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giocoso(楽しげに)

 

「からーーーーすッッ!」



 叫ぶ梟雲きょううんの声が下方から上方へ反転する。

 そして左方から後方へ流れていく。


 270度の立体的なねじれを体感した俺は夕日に染まる海を見下ろしながら建物から建物へ跳んでいた。

 宇宙飛行士でもないのに異常な浮遊感を味わったことで全身の毛が逆立つ。


「おあああっっ!?」


「いいいいっっ!?」


 意気阻喪していたみさごまでもが夕暮れの世界に叫んだ。

 全身の毛が逆立っているかどうかは確かめてみないと分からないが。


「あははははっっっ!!! きゃーっちっっ!!」


 古代の怪鳥のごとく二本脚で俺と鶚を引っ掴み、切鴇美羽きりときみはねが空を飛んでいた。


 浮遊感は一瞬。


 落下する美羽は残る四本脚でホテル『水中花』の看板に着地しようとする。

 車道から見上げなければ確認できないほど背の高い看板が、今や海面から僅か1、2メートルの位置にあった。


「っ!!」


 凄まじい握力を発揮するキリコの四本脚が看板を掴んだ瞬間、俺と鶚はバンジージャンプを体験する羽目になった。

 跳躍の勢いに重力が乗ったお陰で、美羽の脚を支える液体生物がゴムのようにびよんと伸びたのだ。


「だあああっっっ!!!」


「にゃあああっっ!!」


 スレイプニルと見紛う六本脚の少女は四本脚で看板を掴み、二本脚をまっすぐに海面へ向けて垂らしている。

 海面にぶつかりかけた俺たちは限界まで伸びきったキリコが伸縮する力で更に数十センチ浮かび、再び海面へ。


「はっ……! はっ!」


 逆さ吊りの俺達は水面から僅か数センチの位置で静止する。

 足首を掴む骸骨の脚は強靭で、セメントで固定されたかのようにびくともしない。


 俺はとんでもない勘違いを犯していたことにそこで気づいた。

 キリコ、いやイグロゾアは『義手』や『義足』じゃない。

 人体と骨を結ぶ『液状の人工筋肉』とでも呼ぶべき代物だ。

 少々の負荷をかけてもちぎれることはないと踏んでいたが、まさか俺と鶚を足して少なくとも100キロの重量を支え切ってしまうとは。 


 あまつさえ、『伸縮』している。

 それは数十センチ程度のものでしかなかったが、ここにキリコ本来の握力が加わることで恐るべき事態が予想された。


(これ、ターザンロープみたいに使って移動できるんじゃ……)


