすと分かっているのか?


 その時、学園の事務員が王子に駆け寄り、小声で何か話し出した。


「犯人が分かったぞ。」


 王子が言う。すぐに断罪の時は来てしまった。


「お前だ、エリカ・ルクソール。」


「え……、何を仰るのです。言いがかりですわ。」


 妹の目が泳いでいる。


「お前、今朝早く、この教室で風魔法を使ったな。校舎内は魔術禁止。魔力に動きがあれば、誰の魔力か、記録されるようになっている。それから、」


 王子は小さな袋に入った紙切れのようなものを見せた。


「破かれた教科書の破片だ。魔術院で調べさせて、お前の魔力が残留していることが分かった。」


 ちょっ、仕事、速すぎぃっ!!!

 俺、公爵嫡男だからね。偉いさんが関わると、役所系は速度上がるからね。


「エリカ。ここは学校だ。家の中みたいな兄弟喧嘩はやっちゃだめだ。」


 フォローするとしたらこのくらいか。被害者が俺だからなあ。身内のことで押し通すか。


「兄弟喧嘩か。だが、場所が悪かったな。学園は公の場、多くの貴族が見ている。」


 そう。これはもみ消せない。妹は未来の正妃候補だから、品性を疑われるようなことは、非常にまずい。本来は、皆の模範とならなければいけないんだ。


「ふむ。ラヴェンナは怒っていないようだし、ここで話を大きくするのはやめておこうか。放課後、サロンで、3人で話をしよう。」


 王子によってその場は納められ、放課後に改めて話をすることになった。




 放課後。

 先日はほのぼのとしたアルマンの婚約の話を聞いたのと同じ席で、今度は断罪される妹を庇うという厄介な仕事をすることになった。


「さて。アルマンとヒューゴから報告があった。エリカ、以前にも素行の悪い生徒をけしかけて、ラヴェンナを襲おうとしたことがあったそうだな。」


 ぐっ。バレてる。そりゃそうか。こんな事件があったんだ。あの2人が王子に伝えないわけがない。

 妹は顔面蒼白で俯いて震えている。


「エリカは俺の婚約者だ。それに相応しくない行動をすることは、俺の顔を潰すことにもなる。分かっているのか?」

「そ…それは……」


 掠れた声で妹は何か言おうとするが、言葉にならず、震えるばかりだった。


「ラヴェンナとしては公爵家の醜聞になることを広げたくはなかったのだろう。先日の襲撃の犯人がお前だということはすぐに分かっていたようだが、ずっとお前を庇っていたんだぞ。」


 妹は押し黙ったままだった。


「お前との婚約は、考え直さないといけないかもしれないな。」

「……カ、カルロス様っ!」


 悲鳴のように妹は叫ぶが、王子と目が合うとまた俯いた。妹の膝の上に涙がぽたぽたと落ちる。


「王家と大貴族の婚約だ。すぐに結論は出せない。だが、明後日お前を王宮に呼ぶ予定は中止だ。」


 王子の婚約者である妹は、3ヶ月に1度、王族との交流会をしてもらっていた。王と王妃、それにカルロス王子の弟王子や妹姫、叔父にあたる王弟殿下も集まってのお茶会だ。招待されるのは妹と、その時々で何人か。呼ばれるのはものすごい名誉なことだった。


 妹はガタガタと震えながら、涙を溢れさせている。

 王子はそれを冷たく一瞥して、席を立った。

 俺も王子に従って部屋を出る。ドアのところで、部屋の執事に、暫く誰も来ないように、妹を一人にさせてやるように頼んでおいた。




「甘すぎるな、お前は。」


 俺は廊下で王子にダメ出しされてしまった。


「妹を庇いたい気持ちは分かるが、足を引っ張る身内を庇い続けていては、いずれ、政治的に大きな判断ミスをすることになるかもしれないぞ?」

「……はい。」


 王子がじっと観察するように俺を見る。


「お前も、よく考えろ。」

「はい。申し訳ありませんでした。」


 俺が深く礼をすると、不意に王子の雰囲気が緩んだ。


「まあいい。明後日の茶会の席が空いた。ラヴェンナ、代わりに出てもらおう。」

「……へ!?」

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