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sostenuto(音を保持して)

 

 緋勾はあくまでもゆっくりと、上品に、大量の肉を口へ運んでいた。

 濡れた衣服を脱いだ彼女は下着の上からブランケットを被り、網で焼ける肉を次から次へと食らっていく。

 一心不乱に安肉を貪る緋勾の姿は微笑ましくもあり、痛ましくもあった。


 火傷しかねないほど熱源に身を寄せるのは見ていて危なっかしかったが、兄貴が低体温症の可能性を示唆したのでそっとしておいた。

 高波に飲まれた彼女はきっと俺以上にきつい目に遭ったに違いない。

 よく見れば手足に切り傷を負っている。


「バン、誰だこいつ」


「十三鷹さん家の緋勾ちゃん」


 トミタカ、と呟いた兄貴は緋勾の素性に気づいたらしいが、それ以上の言葉はなかった。

 もくもくもく、ごくん、と理想的な咀嚼と嚥下を見せた緋勾は指の関節で器用に口元を拭う。


「烏座さん。この方は?」


「俺の兄ちゃん」


 体育座りをした緋勾は物怖じもせず兄貴を睥睨した。

 腿の付け根の暗がりに白い下着が見えていたが、彼女は気にするそぶりも見せない。


「十三鷹です。美味しいお肉をありがとうございます」


「俺が拾ったわけじゃない。礼は要らん」


「出所は存じませんが、焼いてくれたのはあなたでしょう。誤解なきよう」


 ふん、と兄貴は鼻を一つ鳴らし、立ち上がる。


「どこ行くんだよ」


「帰る」


「うえ!? ちょ、ちょっと待てよ」


 俺は慌てて兄貴の前に回り込んだ。

 兄貴は両手で側頭部をなぞり、乱れたオールバックを整える。


「俺も一緒に行くから待てって」


「そうか。その女は置いて行くのか」


「?」


 疑問の表情を向けると、実兄はふう、とため息をつく。


「バン。船はあと一艘しかないだろ」


「へ? 二人で乗ればいいじゃん。俺か、兄貴が」


 言ってしまった後で気づく。

 どうやら俺は舞い上がっていたらしい。

 脱出手段である船と、俺に金と権力をもたらしてくれる緋勾。この二つを手にしたことで正常な判断能力を失っていた。

 よく考えてみると――――


「ホバークラフトも水上バイクも一人乗りだ。……俺のガタイで二人乗りはできない」


「いや、でも俺は」


「乗ったことがあるのか、あの手のオモチャに」


「ぅ」


 確かにそうだ。

 俺はマリンスポーツなんかやったことがないし、自動車免許もまだ持っていない。

 残念ながら俺の運動神経は人並みだ。緋勾を背負った不安定な状態で初体験の水上バイクを完璧に操縦する自信はない。

 さりとてクルーザーの時のようにサイドカーを設置することもできない。

 豪雨によって海は荒れている。少しでもバランスを崩せば最後だ。


 どう頭を捻ってみても現状を打開する妙案は浮かんで来なかった。


 マジかよ、と俺は内心悲鳴を上げる。

 小生意気な言葉が喉までせり上がってくるが、兄貴に反駁しても仕方がない。

 脱出できるのは三人中二人という現実は動かない。


(……)


 一人は兄貴で固定だ。

 もう一人は俺か、緋勾か。


 はむ、もむ、と緋勾が肉を噛みながらこちらを窺っているのが分かる。


 彼女を見捨てることは簡単だ。

 このままベッドに連れて行って恩返しプレイに興じた後、殺すか置き去りにすればいい。

 だが金持ちだ。それもこの環境下で考えられうる最高の金持ち。

 この子を失った後、鴨春や美羽が五体満足で俺の前に姿を現すとは限らない。


 さりとて緋勾を助けてしまうと、俺のハーバー12残留が確定する。

 キリコと、極限状態の人類と、じわじわせり上がって来る海水の中に置き去りだ。

 切り札である兄貴は島を去る。

 和尚と鶚の行方も知れない今、さっきの兄弟のような奴やドクロ仮面に出くわしたら最後だ。


(どうする……)