 先ほど和尚が襲われた際、俺は『カフーが外壁をロッククライマーのように移動した』と考えた。

 だが『骸骨の腕をフックに、伸ばしたキリコをロープ代わりにして突入してきた』となるとまるきり話が違ってくる。

 その推測が正しいとすれば、キリコ人間は樹上を跳ぶ猿のようにして移動できるのだ。


 蜘蛛のように這い回るだけなら振り切れる。

 だがそこに『跳躍』という選択肢が加われば、火楓かふう達の移動範囲はもう一段階広がってしまう。


「く……!」


 すぐ傍では鶚が大きな羽型の簪を外そうと手を伸ばしていた。

 もしかするとナイフでも仕込んであるのかも知れない。


 俺はゆっくりと美羽を見上げようとした。

 が、その視界に何かが降って来る。


「どぅああああっっ!!」


 ざぶううっと派手な水柱を上げて看板が落水した。

 冷たい海水をまともに浴びた俺は何度か咳き込む。


 スカートの中を覗き見る間もなく、美羽は俺と鶚を引き寄せるや、ぐるんと鉄棒を掴んで回転する。

 それは脚を使っている点を除けば器械体操の選手さながらの鮮やかな一回転だった。

 しなりもしない鉄棒で、キリコを纏った少女は見事な回転を決め続ける。

 巻き込まれた俺と鶚は目を回し、遠心力の為すがままに両手を伸ばした。


 伸身の新月面が描く放物線は、残念ながら地獄への架け橋だった。

 再び宙を舞った美羽は数メートル、いや、十メートル近い跳躍体験を俺達にプレゼントしてくれる。


 今度は俺達を掴む二本脚だけを頭上に掲げる格好だ。

 次なる建物に軟着陸した瞬間、俺はもはや彼女から逃れられないことを悟っていた。


「からすっ! まてっ!」


 梟雲は腕を折られているにも関わらず泳いで追いかけようとしていた。


「バカ野郎! 逃げろ梟雲ッッ!! キリコが来るぞ!!」


 美羽が四本脚を駆使して走り出す。

 梟雲はあっという間に海面に浮かぶ小さな黒点と化した。


「和尚だ!! 和尚と合流しろぉぉっっ!!」


 俺の声が長く伸び、そして消えた。









 茜色の空に紫色が滲み、あっという間に空全体に溶けだしていく。

 半紙に落とした一滴の墨が広がっていくように。


 俺と鶚が連れ込まれたのは、ホテルからそう遠くない場所に位置する六階建てのビルだった。

 当然なら海が近く、その気になれば昼休みにサーフィンでもできそうな好立地だ。


 既に一階部分は水没していたが、ビルを保有する企業の名はすぐに知れた。

 二階窓から内部へ侵入した美羽は俺達を引きずるようにして奥へ誘ったが、その際にちらりと見えたのだ。

 ――――『HDL』というロゴが。


 かちゃん、と軽やかな音を立てて俺達の手が拘束される。


「ちょ……」


「っ」


 世界が薄闇に包まれる直前、俺はプラスチックと思しき素材の手錠を見ていた。

 金属でなければどうにかなる、なんてことはなかった。

 後ろ手に拘束されてしまえば文字通り手も足も出ない。


「ふふ」


 美羽は俺達の両手を拘束すると、会心の笑みを浮かべて二本のキリコ脚をうねらせる。

 近未来SFで見た多機能アーム。

 そんな表現がしっくり来る。


「はいこっちー」


 陸上生活を始めたタコのように四本脚で廊下を移動する美羽は俺達を骨の脚でぐいぐいと引っ張った。

 二階から斜め下へと伸びる階段を渡って一階へ。

 一階から――――


(地下?! ちょっと待て何で入れるんだ……?)


