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8・近衛隊の愉快な上司達

 突然だがここは医務室である。

 頭連打の刑に処された自分がタンコブと言う戦利品をゲットした対価として意識を手放した結果ここにいる。

 ……よするに、頭打って気絶しましたからお医者さんに見てもらってたらしいのよね。

 ちなみに、ゼノアがここまで運んでくれたらしい。ありがたやありがたや。

 ……ハァ。

 さて、そして現在自分はゼノアに様々な質問をして、いろいろと分析している。主に人間、そしてセタソウゴなる人物についてだが。

「で、最後にセタは、世界を支配しようとした妖魔、混沌の賢者グリー・スヌタスを討ち取り、一緒に冒険したエルフの魔女のリリーザ・マーグと結ばれたというわけさ。ちなみに、彼は結婚したあと何処に行ったかは解らないが、一説ではリリーザの故郷で二人揃って仲良く隠居したっていうのが有力だ。ちなみにこの時代、背後関係が見えない唐突な技術革新、主に魔力を伴わない技術についての急速な成長が発生した事、教会の聖典に人間についての記述が唐突に出てきた事から、それを根拠に本当に魔力を持たない人間という種族が存在していたと主張する学者も少なからずいる。あ、あとこの時代に酒に関しての技術や種類が圧倒的に発展したのは、さっき言ったようにセタが大酒飲みの酒好きだったからとも言われている。一部ではこの伝承からセタを『酒造の神』とも呼んでいる。が、同時に失われているものも多くこの時期には文献にしかない武具や道具、技術が多数存在しており、それらについても――」

 いゃあ、なんというかあれだ。『歴史』が地雷かこの歴オタめ。聞きたいこともいらんことも含め三時間かけて全部教えてくれたわ。

 外見てみ。それそろ夕方だぞ。

 そしてセタさんよ、自分より勇者してるでないか。

 世界征服目論む悪い奴倒して? エルフの女の子嫁にして? あとついでにいろんな所救って仲間集めて? そして最後はハッピーエンド。

 エルフ、つまり美女と結婚とか羨まし――違う、そうじゃない。

 勇者として完全なまでに完璧なまでに充分すぎるほど十全に活躍してるじゃないか。すっごいカッコイイ。

 まぁだが見えてきたぞ。

 今から話すのは自分の推測と聞いた話しをまとめたものだが、たぶん合ってるはずだ。

 まず、セタソウゴとは江戸時代くらいに時期のそれなりに偉い武将で、なんせ関ヶ原の戦いでは小早川を仲間に引き込むのに一役買った程の武将である。

 そしてなぜこれほどまでの武将の名前が教科書に載ってないかというと、理由は簡単。3000年程前にあの貧乏神様がここに飛ばしたからだ。

 奴は自分を飛ばすときに『自分をいなかったことにした』とかのたまいはじめたので、セタさんも同じ目にあったのだろう。

 で、セタさんはこの世界を支配しようと目論んでいた賢者が凶暴化さした魔物やら魔獣やらをばったばったと薙ぎ倒し、エルフやリザードマン等を仲間にしながらその賢者を倒して、世界に平和をもたらした勇者となり、前述のエルフと結婚してこの世界のどこかで骨をうずめたと。

 そして、関ヶ原の戦いは1600年、つまり約400年前の出来事である。

 なのに彼は3000年前にきた事になっている。

 この世界での一年がどれほどの長さかはしらんが、同じだとしたらだいたい7.5倍こちらの世界の時の流れは早いということがわかる。

 ……。

 ……まぁ、最後のはいい、いやいくないけど。

 あっちで一年たったころに戻ったら自分は24歳になってるとか悲惨過ぎるが今は目をつむろう。

 それよか重要なのは……うん。

 セタさん、戻れなかったかぁ。

 くっそ、彼が戻ってたらそれと同じことして戻ろうと言う目論みがはずれてしまった。

 というか、戻る方法探してすらいねぇな。何たって、結婚してんだし。

 超エンジョイしてそう。

 ……どうしよう。

「な、なぁナルミ」

 あ? どしたよゼノア、まだ関ヶ原のことを『ツキノハラ』といった事を後悔してるのか?

 大丈夫だ、君は悪くない、悪いのは小早川の事を『コバワガラ』と伝えていた君らの先祖が悪いんだ。

 と思ったが、それは言わずにどうした、とだけいっといた。あんまいじめんのはかわいそうだからね。

「いや、さっき言ってた歴史の教科書についてだが、その、後で見せてくれないか?」

 遠慮がちに言ってきた。見た目は脅迫するような顔だがね。

 そう、自分はさっきまでの話をまとめるのに日本史の教科書を使っていたのだ。日本史は70点程度の知識しかないからね。そしたらゼノアが並々ならぬ興味を示した。

 まぁ、知らない国の、更にお伽話としか思ってなかった英雄の故郷の歴史が記された本だ。歴オタなら興味を示さないはずがない。

 だが、一つ重大な問題がある。

「あー、いいけど、読める?」

「……読めない」

 そう、文字は通じないのだ。自分が渡した教科書を手にとり、落ち込むゼノア。

 ……とりあえず、しばらくは読み聞かせることと今度字を教える事に落ち着いた。そしたらめっちゃ笑顔になった。

 ……ファーストコンタクトのあれは別人だったのかね。こうなればまるで土佐犬かシェパードか、顔が怖いだけのわんこにすら見えてくる。

 ……あ、こいつに一番近いのシベリアンハスキー……どうでもいいか。

「あ、そうだナルミ。忘れてたが、もう君は近衛隊にはいっているから、一回隊員に挨拶に行ってみたらどうだ」

 教科書から目を離さずゼノアは言う。忘れんなよ。

 しかし近衛隊ねぇ。嫌だけど、拒否権ないんだよな……。

 だって護衛でしょ? 命張ったり取ったり護ったりするんでしょ?

