◇旧知との再会◆
昨晩のビル火災は、今朝の新聞とニュースで大々的に報道されていた。どうやら今回が五件目らしく原因も不明で警察と消防庁が連携して捜査に当たっているらしい。
「ふむ………」
李斗は新聞を見ながら朝食であるトーストを頬張っていた。焼き加減を間違えて少し焦げているが気にしていない様子だ。最後の一口を口に放り込んで牛乳で流し込む。今日は朝から終日バイトなので支度を始めた。
「よし、行くか」
支度を終えて部屋から出ようとしたら、突然呼び鈴が鳴った。こんな朝から誰だと思いながら扉を開く。
そこには1人の男が立っていた。オレンジ色の天パにフレームの細い眼鏡を掛けた長身だった。
「どちら様ですか?」
まったく面識の無い為そう言ったら、男は突然その場に膝間付き一言。
「お久し振りでございます。イフリート様」
「なっ……!?何で、分かった……?つーか誰だお前は!?」
自分を一目でイフリートと見破った男に、李斗は驚愕と警戒の念を強めた。
「お忘れになられたのですか?私です、イフリート様。“サラマンダー”でございます」
「サラマンダー!?お前、本当にサラマンダーか!?」
「はい。思い出して頂きましたか」
“上位火精霊サラマンダー”。【精霊界】においてイフリートの右腕であり、実力もイフリートに継ぐ力を持つ。精霊としての姿は炎を纏った蜥蜴と人間型を持っている。
「で、どうしてお前までこの世界に?」
李斗は【スマイリー】までの道をサラマンダーと歩きながら話していた。
「あの戦争の後、四大精霊様は死んだと言われておりました。しかし上位精霊が中心となって調べた結果、四大精霊様は異世界に飛ばされたと分かりました。そこで上位精霊の内私がこうして四大精霊様を探しにやって来てのです」
「なるほどな。って事は【精霊界】に帰る方法はあるのか?」
「はい。しかしそれには膨大な量の精霊の力を貸りねばなりません。私共でだいたい千体の精霊でやっと繋げたくらいですから。四大精霊様が全開なら、可能かと…」
「ふむ……ところで、その後の【精霊界】の様子はどうだ?気にはしていたんだが」
李斗は何気無く質問したつもりだが、途端にサラマンダーは顔を暗くした。
「何かあったのか?」
「はい………実は、四大精霊様が行方不明になって約1ヶ月後に、“堕精霊”の封印が解かれたのです」
「何だと……!!本当か……?」
「間違いありません。“堕精霊”の封印を何者かが解き、復活した“堕精霊”は複数の精霊と人間を引き連れて行方を眩ましまして、今は捜索中です。そして、それに対抗できる四大精霊様を連れ戻すことが、今回私が受け持った任務でございます」
李斗は自分達がいなくなってからの【精霊界】の事情を知り絶句していた。まさか“堕精霊”の封印が解けているなんて。また戦うことになるなら、勝てる保証は無い。
「分かった。とりあえず今の俺達に出来るのは、他の四大精霊を見つける。だろ?」
「はい」
「それが分かっただけで儲けもんだ。お、着いたな。サラマンダー、お前はこれからどうする?」
「今日はイフリート様と行動を共にさせて頂きます。ここ最近の火事についても話したいですし」
「そうか。ならどこかで時間を潰していてくれ。今日は終日バイトだから、夜の9時には終わる」
「分かりました。ではイフリート様のバイト先でご飯を頂かせていただきながら待たせて頂きますが…よろしいですか?」
「構わないが……え?お前ずっといるの?」
「はい。あ、勿論それに見合った注文はします。お金なら準備してきたので問題ありません」
「いくら持ってんだ?」
「口座と合わせてだいたい、100万は」
「サラマンダー、今日は店の売り上げに貢献してもらうぞ?」
「は、はい…」
100万のワードを聞いた時の李斗はそれはそれは恐い顔をしていたそうな。
その後サラマンダーは本当に終日【スマイリー】に居座って注文してメニューを制覇していた。
「いや~地球の食文化は多種多様ですね。和食に洋食に中華。私はあのジャンボグリル定食が好きでしたね~」
「メニュー制覇したのはお前が初だぞ。しかもわんこ蕎麦のペースで食いやがって……厨房スタッフが泣きながら調理してたぞ?」
「あはは、申し訳ありません。ではイフリート様、本題に」
「ああ。火事についてだな」
「はい。私自身、あれは人間には不可能と思われます」
「それは俺も思った。ただの人間に、あんな火の扱いが出来るわけが無え。出来るとすれば…」
「精霊、ですか?」
「まあな。だが仮に精霊なら、人間を傷付ける事には意味が無いと思う。本来人間が俺達に供物を供える代わりに、俺達は人間に精霊の加護を与える。需要と供給の関係があるにも関わらず、精霊がそんな事をするかが疑問なんだが」
「まあ地球では精霊が架空の存在ですからね。供物を供える人間はいないといっていいでしょう」
「う~ん………まあいい。今日は寝よう。サラマンダー、お前はどこに暮らしているんだ?」
「私はあそこのマンションの1階に住んでいます」
サラマンダーが指差した先はこの辺りでは最高級物件のマンションだった。李斗は悔し涙を流しながら壁を殴る。
「ではイフリート様、失礼致します。あ、それと私は“沙羅萬太”(さらまんた)と名乗っています」
「分かったよ、沙羅。あと俺は威風李斗だから。間違ってもイフリートって呼ぶなよ」
「承知しました李斗様」
「様はつけるのかよ…」
沙羅はそう言い残してマンションへと歩いていった。李斗も現在暮らしている家賃がお安いアパートへ帰っていった。