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ジンジャーエールと携帯電話

作者: ケーパン

澄み渡った冬の空を切り裂く様なまっすぐに伸びた一本の飛行機雲。見事なその飛行機雲に見とれて歩いていたら、曲がり角からふいに出てきた一人の女性と危うくぶつかりそうになった。

「ご、ごめんなさい。あっ!?」

「え!?」  

ぶつかりそうになったお互いの顔を見て立ちすくむふたり。こんな事って実際にあるんだ。もう、二十年も前にサヨナラした君とこんな形でバッタリ会うなんて。それもあの頃のふたりにはまったく無縁だったこの街で。

「まさか君にここで逢うとはビックリだね!この街に有る評判の洋食屋にランチを食べに来た帰りなんだ。せっかく奇跡の再会だ出来たんだからお茶でもしようか?あっ、それより時間はあるのかな?僕は今日、仕事が休みで何時まででも大丈夫だけど」 「私はこの近くの病院に入院している友達のお見舞いに来たんだけど、一足違いで退院してたの。時間が余っちゃったから、初めて来たこの街を散策していたところ。そうね、喉も渇いたし、そこの喫茶店に入りましょうか」

 二人は近くにある喫茶店に入ってジンジャーエールをオーダーした。

「君、やっぱり今でもコーヒーはダメなんだ」 「うん、あなたも相変わらずジンジャーエール党なんだね」

 コーヒーが苦手な僕たちはいつも喫茶店でのデートではジンジャーエールだった。 それにしてもすっかりあの頃とは容姿も雰囲気も変わってしまった二人なのによくお互いが判ったものだ。

「ねえ、あなた結婚した?」

「うん、娘が一人いるよ。今大学一年生。君は?」 「私も娘がいるよ。もうすぐ二十一歳になる」 「ええっ!じゃあ、君はあのあとすぐに結婚したって事?」 「うん、そうなるね。でも二股はかけてないよ。あなたとサヨナラしたあとすぐに知り合った人だから。まあ、いわゆる『できちゃった婚』ってヤツね」


 二十年前に僕たちがサヨナラした理由は些細な事が原因の喧嘩だった。少しそそっかしいところが有ったふたり。デートの待ち合わせ時間と場所を間違えて、お互いがお互いをすっぽかしたと勘違いし大喧嘩をしたのだった。その前にも気持ちを上手く伝えられずにすれ違っていた事がたびたびあった。しかもタイミング悪く、その喧嘩のすぐあとに、僕が仕事の都合で遠い場所に引っ越したりして自然にふたりの間に距離が出来て別れてしまったのだ。

「僕たちさ、気は合っていたのに、何だか上手く想いを伝えられなかったよな。今だったら照れ臭い言葉やごめんなさいも簡単に携帯やパソコンのメールで送れるけど」 「そうね、会って話す時は楽しかったけど、自分の気持ちを言葉で伝えるって事になるとなんだか照れちゃって……」 少しはにかみながら話す彼女。歳を重ねた彼女もなかなか魅力的だ......

 隣りの席では若い女の子が一人で携帯電話のメールに夢中だ。メールが終わると誰かに電話をしている。「今ね、いつもの喫茶店にいるの。暇だったらおいでよ」

 僕たち二人は何処にでもあるそんな光景を見てお互いに苦笑いをする。 「あの頃、携帯電話が有ったら僕たちふたりの人生って、全然違っていたのかなあ」 「どうだろうね。少なくとも待ち合わせの場所は間違えないよね」ふたりは声を併せて笑い合う。

 携帯電話、パソコン、ファックスなど、二人はそれらがまだ無かったあの頃を懐かしく振り返る。「あの頃はさあ、それが当たり前で、それでも楽しく過ごしていたんだよね」 僕の言葉に彼女もしみじみとうなづいた。

「なあ、今度はさあ、どこかで酒でも飲みながらいろいろと話さないか?」 「うん、いいねえ!連絡先教えてよ。自宅はまずいだろうからあなたの携帯番号を教えて」 「去年女房と別れて独り身だから自宅の番号を教えても別にかまわないけど、連絡が付きやすいのはやっぱり携帯だよね」 「えっ!?あなた離婚したの?わたしも先月旦那と別れたばかりよ!このタイミングであなたとバッタリ逢うってことは、もしかしてこれは運命なのかもね......」

ふたりは携帯番号を交換し、次に会う約束も交わした。お互い別々に過ごした二十年の歳月はもしかしたら、携帯電話が普及した現在の、今日の、この時のためだったのかもしれない......

 あの頃も、今も、ジンジャーエールの味は変わらない。 Fin

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