 俺の驚愕に気づいてか、鶚がやや疲れた声を漏らす。


「……最初から海の下にある施設?」


「正解」


 美羽は振り返り、小さくウインクして見せた。

 赤と黒のチェックスカートに結ばれたチェーンが夕陽の名残を反射してきらりと輝く。


「水没した区画もあるらしいんですけどね。耐水耐圧には気を遣っていたみたいですよ」


 言われてみれば俺たちは二階から斜め下方向へ続く階段を降りていた気がする。

 それに通路は妙に長く、地下に入ってからは窓も見当たらない。

 このビルは完全な直方体構造ではなく大樹のように根を伸ばしているのかも知れない。


 優に十数分は歩いただろうか。

 俺たちは見るからに怪しげな扉の前に立っていた。

 そこは成人の目の高さに分厚いガラス製の小窓があり、中の様子を覗けるようになっている。


「入って入って」


 中へ押し込まれた俺たちは瞬時にその場所の存在理由を察した。

 ――――「檻」だ。


 内部はやや明るく、白い床と淡いグリーンの壁面を視認できる。

 申し訳程度のベッドはいかにも硬そうで、悲しいことに革手錠が標準装備されているのが見えた。

 他にあるものと言えば丸い穴の開いたゴミ箱が一つだけだ。

 そこへ捨てるのはゴミではなく排泄物だろう。


 通路に放置された銀色のカートには「何か」を乗せていたと思しき瓢箪型のトレーが乗る。

 すぐ傍を通り過ぎる瞬間、刺激臭がつんと鼻をついた。

 それに気のせいでなければ鉄の匂いも。


「止まらな~い。止まらない。はい歩いて歩いて。カラスさんはそっち。鶚ちゃんはこっち」


 美羽はもはや腕と称して差し支えないほど器用に動く脚で、俺と鶚を隣り合う檻へ放り込んだ。

 きい、と軋んだ金属製の格子戸が閉じられる。


「美羽!」


 突き飛ばされた俺はすぐさまUターンして格子戸へ近づいた。

 そして冷たい鉄棒の隙間から鼻だけを突き出し、美羽に訴える。


「鶚を手当てしてやってくれ」


「え?」


「指を噛み千切られてる」


 俺の位置から鶚の様子は窺い知れない。

 だが彼女が変色するほどきつく唇を噛んでいることには気付いていた。

 痛みも限界に来ているだろうが、それ以上に手当の方が気になる。


 失血死は免れるかも知れないが、感染症に罹る危険性があった。


「んー……。……ううん。いい。私はしない」


「ああ?」


「大丈夫。お薬なら持って来てくれるって」


「誰がだ」


「ふふ。鶚ちゃんのファンの人」


「?」


 美羽はそれ以上鶚には構わず、格子越しに俺を眺める。


「ねえねえカラスさん」


「何だよ」


「これ、似合う?」


 美羽は一本脚を軸にくるりと一回転して見せた。

 赤と黒のチェックスカートは短く、脚の危ういところまでが露わになった。

 俺は思わず中腰となったが、ありがたい部分を拝むことは敵わなかった。


「も、もう一回!」


「えぇ~」


 くすぐったそうに笑った美羽はかちゃかちゃと骸骨の四本脚を檻に引っ掛ける。

 そして、ねえ、と問いかけた。


「カラスさんはどうしてこっちに来なかったの?」


「……」


「腕、斬るのが怖い? 麻酔を打ったら来てくれる?」


 俺が無言でいると美羽はなおも檻へ顔を近づけた。


「腕を斬られたら怒っちゃいそうだから? 殺したくなっちゃいそうだから?」


 今度は美羽が鼻を突き出した。

 俺は数歩後ずさり、ベッドにつまずいてそこへ腰を落とす。


「違うの? じゃあ怖いんだね?」


 美羽は土足で俺の内面へ踏み込んだ。


「いじめられると思ってるの?」


「……お前、何でカフーについたんだよ」


 答えず、俺は逆に彼女へ問いを投げる。


「実家、金持ちなんだろ? 親も普通の人なんだろ? だったら――――」


「お金があれば幸せになれるの?」


「なれるだろ」


「なれないよ。お金でこんな素敵な脚は買えない」


「脚があれば幸せになれるのか?」


 今はWEBコンテンツが充実している。

 百年かけても読み切れないほどの漫画があるし、ゲームは日々新しいものが生まれているし、小説だって映画だって溢れかえっている。

 呼べば家具だって食い物だって一晩で届く。

 もしかしたら人間だって。


 脚がなくても平気な時代が来た、とまでは言わない。

 だが切鴇美羽が素封家の娘である以上、不幸を嘯けるハードルはかなり高くなっている。


