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93・格ゲー的

「坊主はどっちが好きだ?」

 うん? なにが?

「何のことかがわからないのですが」

「そこの嬢ちゃんと、坊主だ」

 シルバちゃんとムー君?

 え、なんで?

「どっちも大切としか――」

「違う。賭けに勝たせるとしたらとっちがいいかだ」

 まだ続くのかその話。

「……この子ですね。自分は女の子の味方なのです」

 自分は言いながらシルバちゃんの頭を撫でる。

 男性と女性なら女性の味方ですよ、自分。フラットな条件下であれば、の話だが。

「……ところでその娘、お前のこれか?」

 おっさんが小指を立てる。言いたいことは判った。

「そんなんじゃないですよ。こーんなかわいい子が自分とそういう関係なわけないじゃないですか」

「ふーん」

 あ、疑いの眼差し。

「……なるほど遊びの関係か。無害そうな顔して鬼畜だな」

 何を人聞きの悪い。

「まぁ何でもいいが、その娘を勝たせたいなら早くあれにトドメさせよ」

 いや、さすがにそれしたら生かした意味ないでしょ。

「さっき言った通り人が魔獣になった存在かもわからないので、いくらこの子のお財布がかかっていたとしてもそれはできませんぜ」

 所詮他人の財布。

 あ、最後のお肉がそろそろ焦げる。確保確保。

「……あの、人が変異した魔獣であるからといって、なぜ、始末しないのですか?」

 おん? そら少年、きまってる……あぁ、そういやなぜかという事は説明していないか。

「彼らも人に戻せるなら、その方がいいでしょう?」

「人、に?」

「そ」

「もど、せるの?」

「うん」

 ほとんどやるのシルバちゃんたちだけど。もぐもぐ。

「やることがぶっ飛んでるな。普通そんなこと思いついても実行しねぇぞ」

 あ、そうなの?

「しかし人が変異した魔獣か……たぶんあれはそう言うのじゃないと思うぜ」

 え? そうなん?

「なんで?」

「勘」

 ……あ、そう。もぐもぐ。

「後もっと言うなら経験だ。人を媒介とする魔獣は人語を介する。しかしあいつは人の言葉を扱うことはなかった。無論人を媒介としない魔獣で人語を介するのも存在するが、逆はない」

 そう言う説得力ありそうな話は先にしてくださいよ。

「しかしなぁ……なるほど、そこまで救うつもりか、お前は」

 まっすぐ自分を見つめながら彼は言う。

 まぁ、救う言うても自分のできる範囲内での話ですが。

「できる限り、ですが」

 そもそも自分が殺しをしないのは一種のエゴイズムからですからね。

 自分の精神衛生のため、世間体の為に無駄な殺生はしないのさ。

「それでいい。すべてを救おうという事ほど愚かなことはない」

 あ、そこまで壮大な話ではないです。もぐもぐ。

「だが魔獣と化した人を救うというのはわかるが疑問が残る。どうやって、そしてそれだけの魔力をどこから調達するのか」

 えー。一から説明すんの?

 面倒くさい。

「んくっ……この子、吸血鬼なんです」

「あぁ。歌姫シルバ、だろう? それでそっちは氷槍のムーだな」

 知ってんのかい。

「まぁだろうなとは思ったぜ。それならどうやってやるのかについての話はわかる。失われた魔術の使い手ならばその業を会得していても不思議ではない。だがそれならばどこからその魔力を得ている? 魔獣を人に戻すなんて相当な力がいるはずだ。はっきり言ってこう言う状況でそんなことに力を割くなんて自殺行為だぜ?」

「それについては、自分の血って吸血鬼さんたちにとって非常に高い魔力回復効果があるらしいのでね。おかげで毎日お弁当状態ですよ」

 その分後からおいしいモノ食べれるからいいんだけどね。

 と、串を火にくべ財布を撫でながら心の中で舌を出す。

 するとだ。ご老人は目を細め、呆れたような口調で言うのだ。

「……自己犠牲の塊か、お前」

「え?」

 どこが?

