第三幕 賞金稼ぎ
この国が世界を知ったのは、もう五百年近く前のことだ。
当時においても霊術については古くから感覚的に運用されており、科学技術と異なり、当時から半自動的に門外不出となっていた。
四方を海に囲まれたこの国に様々な道具や知識を一方的にもたらした大陸の国は、地続きとなっていたことと国土が大きすぎたことが災いした密かな侵略に対応が遅れ、いくつもの他の国に食い尽くされようとしていた。
科学力では一目置いていた大国の凋落に、時の政府は危機感を覚え、当時の最高級の術士と学者、商人などを一つの船に乗せ、わずか数年で極地を除く国を調査、情報を集めた。その旅は困難を極め、それらは英雄譚として老若男女に親しまれている。
「まあ、その後色々あって今に至る」
「いくらなんでも端折りすぎでしょう。その話だとあたしの時代から何も進んでないわよ」
話の後半をすっぱり切り捨てた様な話しぶりに、八雲は訝しげに冬夜を見つめた。
視線が痛いので、思わず冬夜は八雲の方に目を向けた。
みどりの黒髪と漆黒色の塗笠が光を受けてきらめく中、笠の下は暗く、ただ瞳だけが光っていた。
「確かにそれ以上の話に自信は無いが、それ以上に、単純に情報量が多すぎる。細かい、って意味でな」
「別にあたしが口出すことではないと思うけれど、力がないと思うならせめて学を修めなさいな。そういった切り札が勝負を分けることもあるわ」
「それは以前実感したことがあるから、一応は機会があれば情報を集めるようにはしてる。学問として系統立った学習はしてないってことだ。それに」
冬夜は一旦句切ると、一旦前に向き直り、また八雲に向き直る。
「まあ、それなりの長さの付き合いになるんだろうだから、話は流れの中で追々」
「すぐに野垂れ死ぬようなことにならなきゃいいけど」
八雲がため息をつきながら不穏なことを言う。
ふと、雪が降った後を通った冷たい風が、ざあっと、小春日和の街道を洗い流す。
暖かさに緩んだ体が時折引き締められる道の上を、二人は歩いていた。
毛皮で出来た外套を持ってはいるが、それを使うには微妙に暖かい。
あまり汗をかいてしまうと、宿以外でそれを乾かすには寒すぎる。
「話題と言えば、さっきから何をやってるんだ」
「ん?」
「その、手の辺りで何かやってるだろう?」
「ああ、これ?」
八雲と話しているとき、視界の端で何かが飛んでいるのが気になった。
最初は羽虫かと思ったが、どうやらそうではないようだ。
八雲が手のひらを上に向けて胸元まで持ってくると、それについてくるように幾つかの玉が現れた。
手のひらの周りを絶えず動き続けているそれは、雷雨の時の大きな雨粒の様だった。
きらきらと輝いて、びいどろ玉の様にも見える。
「勘を戻してるのよ。『黒い力』は人前で使うわけにもいかないし、数段劣るけど『青い力』なら使えるから。即応出来ないのは困るし、かといってあんまり力を誇示するのも良いことばかりではないし。何事も中庸が良いと昔の誰かさんは云ったそうよ」
水で出来た玉は、衝突してくっついたり、分裂して離れたりを繰り返し、まるで子犬同士がじゃれ合っているようだった。
光と水の芸術は、それこそ数々の宝石と渡り合える美しさだった。
冬夜がしげしげとその様子を見ていると、八雲が困ったように見上げて言った。
「そんな物欲しげな顔をしないでよ。術具とやらを見て、作れそうなら合うように作ってみるから」
この年でそんな子供をあやすようなことを言われ大変不服ではあるのだが、八雲の言葉は冬夜を浮かれさせる効果の方が強かった。
冬夜は自慢できるような人生を送ってきたわけではないが、二十半ばまで生きてきた。
全てを諦観するほど枯れてはいないが、全てが努力で手に入ると思うほど若くもない。
その、諦めていたものが手に入るかもしれないとなったら?