 金か、命か。

 緋勾か、俺か。


(……ま、初志貫徹だな)


 このまま兄貴と一緒に脱出しても、待っているのは元通り「ゼロ」からの生活だ。

 俺はプラスが欲しい。

 そして何かを得るためには何かを失うのが道理だ。

 貴重な脱出の機会を一つ使って「プラス」を確保する。

 決して悪い状況じゃない。


 首筋に痛い程突き刺さる視線の中、俺はため息を一つ吐いた。


「兄貴」


「何だ」


「緋勾のこと、頼む」


「!」


 ばっと立ち上がった緋勾の肩から毛布がずり落ち、均整の取れた白い肢体が露わになる。

 下着は純白だが、100均のそれとあまり変わらないように見えた。


「……いいんですか? 私、遠慮なく乗りますけど」


 こいつもこいつでなかなか冷たい。

 助けに来た連中や鴨春、美羽、それに子供達のことは気にもしていないらしい。

 表情には出さなかったつもりだが、緋勾は俺の目をじっと見つめていた。


「ご心配なく。船ならおそらく無事です」


「あん?」


 俺の白眼視を見抜いたのか、彼女はふっと冷笑を浮かべる。

 すとんと座り込んだ緋勾の腿の暗がりにはまだ白い布きれが見えたままだ。


「何でそんなことが分かるんだ?」


 俺は緋勾の楽観視を責めるかのような鋭い眼差しで――――大変ありがたいパンツを眺めさせていただく。


「浮き輪ってご存知?」


「知ってるよ馬鹿にするな」


「失礼。ではあなた方が波にさらわれた直後、浮き輪が投げ込まれたのは見えていましたか?」


 俺は押し黙る。

 そんなものまったく見えなかった。

 俺はただ洗濯機の中の虫のようにぐるぐる回っていただけだ。


「鴨春と鷺沢さんは真っ先に浮かび上がって浮き輪を掴んでいました。船もかろうじて転覆していませんでしたから、おそらく助かったのではないかと」


 俺がテーブルから持って来たホオズキの髪飾りは床に置かれている。

 緋勾はそれを指でつつき、濡れた指先で文字を描く。


「これはあの子のものでしょうね。こんなところまで流れて来ていたなんて……」


「……ちょっと待て」


「何でしょう」


「それ全部見てたんなら、何でお前がここにいるんだよ。お前、甲板の方にいただろ」


 船尾側にいた俺たちが落水するのは仕方ないが、船首側にいた緋勾はそう易々と振り落されることはなかったはず。

 緋勾は口を噤み、軽く嘆息して続けた。


「美羽が、落ちるのが見えたから」


「? ……まさか飛び込んだのか!? アホかお前。それこそ周りのオッサン連中にでも――――」


「身体が勝手に動いたんです!」


 思いがけず大きな声を上げた緋勾は、はっとしたようにそっぽを向く。


「……誤解しないで」


「……」


 俺は下着から目を逸らし、水のボトルを転がしてやる。

 喉の渇きに気づいたのか、緋勾はボトル半分もの水を一息で飲んだ。


「鷺沢さんと鴨春が無事なら子供達は助かっているでしょう。でも美羽はもう……」


 両脚を失くした少女が高波に飲まれて無事なはずがない。

 緋勾はそう言いたいのだろう。

 俺もほぼ同意見だ。

 ただ、緋勾本人が言った通り、ハーバー12の人工物には少なからず浮材が紛れ込んでいる。

 無事である可能性も案外、低くないのではないか。


