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◇はぐれ精霊◆

「クククク」


薄暗い廃墟の中で、1人の男が不気味な笑いを口から溢していた。その瞳には狂気が浮かんでおり、正気と呼ぶには程遠いものであった。


「もっと、もっと燃やそう。人間がもっといる場所を、もっともっともっともっともっともっともっと燃やそう」


男の手に握られた黒い水晶体が妖しく輝いた。


●◯●◯●◯●◯●◯●


「ありがとうございました。またのお越しを」


相変わらずの働きぶりで朝のシフトをこなす李斗。食事を終えて店を出る客に挨拶をしてテーブルを丁寧に拭いていた。


「李斗様、お疲れ様でございます。どうぞ」


昨日から店に居座っている沙羅がコップに入れた冷水を差し出してきた。


「おうサンキュー……ってこれはドリンクバーのお冷やだろうが」


「これは失礼しました。ではこのコーラを…」


「そういう問題じゃ無えよ!!」


沙羅からコップを奪い取って中身を飲み干しトレイに乗せる。裏のスタッフルームに入りキッチンスタッフに食器を預けて休憩室に入った。


「それにしても、朱鳥ちゃん遅いな………何かあったのかな?」


シフトの時間を過ぎているのに朱鳥が来ないことに李斗は疑問を抱いていた。


「朱鳥ちゃんなら、大学で急用が出来たから遅れるってさっき連絡きてましたよ」


「そうか。ありがと」


休憩室に入っていたスタッフが教えてくれた。


「大学も大変だな」


●◯●◯●◯●◯●◯●


国立清ヶ岳大学。国内トップクラスの偏差値を誇り朱鳥が通う大学である。図書室に隠り、朱鳥はレポートを書いていた。


「あ~ぁ、レポートが終わらないよ~」


「あはは、大丈夫?朱鳥っち」


朱鳥とレポートを書いているのは、大学の友達である小野田華(おのだはな)だ。黒髪のショートカットが健康的に見える女子だ。


「それにしても朱鳥っち、最近どうなの?」


「最近……って?」


「威風さんとだよ。告白したの?」


「こっ!!こここここ告白!!!!?」


思わず上ずった声を上げてしまい、図書室にいた院生から視線を向けられてしまう。その場で赤くなり黙り込む。


「で、どうなの?」


「どうなのもこうなのも、告白なんて……」


「んもう、そんなんじゃ他の女子に取られちゃうよ?」


「えっ!?」


「知らないの?威風さん、うちの大学の女子から人気なんだよ。イケメンで仕事が出来てしかも一人暮らし。お歳も近いから中々狙いやすいって」


「そ、そんな……」


迂闊だった。そんなにライバルいないかなー、とか思ってたけど、案外近くにたくさんいた。頭を抱えて唸りながら頭を掻く。


「まあまあそんな落ち込まずに。早くレポート終わらして、愛しの威風さんに会いに行きなさいって」


「う~、華ったら。早くレポート終わらそう」


朱鳥はレポートの為の資料を探しに席を立った。本棚を順に見ていき目的の資料を探していると、窓の外に男が見えた。うちの院生かと思ったが、歳が違いすぎる。服装もまるで、ファンタジーに出てくるようなローブだった。


「誰だろう、あれ?不審者?」


不審者だったらどんなにいいか。男は、突然右手から炎を出現させた。


「え…………?」


そしてその炎を、図書室に向けて放った。視界が赤一色に染まる。耳を刺す爆発音が辺りの大気を震撼させた。


●◯●◯●◯●◯●◯●


李斗と沙羅の2人は大学に向けて走っていた。さっきの爆発音のした方向は、朱鳥が通っている大学の方向だった。朱鳥はまだバイトに来ていない。つまりまだ大学。李斗はすぐさま店を飛び出して行った。


「李斗様、先程の爆発は…」


「今までの火事だろうよ!!さっさと行くぞ。朱鳥ちゃんが取り残されてるかもしれねえ!!」


「御意!!」


人間となって精霊の力は使えないものの、身体能力は普通の人間よりかは遥かに高い。逃げようとひしめき合う人達を横目に、李斗と沙羅は民家の屋根から屋根を跳んで大学へ向かう。今なら人目に触れる心配も無い。通常の道のりをショートカットで移動して大学へと到着した。大学はやはり今まで通り火柱に包まれており、近付くことが不可能なほどに燃え上がっていた。消防車も放水しているが、炎はまったく勢いを落とさない。


「普通の水じゃ消えないってわけか」


「これはやはり、精霊の仕業」


「とりあえず後だ。沙羅、お前は残って辺りを警戒しろ。俺は朱鳥ちゃんを助けにいく」


「しかし李斗様。精霊時代ならまだしも、今のあなたは人間です。あの中へと入るのは無理です!入る前に焼け死にます!!」


「うるせえ!!無理って言うから無理なんだ。気合いがありゃあ何でも出来る!!待ってろよ朱鳥ちゃん!!」


沙羅の制止を振り切り李斗は炎渦巻く大学へと突撃する。流石に熱気がすごい。肌が焼けそうだ。李斗は燃えてもろくなった扉を蹴破って中へと入った。


「隊長!!一般人が中へと入っていきました!!」


「何い!?急いで連れ戻せ!!」


「無理です!!火の手が強すぎます!!」


消防員がそんなやり取りをしてるのを他所に沙羅はただ、李斗が無事戻ることを祈った。


●◯●◯●◯●◯●◯●


「朱鳥ちゃーーーーん!!!どこだーーーー!!ぐっ、熱すぎだろ…ちきしょう」


噴き上がる炎に怯まず、李斗は大学内を必死に探す。無駄に広いため探すのには苦労する。


「どこにいるんだ?朱鳥ちゃん………確か急用があるって言ってたな。レポートかな………レポートなら、図書室……か」


李斗は微かな望みを持って図書室に向かった。幸い図書室は近い箇所にあり、走って3分で着いた。扉を再び蹴破って中へと侵入する。本が多いだけあり、火の勢いも強い。李斗は図書室内を捜索し、本棚近くに倒れている人影を見つけた。朱鳥であった。


「朱鳥ちゃん!!」


急いで駆け寄り朱鳥の体を抱き起こす。首に指を当てて脈を確認する。脈はあるようだ。息もしている。


「う……李、斗さん?」


「朱鳥ちゃん。分かるな?よし、逃げるぞ」


「あ、待って下さい!彼女を、華を…」


背中に背負った朱鳥が弱々しく指差す方向には、1人の女子が倒れていた。


「分かった」


李斗は気を失っている華をお姫さまだっこして図書室から脱出する。外に出る扉はここから約5分。急いで扉へと向かう。

が、そんな李斗達の前に1人の男が立ち塞がった。


「おい、あんたも逃げろ。死んじまうぞ」


「李斗さん……その人、犯人……です」


「は………?」


背負った朱鳥が震える声で李斗に言う。すると男は歪んだ笑みを浮かべ、右手から炎を出現させた。


「……っ!?てめえ、精霊……いや、“はぐれ精霊”か……!!」


「アハッ……もっともっと燃やそう」


炎の中で、男が不気味に笑った。

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