子供のような感情が、頭をもたげる。
「別に、物欲しげな顔をしていたわけじゃない。沢の水の流れの様に綺麗だから目を見張っていただけだ」
「そうね、あなたにも矜持はあるものね」
「だから特に物欲しげな顔をしていたわけじゃないだろう」
「ええ、あなたの方が正しいわ。会話で早とちりしたのはこちらの方だもの」
長い髪の穂先を手櫛で梳き、目をそらしながら八雲は言う。
きっと、八雲は冬夜が意識していない願望を目線から読み取ったのだろう。
だが、明言していない限りはただの推論だ。だから、醜い水掛け論になる前に八雲から引いてくれたのだろう、と冬夜は理解した。
それならば、「大人である」冬夜もこう言わざるを得ない。
「いや、こちらもすまない。確かに、霊術がうらやましいと言えば嘘だ。術具の話で心が躍ったのも間違ってはいない」
そう言うと、八雲は無言でにこりと笑った。
いくら人付き合いを遠ざけていたと言っても年の功か、自分より幾分かは上手のようだった。
「それほどに、霊術とは無縁だったのね。そのこと自体も、物事の見方の一つが欠落しているということよ。その見方が出来るようになったとき、あなたはどのように成長しているかしら」
そう話す八雲の目は、子供の成長を喜ぶ喜ぶ様にも、悲しむ様にも見えた。
「複雑な目でこちらを見られても困るんだが……」
一応苦言を入れるが、どうやらこればかりは答えてくれない様だった。
「あたしはあなたのことを全て知っているわけではない。あなたはあたしのことを全て知っているわけでもない。けれど、今すべてを知ったからといって、それが先の困難を解決してくれるとは限らないわ」
「じゃあ、その後は俺が霊術を使えるようになった後か」
「それか、またその後よ」
教えてくれるとは限らないと。
八雲は、冬夜の訝しみと訴えを込めた目線を受けながら、ただ面白そうに笑いながら言った。
「まあ、それなりの長さの付き合いになるんだろうだから、話は流れの中で追々」
冬夜は苦々しげに「はい、そうですね」と言ったのだった。
武器になる物があればそれが犯罪に用いられるように、霊術も人によっては犯罪の道具でしかなかった。
当然それに対抗するために、術者の進路は研究あるいは警察組織への就職になる。
ただ、警察組織に入ると言うことは、機密保持の取り扱いなど、不便なことも多い。
そこから、派遣業として一時的に警察組織に準ずる権限を与えられ、任務を遂行する制度が確立された。
これがいわゆる、賞金稼ぎ、というやつである。
賞金稼ぎになるには大した問題はない。
階級に応じて、受けられる仕事に差はあるものの、基本的に誰にでも成れる仕事だった。
「結果的に、俺が請けるような日雇いの仕事もそこに集約されてる。別に霊術が使えなきゃ賞金稼ぎになれないわけじゃないし、単純に言えば元請けと下請けを仲介してるだけだからな」
「あたしが知ってる仕事と言えば、薬売りみたいな行商人になるか、丁稚奉公や期間を定めた住み込みの仕事ね。あなたがやってたような仕事は村全体で取りかかるような問題で、代わりに報酬がもらえるといったようなものではないわね」
なぜそんな会話になっているかというと、今後の路銀の稼ぎ方の話になったからだ。
あまり冬夜にとって縁が無いと思っていたからすっかり頭から抜けていたのだが、術具というのは安いものでも質素に暮らせば一季節から半年暮らせる位の値がつく。
先日の熊狩りの報酬で買える物もあるだろうが、そうすると路銀に困ってしまう。
飯はまさに生きていく糧だ。商人であれば商談に必要なだけの賢さと気力が保つだけで良いが、知的労働より力仕事の方が多い人間としては、食糧をあまり粗末にすると体がついてこない。