「別にそんなつもりはないんですが……」

「身を厭わず人を護り、自身の力を注いて魔獣を救い、己の命すら他人に施す。これが自己犠牲でなくてなんだというんだ」

 この世界の人たちはどうも断片的情報から自分の評価を上げる傾向にあるから困る。

「できることをやっとるだけですよ。そんな自己犠牲なんて得にもならないことしやしませんぜ。自分の血液だってこの子からきちんと対価を頂いているんですから。ふぁ……」

 やばいおなかが膨れてきたら眠くなってきた。

「ふぅん……なるほど、対価か」

 なんねその目。なんでそんないやらしい目で自分とシルバちゃんを眺めて――

「確かに確かに。嬢ちゃんは坊主に血をもらい、坊主は嬢ちゃんを堪能する……なかなか考えるじゃえぇか」

 ……。

「さすがに怒るよ?」

「違うのか?」

「当たり前だ」

「……人間の考えることは判らん」

 もうあなたにわかってもらおうとは思わない方がよさそうだね。

「……ちなみにだが、カノンとかアニスとかには手を出したのか?」

 おいホントお前脳みそ下半身についてるんじゃねぇだろうな。

「え? ア、アニス、に? え? そんな、え?」

 そして少年のうろたえようと来たらもうね。

 そうか、そういや君も質量兵器に魅入られた系の人種だったね。

「……くぅ、で、でも」

 おい。目じりにおま、涙って……えぇ。

「あ、なたなら……彼女を、幸せにして……ずびっ」

「泣くな。手ぇ出しとらんから」

「……え?」

 わかりやすいくらい表情明るくなったな。

「ほ、ほんと?」

「カノンさんにもアニスさんにも手出ししとらんて」

「ほっ……よかった……」

 お前本当わかりやすいな。

「……好きなん?」

「へ?」

「君、アニスさんのこと好きなん?」

 あ、真っ赤になっちゃって。かーわーいー。

 ……自分で思って自分の思考に今さぶいぼ出そうになった。

「もっと強くならないとあの女は落とせねぇぜ。少なくとも、あいつの親父とやりあえるくらいにならねぇとな」

 あ、ご老人はご老人であのエロガッパの事知ってるのね。

「う……」

「今の泣き虫のままじゃ永劫に無理だぜ」

「あ、あなたは僕を……くっ」

 二人とも楽しそうだな。

 しかしなぁ。カノンさん知っててアニスさんとエロガッパのこと知っててとなると……この二人は何者なの――

「……どうやったら強くなれますか?」

 うん?

 まっすぐな瞳が自分を射抜く。少年が今にも涙を零しそうにしながらもこちらを見つめているのだ。

「自分に聞いてる?」

「はい」

 ……えー。

 人間であるのプラス自称神様によくわからない何かを賜った結果でしかない所詮チートコード充てられただけの自分が答える権利あるのこれ。

 正直言って自分っていま努力とかから対極に位置する存在よ?

 ……あ、なんか鬱になってきた。

 しかしこれは何と答えたら……。

「……己の特性とそれで何ができるか、何ができないかしっかり把握する。地上の相手に何ができるか、空中にいる相手にどう対処できるか。そしていかに己の得意を押し付けるかを考えよう」

 以上自分の格ゲーにおける考え方でした。

 現実で通用するか? しらん。

 けど案外行けるんじゃない? この格ゲー的思考。

 まったく根拠ないけど。

「ないができるか、何ができないか……何もできないような人は、どうすればいいんですか?」

 ……いや、それは、うん。

「理解が足りないだけなんじゃないの? 諦めなければなんとでもなるさ」

 世の中には火力リーチ発生すべてが低評価のくせに最終的に実践投入がある程度可能なまでに開発された世紀末の三男がいるんだ。きっと大丈夫だろう。

「僕でも、強くなれますか? 勇気も度胸もない、何もかもを見捨てて逃げ回ってるこの僕に出も」

 ……あれー? なんでこんな流れになってるんだろう。

「それは知らんよ。自分は君じゃないんだから。ただまぁ頑張ればいけるん違う? それに魔獣に立ち向かっていたあの勇気があればいけるって」

 無根拠極まりないね。

「……僕が、魔獣に?」

「そそ。頑張ってたじゃない」

 そんなびっくりした顔されても……。

「よかったじゃねぇか。褒められて」

「……うん。とにかく修練しろしか言わないあなたよりずっといい」

「……」

 お前らそう言うのは別のところでやってくれ。

「……そろそろ、か」

 そう呟くとご老人はのっそりと立ち上がり、首を鳴らして伸びをする。

 おん? どしたご老人。トイレか?