 言っちゃ悪いが、一生遊んで暮らせる金を親が稼いでいて、電動車椅子を買い与えられる程度に愛されているのなら「不幸」なんてありえない。

 俺はそう思ってしまう。


「私ね? バレリーナになるのが夢だったの」


「えっ」


 虚を突かれてたじろぐ俺を見、両手を後ろに回した美羽は悪戯っぽく笑う。


「嘘だよ」


 彼女は俺に背を向け、かちゃかちゃと檻から少し離れた。

 淡いピンク色のカーディガンを羽織る背中は思った以上に小さい。


 立ち上がった俺は彼女に近づき、その真意を見透かそうとする。

 だが俺はエスパーではなかった。


「嘘だから。……別に、将来のことなんて考えたことないよ」



 こつかち、こつかちこつかち、と早足で靴音が近づいて来た。



「美羽さん!!」


 ばあん、と扉を開けたのは濃紺のセーラー服を纏う少女だった。

 黒タイツは片方だけで、残る一本足は既にキリコと化している。

 咲酒鴨春さきさかおうしゅん

 ――――俺たちを謀っていた抜け目ない女。


「お帰り、シュン。……どうしたの、汗かいちゃって」


 美羽の言う通り、鴨春は息を切らしていた。


「どうして私を置いて行ったんです!」


「どうしてって言われても」


 こつかちこつかち、とキリコの足音と靴音が交互にリズムを刻む。


「本来ならあそこで――――ッ!」


 通路を憤然と歩んでいた鴨春が隣の檻の前で足を止めた。 


「可哀そうに。怪我をしたんですか、鶚ちゃん」


「え? う、うん」


「ツルの仕業ですね。あの男……私への当てつけのつもりですか」


 鴨春はすぐさまどこかへと消え、一分もせずに戻ってきた。

 美羽が鍵を放り投げると鴨春がキャッチした。

 がしゃん、と格子戸が開く。


「診せてください。すぐに消毒して包帯を巻きます」


 鴨春が手当を始めると、何度か鶚が悲鳴を噛み殺す声が聞こえた。

 美羽はそちらをぼんやりと見つめたまま俺に言葉を放る。


「話の続きなんだけどね?」


「あ?」


「私、別にカフーと組んだわけじゃないよ。この脚だって私が自力で手に入れたものだし」


「じゃあ何で――――」


「……」


 美羽はそれきり口を閉ざしてしまった。

 沈黙の内に、鴨春がひと息つく気配が伝わった。


「これで大丈夫です。痛くても掻かないで。本土へ戻ったら然るべき医療機関で手当てしてもらいましょう」


「……」


 鶚の訝しむような呼吸が聞こえた。

 それもそうだ。

 カフーはキリコ人間にならない奴はどうなっても知らないというスタンスなのだから。


 鴨春が鶚を治療してやる義理は無いはず。


「ねえ、カラスさん」


 気づけば檻が開いており、美羽が中へ入って来るところだった。

 俺は後ずさり、先ほどと同じようにしてとすんとベッドに尻もちをつく。


「カラスさんはピンク色は好き?」


「あー……いや、俺男なんで」


「好き?」


「はい好きです」


 座ったまま背筋をピンと伸ばすと美羽は微かに頬を染めて微笑む。

 なぜ今、このタイミングで笑うのか。

 俺はその意味を理解できなかった。



 ――――鴨春の声が聞こえるまでは。



「美羽さん」


 隣の檻から鴨春が声を投げた。


「なあに?」


「カフーは少し散歩をして戻るそうです。鷺沢さんと、あの黒髪の女が気になるそうです」


「どれぐらいかかると思う?」


「二時間ぐらいでしょうね。他の連中もいますし」


「そっか。二時間かぁ」


「ええ。二時間です」


 くす。

 くすくす。


 クスクスクス、と。


 キリコ人間の二人はどちらともなく忍び笑いを漏らした。


「な、え。鴨春、何でこっちに来るの。もう手当は――――」


「ええ。手当は要らないでしょう。……みぃちゃん」


「み、みぃちゃん?!」


「そう呼んでもいいですか」


「嫌に決まってるでしょ。え、何で。ちょっとどこ触って……きゃっ」


 衣擦れの音が聞こえる。

 それから鶚がうっと呻く声も。


「……私の周りには甘えん坊の女が多かった。我の強さを、礼節に欠ける振る舞いを、人間性の未熟を、ありのまま受け入れてくれる人間を求める女ばかり。そんな都合のいい人間がいるわけがない。ましてこの手で掴むものにしか価値を見出さない私がそんな人間であるわけがない」