それこそ町についてから何とか仕事にありつかなければ、と思案する冬夜の袖を、ちょいちょいと引っ張る者がいた。
当然、連れの八雲である。
「要するに、あれでしょう。難しい仕事なら報酬は高い」
「ん、まあ、そうだが……俺のできることで当てになるのは配達、回収、収集、採集、運搬くらいか。どれも俺が出来る程度ならさほど高くない。……ん?」
八雲は、袖を引っ張った手とは反対の手で、自分を指さした。
「あたしは?」
その格好のまま小首をかしげられると大変可愛らしいのだが、それも含めて冬夜としては男の矜持が邪魔をする。
「この上お前に路銀まで無心できるか」
「どうせ熊のところで散らしていた命でしょう。今更守るものがあるとでも?」
一瞬、言いよどむが、すぐに言い返そうとする冬夜の口を八雲は人差し指でふさいだ。
「あなたが承伏しかねるのも解る。けれど、本当にそうするべきは今じゃないわ」
背に腹は代えられぬ、ということだろう。
単に八雲が冬夜を嘲笑うためにそんな提案をしている訳じゃないのもわかる。
冬夜が承伏できないのは、合理性からはほど遠いものだからだ。
だが、論理にはほど近い。
それにどう説明をつけろと、と冬夜が目をやると、八雲は身を引きゆったりと構え、こう言った。
「出世払いでいいわ」
ひとまず棚上げにしろ、ということだ。
「俺は俺なりに、身の程は弁えた上で誇りを持って生きてきた。だから、借りは必ず返す」
「あなたがそう思うのは勝手だけど、普段の言動まで影響させたら蹴飛ばすからね」
言いながら八雲が軽く蹴った路傍の石は、どれだけ思い切りやったんだ、と言わんばかりの距離をすっ飛んでいった。
それが霊術の影響だと冬夜が理解するのと、八雲が二の句を継いだのはほぼ同時だった。
「お金の貸し借りはきっちり清算が必要だけれど、人の貸し借りはお互いの尺度によって意外といい加減なものよ。あなたがあたしの貸しに相当する借りを作ってくれるのを期待するわ」
かなわないな、と冬夜がため息をついてうなずくと、八雲は未だ繰っていた水の玉を路傍に捨てた。
彼方にあったはずの宿場が、もう目の前に迫っていたからだった。
この宿場が見えた頃、八雲には事前にここに止まると告げていたのだ。
飯屋が併設されている昔ながらの木造だったが、流石に昔とは異なり、電灯のある部屋と、客毎に入れ替えられる湯で、歩き疲れた体を休めるには十分だった。
強いて問題があったといえば、方便で夫婦と言っていたら、部屋には布団が一組しか敷かれておらず、自分で部屋に備え付けられた押し入れから布団を出さなければいけなかったことだろうか。
その中でも、八雲が心躍らせたのは夕飯だった。
「あの煮物美味しかったわね」
「肉じゃがのことか。確かに数百年前はなかったかもしれないな」
今日の夕食を反芻しているのか、目を閉じて感じ入っている。
牛や豚を当たり前に食べるようになったのは今から数百年前。元はシチューという料理で、味付けを根本的に変えた結果、あれになったと聞く。
どこかの誰かが余興で作ったものだろうが、それが全国的に広まるとは当時の作者は思いもよらなかっただろう。
「はー、満足だわー」
浴衣に、湿った髪から浴衣を守るように手ぬぐいを肩にかけた八雲は、至極満足げだった。
そのまま、ぼふ、と音を立てて綿に包まれた羊毛布団に突っ込む。
手ぬぐいは浮き、艶やかな髪は結わえられていないので乱れて散る。
それがそのまま横たえられた様子はいたく扇情的だったが、冬夜は気を取り直して一言申した。
「浴衣と布団が濡れるぞ」
「うーん、もう、そうでもいい……」
掛け布団を下敷きにしていたので掛け布団はない。
しかし、敷き布団と掛け布団を両方敷いたときのふかふかした気持ちよさは、確かに心地良い。