 ……あら? と言うか立って大丈夫なの?

「ありがとよ坊主。だいぶ傷も癒えた」

 彼は己の傷跡を自分に見せる。それは先程の生々しいものとは違う、渇いて治りかけた裂傷である。

 なるほどすげぇな回復魔法って。

「治るもんだねぇ」

「まぁ、ある程度以上の使い手まで行くと落ちた腕もつけ治せるからな」

 何それホント万能じゃん魔法。

「……普通知ってることだと思うが、やっぱり人間は魔法は使えねぇのか」

「そうなんですよねぇ。だから魔法についてはまったく知らなくて困るんですよ」

「だから体術を使うのか。なるほど、己の特性とできることとできないことの把握、か」

 別にそんなつもりで言ったんではない。

「まぁ何にせよ今日はここまでだ。儂らはもう行く」

 あ、そう?

 まぁそれならいいんだけど。

 結構長い間雑談してたな。

「ほんだら気ぃつけてくださいな」

「あぁ。だがその前にやることが残ってる」

 うん? やることとな?

 と、自分が疑問符を残してる間に彼は腰に装備していた薄い曲剣を取り出しすたすたと魔獣の方へ……うん?

「シュ!」

 彼の掛け声と、何かが風を切るような音。そして盛大な赤い噴水が向うで……え?

「ふん……クソッタレが」

 ご老人はそう吐き捨てながら赤く染まった剣を拭きつつ戻ってくる。

 ……ま、まぁ人じゃないらしいし、ねぇ?

「坊主の手柄を取るようで悪いが、さすがにあいつを生かしたまんまと言う訳にはいかねぇ。残念だが、お前は甘い。あいつを殺し切ってくれるかと言われたら、その点に関しては信頼はできない」

 ……はい。

「そういう訳で処理させてもっらった。まぁトドメこそ儂が刺したが、仕留めたのはお前だ。そこは皆わかっているだろう。特に、そこで聞き耳立ててる奴とかな」

 聞き耳? あ、スゥ君か。

 え? なんでわかんの? 聞き耳立ててるだけだよ? しかもあの距離で。

「ま、坊主んとこの姫さんへの挨拶はそいつがやってくれるだろうよ。俺らはこのまま帰るとするさ」

 そうか。

 まぁ現状君らを引き留める理由はないわな。

 はよ帰れ。そろそろムー君の乗ってる足が痺れてきて辛い。

「……わかった。行こう」

 そう言いながら少年も立ち上がり、ご老人のもとへと近づいていく。

 そうか、やっとか。

「……珍しいな。お前の事だ、どうせ『このまま保護してもらうのではどうなんだ?』とか言いだすかと思ったんだが」

「言ったら助かるのか?」

「かもな。こいつらなら大丈夫そうだ」

「……もう、逃げるのはやめようと思う」

「……そうか」

 二人はそんな風にしんみりすると、自分の方へと顔を向ける、

「という訳だ。儂らはもういく。世話になったな坊主。今度いっぱい驕らせろ」

 お酒はいらんからなー。

「お世話になりました。この礼は後日必ずさせていただきます。また、いずれ」

 まぁあんま期待しないで待ってるよ。再会できるかどうかも怪しいし。

「そんな気にせんでいいのに。ま、元気にやってくださいな」

「そんじゃぁな」

「では」

 そうしてそれだけ言葉を残し、彼らは月を背にして去っていった。

 そしてしばらくそれを、彼らの背中が見えなくなるまで見送って、自分ははたと気付くのだ。

 ……あれ? これこの二人抱えてどうやって帰ったらいいんだろう?


書きたいこと適当に書いたらなんかよくわかんなくなった。

日本語がいつも以上に怪しいし後から大幅修正するかも。

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