 その点、と鴨春は言葉を継ぐ。


「あなたは周りに何も求めていない。自分の知恵と、自分の身体だけを武器に生き抜いてきた。今までも、そしてこれからも。……あなたはとても、私に似ている」


 熱情を秘めた鴨春の瞳と、微かな怯えと困惑に揺らぐ鶚の瞳。

 二人の視線が絡み合うのが目に浮かぶようだった。


 が、鶚の声が沈黙を破る。


「……かっ、カラス! 何とかして!」


「任せろ!! おうコラ鴨春! 代われよ!!」


「代わるな! ふざけるなバカガラス! 死ね!」


 鴨春は俺達の言い争いが止むまで数秒沈黙し、ややあって口を開いた。


「鶚ちゃん」


「な、何?」


「正直に答えてほしいんですけど、私よりカラスの方がいいですか?」


「え? いや、カラスは無い」


「鶚! 俺は命の恩人だぞ!」


「レイプ未遂する命の恩人がどこにいるの!」


「ふ、踏みとどまっただろ!」


「その後私を簀巻きにしたままその……したくせに!」


「や、あれは! ねえ、その……大変良かったですけど!」


「せめて私の手をほどいてからやってよ! 見せつけられるこっちの立場にもなっ……ちょっ」


「そうでしょう?」


 鴨春が再び鶚に迫る気配があった。


「自分より知武勇いずれかで劣る男は嫌いでしょう? 甘えられるのは大嫌いだし、ダメな男に母性を感じたりもしない。かと言って、強さを誇示する品の無い男も嫌い。鈍感な男も。謙虚でない男も。あなたは誰にも甘えたくないから」


「……」


「あなたのように強い女は根本的に男と合わない。あなたに釣り合うのはきっと……私だけ」


 う、と鶚が尻込みするような気配を感じた。

 ぴた、と聞こえた小さな音は鴨春が鶚の手を握る音だろうか。


「古今東西、女の捕虜がどうなるかは知っていますね?」


「ぅ」


「怖がらないで。あなたがいいと言うまで私は」


 言葉が途切れた。

 それに二人の呼吸も。


 三秒。

 五秒。

 ずいぶん長いキスだった。


「――――私はこれしかしません。あなたがいいと言ったら、それ以上のことをします」


 鶚が戸惑いの吐息を漏らす。


「……ああ。隣が気になりますか? じゃあこっちへ」


 二人は檻の中をほんの少しだけ移動した。

 それからひそひそと二人の声が漏れ聞こえて来た。


「――――……。……」


「! ……――――」


 時折鶚が強い口調で何か言っているのは拒絶なのか、恥じらいなのか。

 聞こえるのは服のこすれ合う音と、鴨春のキリコ脚がリノリウムの床を叩く音だけ。

 それ以上の状況を俺が知ることはできない。


 何せ、もう一人のキリコ人間が目の中にハートマークをちらつかせて俺を見つめているのだから。


「……私の身体にはね? ピンク色の部分がたくさんあるの」


 かちゃ、かちゃり、と。

 ひどくゆっくりと美羽が近づいて来る。


 駆け抜ければかわせるか。

 いや、不可能だ。この場で六本脚をかわしたところで追いつかれるのが関の山だ。

 第一、檻の鍵はどこに行ったんだ。


「お口もそうだし、ほっぺたも、唇も、指も、爪も。……それと、他にもあるの」


 美羽はキリコ脚で俺を押し倒すと、馬乗りになる。

 彼女が両手でスカートをつまむに至り、ようやく俺は彼女の意図を察した。


 そんなことしてる場合じゃない。

 初めては大切な人のために取っておくべきだ。

 いや、そもそも初めてじゃないんですか。そうなんですか。

 様々な問いが俺の脳裏を過ぎり、過ぎった分だけ身体も止まる。



「どのピンクが一番好きだったか……後で教えてね?」



 少女の甘い匂いが俺を包む。

 美羽のピンク色の部分はどこも柔らかく、そして温かい。

 ――――いや、硬いところもあった。


 例えば、と考えたところで俺の唇が塞がれる。

 何に塞がれたのかを考える余裕はなかった。

 何であれ、はしたないモノであることに違いはない。



 ひどく長い二時間が過ぎていく。



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