しかも普段野宿ばかりで、更に旅慣れていない者にとっては。
仕方ないので、冬夜は自分の毛布を引っ張り出し、八雲の上にかけてやった。
「それで風邪引いても困るから、せめて寝入る前には布団に入ってくれよ」
そう言って電灯を消すと、冬夜も布団の中に潜り込んだ。
毛布がないので若干寒いが、野宿に比べればそのうちすぐ暖かくなる。
女との二人旅なんて初めてだからどうなるかと思ったが、これまでの疲れもあってか、今日のところはあっさり過ぎていきそうだった。
「やさしいけどー、甲斐性なしー」
連れは思ったより子供っぽいのかもしれない、と思いながら冬夜は睡魔に誘われるまま眠りについた。
宿を取りながら移動すること二日。
並木も茶屋もほとんどないこの道は、それなりに大きな川と直交する。
ここからは見えないが川上には森が広がり、定期的に材木が川下に向かって流れていく光景を見ることが出来る。
そういった事情もあり、このような小さい道では橋がかけられておらず、運良く営業されていれば渡し舟がある程度だ。
川にぶつかったところから川下に行くと、川の中流辺りに町がある。
昔から、材木やら毛皮、獣肉などで盛んな町だった。
「おー、あれが鉄道ね」
鉄橋と高架を見て、八雲がわあっと歓声を上げた。
金属の道で運ぶことで、効率的に物を運ぶことが可能らしい。
この町にとっては、もっぱら材木と人を運ぶために用いられている。
船の航行のために高く作られた鉄橋は、この町の象徴ともいえた。
「あれに乗っていけば町から町へ瞬く間に移動できるが、幾分か旅情に欠けるな。金銭的にまだ一般人が乗るには敷居が高いのもあるが」
最新鋭の鉄道では電気を用いた動力で走っているらしいが、この国においては未だ蒸気機関である。
その代わり、燃焼効率は非常に高く、昔は煤をまき散らしていたが、今ではそんなこともない。
外の国から伝わってきたままの燃料と、霊術を組み合わせたこの国独自の動力生産方式らしい。
また、そもそも電力は、宿場を初め基本的に利用するところが自前で賄うことが多く、発電所を含めた電力網の機構は一般的にはまだ普及していない。
「この国にとって、科学者の養成は重大かつ急務なんだそうだ」
「なら、あなたはそういうところを目指すべきじゃなかったの?」
「目指そうと思えば目指せたかもしれない。だが、それには決まって先立つものが必要だ。特別優秀なら、手段もあったんだが」
先日の、八雲の質問に対する回答。
後悔するということが「もしかしたら」を想うことだとすれば、冬夜の一番の後悔かもしれない。
少し過去に向かっていた頭を現実に引き戻したのは、その手を取った八雲だった。
「人生なんて、いくらでもやり直しは利くわ。だってあなたはまだ生きてきて、前に進めるのだから」
八雲は冬夜ではなく、前を見て告げた。
「……ありがとう」
思わず、そんな言葉が口から出ていた。
八雲は今度こそこちらを向いて、微笑んだ。
「あたしも人間よ。そんなことくらい、相談に乗れるわ」
彼女は決して特殊な血筋なんかではない。
力を除けば、至って普通の人間だ。
ちゃんと一緒に笑うことも出来るし、支え合うことだってできる。
「お前の相談事に乗ることができるように、俺も努力する。それは、今からでも遅くないだろう?」
「きっと大丈夫よ」
八雲が、手に込めた力を強くする。
「あなたは今も、前に進んでるんだから」
冬夜はぎゅっと、八雲の手を握りかえした。
「認証札はお持ちですか?」
出迎えられた先で、八雲はそう質問された。
ここは、賞金稼ぎの集まる仲介所。
旧来の木造建築に、一部に堅牢な石造りの部分が存在する不思議な建物だった。
