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髪シリーズ

ショート(短短編)

作者: 高山夕

授業中、一本の枝毛を見つけた。きれいに二股に分かれている。亜子はそれを裂いた。それだけだった。その日の夜、彼氏のつとむから、ケータイの画面越しに別れを告げられた。亜子にとっては急な話だった。

亜子とつとむの出会いは、高校三年になったとき。クラスが一緒になるのは初めてだったが、二人はすぐに仲良くなった。そして四月が終わるころには、つとむが亜子に告白し、付き合い始めた。

それから、一週間経っていない。

理由を聞きたかったが、こわくて聞けなかった。これ以上、傷つきたくなかったのだ。亜子はある場所に電話をする。

「バッサリですね。」

「はい。枝毛になったので。」

亜子が電話したのは、ある美容室だった。予約をしていたのだ。亜子は、ここは初めてだった。なぜ来たのかというと、昨日ポストにチラシが入っていて、気になったからだ。来てみると、店は小さく、美容師一人でやっていた。美容師の年齢は五十代くらいで、お母さんのような安心感があると思えた。

「本当は、失恋したからなんです。」

髪を切り終えるころ、つい、そう言ってしまった。もしかしたら、最初から言うつもりだったのかもしれない。だって、悩みを打ち明けるのに最も最適なのは、あまり関わりのない人だから。

亜子はショートヘアになった。これを機に、つとむとのことを忘れようとした。

一週間経ったある日、亜子は学校の廊下で、つとむが女の子と楽しそうに話をしているのを見た。亜子はショックだった。これが理由かと思った。夜、泣いてしまったのが情けなかった。

数週間後、今度は別の女と中庭にいるところを見た。

亜子は、今日、あの美容室へ行く。ショートヘアを維持するために、一ヶ月に一回と決めていた。

あの美容室に通い始めて、三ヶ月目の帰り道、廊下でつとむと話していた女とすれ違った。ショートヘアだった。失恋したのだと思った。

四ヶ月目は、その女とあの美容室で鉢合わせした。まさか、同じ美容室だとは思わなかった。その帰り道、中庭にいた女とすれ違った。ショートヘアだった。もしかして、この女もなのか。

七ヶ月目になると、あの美容室は、ショートヘアの女でいっぱいになっていた。

亜子は二十歳になった。なんだかんだ、まだショートヘアを維持していた。今日はそのショートヘアに、豪華な髪飾りがついている。成人式なのだ。

会場に着くと、なつかしい顔がそろっている。その中に、つとむもいる。

「久しぶり。ありがとうな。」

つとむがなぜかお礼を言う。亜子は何が?と思った。

「髪だよ。いつも母さんのとこで切っているだろ?」

亜子が通っていた、あの美容室が、つとむのお母さんの美容室だと言うのか。亜子は信じられず、呆然と立ち尽くした。

つとむは高校生になると、母の美容室にあまり客が来ないのを、どうにかしようとしていた。そこで考えついたのが、恋人をつくり、別れて、髪を切らせるということだった。頼りない案ではあったが、チラシを入れるなど、工夫をした。

亜子はそれにまんまとひっかかったわけだ。今まで、ショートヘアを続けていたのは、実は、つとむとの失恋をひきずっていたからだった。髪を伸ばして、新しい恋に進むのを恐れていた。だけど、つとむは、とんだマザコン男だとわかったのだ。吹っ切れた気がした。

髪を伸ばそうと思う。





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