転生しました。
記憶が戻ったのは、王立魔術学園の正門を見上げた時のことだった。
そのまま気絶した俺は、従者によって入寮予定だった部屋に運ばれたらしい。初日から目立ってしまった。
俺の名前は前世では鈴木一郎、今生はラヴェンナ・ルクソールと名乗っている。ルクソール公爵家の嫡男である。
突然だが今いるこの世界は、前世のゲームの設定に酷似している。妹がやっていた乙女ゲーム、『恋する魔法少女』の世界だ。膨大な魔力を持つことが分かった平民の少女が、貴族だらけの王立魔法学園に入れられて有力貴族や王子様と恋愛するような話だった。
このゲームにどはまりした妹によって、無理やり俺もゲームクリアまでさせられている。さすがに全ルート攻略はしていないが、主要なキャラクターや設定などは頭に入っていた。正門から見た学園の風景はゲームとそっくりだ。
「うーん、まずいかもしれない。」
今生の俺にも妹がいる。名前はエリカ・ルクソール。ゲームの中では、主人公のライバルとなるキャラで、主人公にひどい虐めや嫌がらせを繰り返し、最後にそれがバレて断罪される人物だ。
「挙句、実家の公爵家も不正がバレたとかで取り潰されるんだよなぁ……。」
ゲーム通りにストーリーが進むと、俺もタダでは済まない。妹を説得して嫌がらせなどさせないようにするのが一番だけど……。
「アレの性格を矯正するのは、ちょっとキツイかも。」
今年、15歳で俺が魔法学園に入学。年子の妹は来年に入ってきて、そこから物語がスタートだと思う。現在妹は14歳。性格は結構出来上がっちゃっている。悪い方にだ。
「俺、妹より出来が悪いって馬鹿にされてるし。アレが俺の言うことを素直に聞くなんてありえない。」
一応、ゲーム中に俺も登場していた。
悪役令嬢の兄として、そこそこでしかない容姿と公爵の跡取りという身分をひけらかし、女生徒に不当に言い寄る酷い奴として。魅力的な主人公にも当然近寄ろうとするんだけど、攻略キャラクタによって防がれる。ハイスペック攻略キャラ達のかませ犬というか引き立て役的なキャラだ。
俺は寮の姿見で自分の容姿を確認した。
「偏差値65ってとこだろな。前世の俺からしたら超イケメン。でもなぁ……。」
多分、ゲームの主要キャラクタの容姿は軒並み偏差値なら70を超えている。王子にいたっては、100あげてもいい感じだ。
それからまた鏡を見て、俺はため息を吐いた。
「イケメンはイケメンなんだけど、ちょっと腹が出てるんだよなー。」
ぺらりとシャツを捲ってみる。お腹はぽよぽよだ。服を着てればまあバレない程度だけど、身体のラインが甘いのは何となく雰囲気に出ている。鍛錬をサボっているからだ。
「剣技ですら妹に勝てなかったからな。」
この世界の貴族は、男女問わず戦闘技能を磨く。性別の差より魔力の有無による力量差の方がはるかに大きいからだ。身体強化を使えは華奢な女の子がマッチョな男を投げ飛ばすことも余裕だ。
実家では年の近い妹と一緒に戦闘訓練みたいになったことも多々あったが、大抵は妹にガチで負けていた。妹は主人公のライバルキャラとして、俺より能力は高めに設定されているらしい。
妹に負けっぱなしの俺は拗ねて、最近は真面目に鍛錬しなくなっていた。
頭も、前世知識で数学とか補えるとはいえそんなに良くはならない。
魔法は好きだったが、学園では中の上くらいになりそうだと実家の家庭教師に言われていた。
「ここからバッドエンド回避か。難度高いな。まあ、出来ることから始めるしかないよな。」