おそらく、石造りの部分は荒事を行うことができるように配慮されているからだろう。
古木と人の汗の臭いが混じり合う様は、仲介所の歴史を感じさせた。
認証札は金属を木材に浸潤させたような不思議な材質で出来ており、特定の霊術によりその真贋が解る代物らしい。
そのため、賞金稼ぎを生業としない人間でも、身分証明書の代わりに取得するものも多いらしい。
「いえ、初めてです」
しおらしく答える八雲に、若干違和感を覚えるのは悪いことだろうか。
「どの程度の仕事を斡旋すれば良いか、逆に言えば、当組合がどれだけ自信を持って依頼者に紹介できるか、ということを調べるため、簡単な試験を行います。よろしいですか?」
「ええ」
八雲は、思ったより会話は流暢だ。
ここしばらくはずっと人と交流を持っていなかったというのに、普段から人里で暮らしているかのように、あるいはそれ以上に受け答えによどみがない。
もしかしたら、八雲の性格的に会話をするのが得意なのかもしれない。
そんな中、相手を挑発するような言い方をするのは、おそらく自分が身内に勘定されているからだろう。
少なくとも冬夜は、自分の精神衛生上、そう思っていたかった。
八雲の言葉を聞くと、受付の女性はにこやかに微笑んだ。
「それでは、こちらに」
八雲は冬夜に手を振ると、奥へと入っていった。
試験について詳しくは尋ねなかったが、受付の女性には予想外なほど好成績だったらしい。
冬夜はそもそも霊術を使えなかったため、最低階級から、仕事の積み重ねで階級を上げている。
八雲は、「青い力は数段は下がるが黒い力を使うわけにはいかない」と言っていたので、青い力のみで試験を攻略したのだろう。
結局、八雲については暫定で三級を得た。もちろん暫定なので、ここから短期間で更に昇級することもあるだろう。
冬夜は現在準四級である。間に四級、準三級があるので、三階級差だ。
こればかりは元より同じ土俵に立てないと想っていたので、仕方ないところだろう。
ちなみに、一つ上がるだけでも能力あるいは経験においてかなりの差がある。
なにより、認証札を持ってきて心底うれしそうににかっと笑う八雲には、冬夜も嫌味も無く笑うほか無かった。
「これでお前も社会の一員だな」
別に八雲が憎いわけでもないので素直に賞賛すると、八雲は一瞬きょとんとした顔を見せた後、恥ずかしげに笑った。
多分八雲は、「人間」でありたいのだろう。
「人」と「人間」の違いは社会性の有無を指す、と耳に挟んだことがある。
とすれば、一旦「人間」をやめた八雲は、今このとき「人間」に戻ったのだ。
「それじゃあ、初仕事の前に軽く昼食としましょう」
「ああ。沢山食べ過ぎて胃もたれしてたら仕事にならないしな」
「せめて初仕事くらいはそつなくこなしたいわね」
「初仕事か。意気込んでいったはいいものの、食っていく大変さに愕然とした覚えがあるな」
冬夜はやや疲れた様子で思い返す。
「何事も、初めてのことはそうよねぇ」
暢気な言葉で慰める八雲。
あんまり暢気な性格とは思えないのだが、言葉遣いが丁寧なせいか、暢気に聞こえる。
「ところで、試験はうまく出来たのか?」
何となく冬夜は聞いてみたのだが、やっぱり聞かない方が良かったと言ってから思った。
「何事も中庸が良いと昔の誰かさんは云ったそうよ」
つまり、全力ではないということだ。
先ほどの受付の女性の反応からすると、それ以上は常人の域を超えてしまうのだろう。
「目を付けられる程でもなく、徒労になるほど安い仕事を請けざるを得ない訳でもない、ということか」
「だから昼食は、「定番」と書いてあった、さっき見かけた店の月見うどんでも食べましょう」
八雲は冬夜の手を引くと、店に向かって歩き出した。