「美羽を見つけたらキリコの来ない場所に匿っとくよ」


「ええ。お願いします……せめて一族のお墓に眠らせてあげたいので」


「まだ死体と決まったわけじゃないだろ」


「そう、ですね」


 兄貴は事務机のパイプ椅子に腰かけたまま、うつらうつらし始めていた。

 ぱち、ぱちんという炭の音は確かに長く聞いていると眠気を催してくる。


 俺達はしばらくの間無言で暖を取っていたが、ふと気づく。


「緋勾。……鶚は?」


「……」


 緋勾は白い足を抱くようにして身を丸くする。


「あの人、あなたの恋人か何かですか?」


「いや、大学の先輩。会ったばっかりだ」


 そう、と緋勾は顎を毛布に埋め、俺に一瞥を寄こす。


「あの人は……投げ込まれた浮き輪を子供から奪い取りました。繋留されていなかったのでそのまま流れて行きましたけど」


「!」


「私も人のことをとやかく言うつもりはありませんけど」


 どくっと心臓が跳ねた。

 兄貴がかくんと首を揺らし、ぱちんと炭が爆ぜる。


「……あの人は死なせた方がいいと思います」


 じっと目を覗き込まれた俺は、返す言葉を見つけられなかった。








 こりり。



「!」


 俺と緋勾は飛び上がるようにして音のした方を見やったが、兄貴は伸びをしながら目覚めた。

 きし、とパイプ椅子を軋ませて立ち上がる。


「キリコか。……中にいたのか」


 ちょっと田んぼの様子を見て来る、といった足取りで兄貴は階段へ向かい、一階を覗き込んでいる。

 そこには男一人と子供一人を引きずった血痕が続いていた。


「……何だ? 磔にされてるのか、あれは」


 兄貴は鋭い目で俺を振り返るが、俺にも何が何だか分からない。


「あいつらがやったんだよ。燕と鶯が。確か――――」


 あれ。

 何か忘れていないだろうか。


 奴らはキリコを何て呼んだ?

 確か――――


「『ゾア』。そうだ。ゾアって呼んで……」


「ぞあ?」


 こりりり、と。

 キリコが動き出す音がする。


「確か、海外の言葉で『獣』という意味だったかと」


「獣? 骨だろう、あれは」


「私は全知全能じゃありません」


 兄貴はキリコに怯えた様子もなく、立てかけられていた棒を操り、何かを引き寄せている。

 俺がそちらへ向かおうとすると、きゅっと服の裾が握られる。

 緋勾だ。


「……何だよ。座ってろ」


「興味があります」


「何でそこ掴むんだ」


「いざとなったら盾にします」


「悪魔か」


 振りほどくこともできず、俺は緋勾を庇うような格好で階段へ向かう。


 兄貴は頭部のひしゃげた燕の死体を引っ張り上げていた。

 ドアに張り付いていたキリコがばちゃばちゃと海面で音を立てたかと思うと、すーっと一直線にこちらへ流れて来るのが見えた。


「お、おいおい兄貴」


「黙ってろ」


「手足と頭を外すんだ、兄貴。そしたらそいつらは攻撃できなくなる」


「分かってる。ここに来るまでに何匹バラしたと思ってるんだ」


 階段にたどり着き、かちゃかちゃと人体を構成しながらキリコが這い上がる。

 奴はこりり、かりり、といつものように人間へ歩み寄って来る。

 ただし――――


(? 遅い……?)


