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94・ポンコツ

 人を二人持って帰るだけならいい。

 しかし彼らがそれぞれ槍とか剣とか持ってたら話は別だ。それらも合わせるとすごく持ちにくい。

 ではどうするか。

 まず腰ベルトに剣を括りつけます。

 二人を米俵担ぐように持ち上げます。

 槍を咥えます。

 珍妙な格好になりました。やったね。

 ……とまぁ非常に恥ずかしい格好をしながら自分はみんなのもとに帰ったのですよ。

 そしてそこで自分を待っていたのはあたたかな歓迎と労りの言葉……ではなく、冷たい床への正座とお姫様のお説教でした。馬車の窓から挿す月光がマブいぜ。

「なるほどな……つまり奴らはかわいそうな被害者であると。だから逃がしたと」

「はい。いや全くその通りで」

「アホか! 思いっきり不審者じゃないか! どこにそのまま逃がす要素がある!」

 ……はい。

「そもそも私は不思議でならない。どこをどう考えてお前があいつらと火を囲い、食事を共にするなど……理解できん」

 ……はい。

「まったく、せめてこっちに連れて来ればよかったものを。話を聞く限りでは奴らは帝都の状況を少なからず知っていたのだろう。何が起こってるか、どうなってるかの情報が少しでも手に入ればよかったのに」

 まったく返す言葉もございません。

 でも、でも言わせて! 言い訳と言うか責任転嫁的なアレだけど、すごく言いたいの!

「じ、じゃあなんで他の人派遣せんかったのですか? 魔獣倒した後ならほかにも――」

「あの状況でこっちの守りを手薄にできるか。魔獣でお前を釣り、安心して出てきたところで、つまり戦力が分断したところで別の魔獣が奇襲をかける。考えられん話ではないだろう。というかむしろあの二人が援助に行っただけ破格だと思え」

 ……やべぇ。中二にガチ説教されて反論できない高二って割ときついぞ。

「……まぁその援助も、無かった方がましだったかもしれないがな」

 お姫様がそう言って視線を向ける先にいるのは先程まで寝ていたあの二人。ムー君とシルバちゃんである。

「ほへへへほは」

「ふほひべほふぶっ」

 二人ともは何言ってるかわかんねぇな。

 どうやら彼女たちは寝てるところを叩き起こされたようで、現在その後遺症か二人そろって口を押えながら涙ぐんでいる。

「……リムロス様。あれはほんとにただの気付け薬だったんですか?」

「作った本人としては味わってみた結果どうだった?」

「……泣き薬と灰蜘蛛の汁はやめた方がいいと反省しました」

「今後の成長につながるといいね」

 ……どうやらやばい薬だったようで。

 と言うかスゥ君、いや今はシャドさん、もうどっちでもいいや。お前はなに妙なもの作ってからに。蜘蛛っておまえ。

「……なぁミミリィ。そろそろうちの隊にもお前とシルバ以外の常識人が欲しいところなのだが」

「同感です」

「というか男どもは本当にバカとしか言いようがないな」

 あ、ひとくくりにされてしまった。

「まったくですわ」

 黙れ女装少年。

「……しかし、彼らは何者なのだろうか」

 胡乱気な目でシャドさんを数旬無言で見つめたお姫様は、再びミミリィ隊長に向き直りそう口にする。

「ただの旅人ではないですね……しかし話の内容からして、敵対してるわけでもない。確証はありませんが」

 対して問われたミミリィ隊長は顎に手を当て、思案を巡らせながらそう答える。

 そしてそれを聞いて自分は思うのだ。彼らが敵じゃないなら応援よこしてもいいじゃん。不意打ちされないんだし。と。

 口には出さないけど。

「やはりそうなるか。しかしそうなると行動がちぐはぐだ。敵対する気がないのなら、なぜこちらに攻撃を仕掛けてきた?」

 ……うん? 攻撃?

 え、あのオッサンたち君らに何かしたの?

「私たちから逃げるためでは? 事実先生が彼らを見送った直後、シャドですらその行方を追い切れず見逃した。恐らく最も近くにいる追手である先生たちを沈黙させて逃げようという算段だったのでは」

「想像の域を出ないが、それが一番濃厚だろうな。ただそうなると捕まりたくない理由がわからん。敵対意思がないなら私たちに保護されればいい。そうならない理由は何か……最悪なパターンで言うならはナルミたちを始末したかったから、と言う線も捨てきれないのが怖いところだ」

 あ、あのちょっと……話が見えないのですが。

 あとすごく突っ込みをいれたい。敵対意思以前に自分ら敵国の兵士だから捕虜になるくらいなら逃げるって人が絶対いるだろうと突っ込みたい。

「……あの二人を同時に落とす睡眠魔法の使い手ともなると、相当な手練れですからね。刺客と言う線も考えられるという訳ですか」

 ……催眠魔法?

 てことは、え? あ、つまり、そういう。

 シルバちゃんたちが同時に寝たのって、そういう……。

「あぁ。ただそうなるとなぜ魔獣に追われていたか、など別の疑問が出てくるがな」

「まったくですね。私にはもうどう考えたらいいかわかりません」

 ミミリィ隊長がおどけたように言う。

 その横で自分は冷汗を流すのだ。

 やっば、これ、護ったるとか偉そうなこと言いながら全然守れとらんどころかむしろ護れなかった後に行ってるとかどこのギャグ状態というか……ごめんなさい。

「敵か味方かの判別もつきにくい。しかし確実に手ごわい相手であるということから、敵対した時は覚悟しておく必要があるな。なにせナルミを人間と見抜いたんだ」

 ……え?

 待ってそれ初耳……あ、ちょ、そうだ。

 あの人人間が云々って言ってた……。

 うわぁ……自分注意力散漫と言うか、うん。

 脳みそがポンコツすぎて辛くなってきた。

「魔獣と渡り合い高難度の魔術を操る力量とその観察眼。本当に何者なのか」

「一緒にいた少年も、言動こそ自信なさげではありましたがその実一切の実力はかくしたまま。もしかしたら老人以上に恐ろしい相手かもしれません」

「……話を聞く限りでは王都からきた、つまりこっちの国の国民であるようだが、何か情報が得られればいいのだが」

「なるほどねぇ。それであたしたちが呼ばれたわけねぇ」

 間延びした、女性らしい女性の声が聞こえる。

 見るとそこにはカノンさんとアニスさん。そして彼女らの仲間たちが、シャドさん先導のもと馬車に入ってくる姿が見えた。いつの間に消えていたんだ、おまえ。

 しかしなるほど、この国の人のことならこの国の人に聞けってことか。道理だな。

 確かに人間を出し抜くような猛者なら彼女らも知ってるかもしれないものねはっはっは。

 ……はぁ。

「……」

 ……うん?

 なしたアニスさん。そんな自分を凝視して。

「……エリザ姫様。ハセガワ様は今何をしているのでしょうか?」

「件の不審者と談笑し飯を食い友のように見送ったことに対する反省中だ」

 ね。せめてお名前くらいは聞いておいたらもうちょっとましだったかもしてなかったんだけどね。

「……私の中のハセガワ様像がどんどん崩れていく」

 小声だろうと聞こえてるぞ。ポンコツで悪かったね。

 いやまぁ事実だから言い訳できないけどさぁ。

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