 ぎぎ、ぎぎぎ、と。

 どこかキリコの動きに軋みが見られる。

 まるで油の切れた人型ロボットだ。


「バン。感じるか」


「?」


「……酒だ。こいつから酒の匂いがする」


「酒……?」


 兄貴はキリコから目を逸らさず、すっと瞳を細めていた。


「どういうことだろうな、これは」


 検証はそこで終わりだった。

 兄貴はくるりとその場で一回転すると、水平に近い回し蹴りを放っていた。

 ぱかあん、とボウリングのピンよろしく肋骨が散らばり、脊椎もまた海へ沈む。


「ふっ!!」


 なおも動こうとしていた手首をヒールキックで後方へ蹴とばし、その場で跳躍した兄貴は頭蓋骨を粉々に砕いた。

 べぎん、めぎぎっと痛々しい音が響く。









 燕と鶯の残した物資はすべて俺が頂くことになった。

 兄貴と緋勾は本土に戻るのだから不要だ。


 防水袋に必要物をきっちりと詰め込んだ俺は発泡スチロールを組み合わせて小さなイカダを作り、木製のコート掛けの枝を落として櫂とした。

 荒れた海には到底出られないが、市街地なら移動できるだろう。

 イカダを海に浮かべながら、ちらりと横を見る。


 兄貴の乗ってきたホバーは平べったいゴムボートに扇風機が二つくっついている形状だった。

 玩具のようにしか見えないのだが、あの兄貴をここまで運んだのなら耐久性は抜群だろう。

 操縦の容易なホバーを緋勾に譲り、兄貴は燕の遺した水上バイクに飛び乗る。


「おい」


「ん?」


「俺は善人が嫌いだ。人間の価値を善悪で測り、何が善なのか知った振りをする奴が」


 バイクにどすんと乗った兄貴はいかにも窮屈そうだった。


「知性を嘯く奴も嫌いだ。人間の価値を知性の有無で測り、何を以って知的であるかを決めつける奴が」


「……はあ」


「お前はそのどちらでもない。俺の絞りカスであるお前に残された、数少ない長所だ」


 兄貴はいつも通り、高慢ちきな表情で俺を見下していた。

 数秒かけて意味を理解した俺は額に手を当てる。


「俺が……頭が悪いうえに性格も悪いって言ってるのか、兄貴?」


「そう言ったつもりだ」


「ちょ、待てよ! 人生最後に聞いた兄貴の言葉がそれになるかも知れないんだぞ!?」


「ハーバー12はじきに沈む。愚弟へのせめてものはなむけだ」


「ただの悪口だぞ今の」


「お前の「長所」だと言っただろ。褒めてるんだよ」


「余計悪いっつの」


「カラス」


 緋勾だ。

 ホバーに乗り込んだ彼女は無感動な瞳で俺を見つめている。


「……美羽と鴨春のことをお願いします」


「ああ。分かってる」


「鷺沢さんにもよろしく伝えてください。崖定鶚は殺すように」


「あーあー分かったって。お母さんかお前」


 俺が苦笑すると、緋勾は少しだけ語調をやわらげた。


「……あなたも気を付けてください」


「どーも」


 いささか照れくさく、俺は燕のように髪をかき上げてみた。

 長くも短くもない髪は中途半端に跳ねるばかりだった。


「あの」


「ん?」


「名前……まだ聞いていませんでしたよね。烏座は苗字でしょう? あなたの名前は?」



「バンコツ」



「え?」


よろずほねで万骨。俺の名前は烏座万骨からすざばんこつ。そっちの兄貴……鶏闘軍覚とりとうぐんかくの弟」


 ふん、と兄貴が侮蔑の感情を隠さず笑う。


「ポンコツに相応しい名前だ。俺のように優れた人間の養分となることを運命づけられている」


「違えって、兄貴。俺の名前は「万事に使える骨」って意味だ」


 四文字中三文字がパワフルな兄貴とは大違いだし、骸骨が闊歩するこの状況ではなかなか不吉だが、俺は自分の名前が結構好きだ。

 字面はしょぼいが、いいダシが取れそうな名前だからだ。


「万骨、ですね」


 緋勾はそっと胸元のリボンを押さえた。

 ほんの少しだけ、彼女の表情が柔らかくなったように感じる。


「本土で待っています。気を付けてください」


「ああ。……おっと、言い忘れるところだった」


 ホバーに乗り込んだ緋勾が振り向いた。

 だいぶ乾いた髪からはもう甘い香りが漂っている。さっきまでびしょ濡れだったくせに、女は不思議だ。


「卒業後の就職先募集中なんでヨロシク」


「就職先?」


 ああ、と俺は深く頷く。

 本土で親御さんに会ったらぜひ伝えておいてもらわなければ。


「できれば永久に就職できるようなところがいい。この意味、分かるな?」


「……。……へ?」


「そういうことだ。忘れないでくれ」


 このご時世、年功序列ばっちりで退職金も福利厚生も完備で絶対に倒産しない企業は限られている。

 そういう会社に、俺は就きたい。

 楽して甘い汁を啜るのだ。それも十三鷹という最強の後ろ盾つきで。


「え、え……?」


 緋勾はなぜかオロオロと視線を泳がせ、顔を真っ赤にしていた。

 駆け引きを弁えている俺はあえて謙虚に振る舞う。


「もちろん無理にとは言わないけど、さ。……そうなったら俺は嬉しい。ハッピーだ」


「ぁ、うん。……いえ……あ、はい」


 緋勾は名前通りの色に頬を色づかせ、頷く。

 羞恥を催すようなお願いかも知れないが、庶民には重要なことだ。

 本土に戻ったら親御さんにはちょっと誇張気味に俺の活躍を話すとしよう。


 レイプ寸前だったお宅のお嬢さんを助けたのは俺です。どうやったかって?

 小学生にボコられて、彼女よりひと足先に捕まって、指をちょん切られて、ベッドにぐるぐる巻きにされて、蹴り上げられて、踏まれて、首謀者を滅多打ち――――

 ――――だいぶ文才が必要になりそうだ。


「おい。行くぞ」


 兄貴は野太い声を投げると、軽く肩をすくめてバイクのキーを回す。

 どるるっと短いエンジン音の後、白波が立った。

 緋勾もまた努めて冷静に計器類を操作するような挙動を見せ、後方のファンが回り始める。



 あっという間に二人の姿は遠ざかる。

 緋勾のホバーは危なげなく兄貴に追従し、道路を曲がって行った。

 彼女はおそらくこのまま無事に本土へたどり着けるだろう。

 もしかしたら再度救援を寄こしてくれるかも知れないが、それまでハーバー12が持つとは限らない。

 脱出手段は自力で探し出すしかない。




 さて、と俺は水没寸前の都市を見やる。

 縁起が良いのでホオズキの髪飾りは自分の髪にぶっ差しておくことにした。



 和尚と鴨春が無事ならまだ緋勾を探し回っているかも知れない。あの二人と合流すれば心強い戦力になる。

 鶚も気がかりだし、美羽が生きているとすればどこかに漂着しているかも知れない。

 脱出手段の確保も急務だ。

 やるべきことは多い。


 かと言って、生存者がすべて安全だとは限らない。

 俺程恵まれていない連中は容赦なく物資を奪い取りに来るだろう。


(どうするか……)


 少し迷った末、俺は背の高い建物へ向かうことにした。


 オフィスビルはダメだ。人が閉じこもっている可能性がある。

 繁華街も同様だ。人が多いし、それ以上にキリコが多く集まるはず。

 賃貸マンションも危険だ。物資の奪い合いが起きている可能性がある。


 向かうべきは背が高く、人もキリコも寄り付かない建物。

 そこから地上の様子を確認して行動の指針を定める必要がある。


 俺はゆっくりとオールを動かした。


「お、綺麗だな」


 濁った水面を流れていく紅葉に目を奪われていると、櫂の先端が自動車にぶつかった。

 ぴちゃりと足首に水が跳ねる。


「冷たっ……!」


 肌に触れる水は刺すように冷たい。

 風も容赦なく吹いており、せっかく温まった身体から見る見る内に熱が奪われていく。


 だが俺の心には確かな灯があった。


 緋勾を助け出すことができた。

 俺は彼女に十分な恩を売ることが出来たに違いない。

 後は俺自身が脱出する方法を見つけることができればオールオッケーだ。


 金づるをゲットしたことで俺の未来は薔薇色に輝いていた。




 僅か30分後、ドクロ仮面と出くわすまでは。




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