 やーよそんなの。もうちょっとヌクヌクできる所はないのか。

 ……と、口に出して言えず恨めしげにゼノアを睨む自分がいる。タレ目の睨みなんて屁でもないけどさぁ。

「……ハァ。そもそも近衛隊とはなんなのさ」

「近衛の仕事は王族の護衛兼専属の使用人で、いくつかの身の回りの世話をしながら王族を護る少数精鋭の部隊だ。現在エリザの近衛はナルミ含め7人いる」

 ……え? あれの世話もすんの? あの人の頭ガンガン打ちつける暴走型のじゃじゃ馬の?

 護衛よりそっちのが怖いんだけど。ヤバイ、さすがにこの世界に労組ってないよね。

 そう思いながらもしぶしぶ、ため息をつきながら上半身を起き上がらせる。

「ハァ。じゃあゼノア、その隊員のいるとこに案内してくれない?」

「ん? あぁ、ではいこうか」

「その必要はありません」

 途端、女性の声がする。

 声の方、即ち医務室の入り口を見てみると、そこには美少女と形容して差し支えがない160くらいの、茶色の髪と目をした女性がいた。もちろんただの女性ではなく、犬耳アーンドもふもふなしっぽ付きで。ちなみに髪型はサイドテールでメイド服っぽい何かを着ているため、非常に幼く見える。

 恐らく彼女が声の主なのだろう。しっかり真っ直ぐ、こちらを睨むように見つめている。

 そしてそこにはもう一人、爽やかという表現が似合う170くらいの青年がいた。やだイケメン。青髪で緑の目な優しそうなお兄さん、ただし舌先が二つに割れていてそれをさっきからチロチロ出したり引っ込めたりしてる。頬や首などに鱗のようなのも見える。

 ちなみにこっちは執事っぽい格好をしていてすこしかっこいい。

「時間が空いたので様子を見に来ました」

「そうか、手間が省けて助かったよ」

 女性が近づき、こちらを睨む。なんだ、この世界の人たちは基本的に眼力が強いのか?

「で、彼が噂の新人君? ホントに黒いんだね。地毛?」

 そしてそれに続くのが舌チロのお兄さん。非常に失礼だがどこか声や喋り方が胡散臭いように感じた。

「はじめまして、僕は第三王女の近衛隊で副隊長をやってるリムロ・スザルス。種族は蛇人族(ラミア)だよ。気軽にリムって呼んでね。よろしく」

 そう言いながら手を伸ばすリム副隊長。

 へぇ……ラミアって下半身蛇じゃないんだ。あと男性もいるんだ。

 と、ボーっとんなこと考えてる場合じゃない。副隊長って事は彼はいわば上司なのだ。疑問とか色々置いといてまずはそれなりの対応をしなくては。

「はじめまして、自分は長谷川鳴海と言います。種族……は人間です。よろしくお願いします」

 そう言いながら握手に応える。

 その感触は少しひんやりしたものだった。

 しかしよろしくとは言ったが、自分的にはできればよろしくしたくないんだがね。特に護衛とかそういう責任の重そうな部署にはね。

「それ地毛?」

「……まぁ、地毛です」

「だよね。さすがにまつげまで染める人はいないからねー」

 ははははは、と笑うリム副隊長。中々気さくでいい人そうだ。

 ただ、横の犬耳さんが横目で彼を睨んでいる辺りもしかしたら結構空気の読めないタイプの人かもわからん。

 しかしラミアか……そもそも種族なんてものがあるってのをはじめて知った。

 いや考えてみたらさっきのゼノアの話でもエルフやらリザードマンやらいろいろ出てき……あ、そういえば。

「ねぇねぇ、そういやゼノアって種族なんなの?」

「ん? ああ、言ってなかったか。俺は吸血鬼族(ヴァンパイア)だ。ほら、牙もあるだろう」

 そう言って口に指を突っ込み中身を見せる吸血鬼。いやそこまでサービスせんでも。

 しかしそうか、吸血鬼か。

 何かかっこいいと思ってしまった自分は中二病だね。

 まぁそれは置いといて、気を取り直して今度は犬耳の女性に目を向ける。

 ……そんな警戒せんでも。取って喰ったりはせんよ。

「よろしくお願いします」

 握手を求めて手を伸ばす。

「……私は人狼族(ワーウルフ)のミミリィ・スザルス。第三王女近衛隊隊長をしている。そして私は君を信用する事ができないし、近衛隊の一員と認めるつもりは今のところない」

 明確な拒絶。予想できたけど。

 と言うかこれ割と当然な反応だと思う。他があまりに自分をたやすく受け入れすぎてるんだよ。

 不審者が訳わかんない理由でしかも非常に危険な超兵器持ってました、なんて警戒しない方がおかしいんだって。

 ……で、自分としては拒絶された事より何より予想外な事実がここに判明しちゃったと思うんだが、どうなんだろう。

 この二人、苗字同じでね?

「ミミリィ、これは姫様のご命令だよ」

「……リム、敬語。私隊長なんだから。公私混合しない」

「はいはい。で、どうしましょうか、ミミリィ隊長」

「……あぅ」

 ……ミミリィ隊長、自分で敬語使えいっといて使われたらしょんぼりすんのはちょっとどうかと思う。もっと元気出せ尻尾。

 つかリム副隊長、そのニヤニヤはわかっててやってるな。

 そしてこの二人のこれはやっぱり――

「……お二人はご夫婦なんで――」

「違う! いや違うくないけど! 籍入れたから違くはないけど違う! そういうのじゃなくてもっと! 腐れ縁! 腐れ縁だから! 別にこいつに恋愛感情とかないから!!」

「そうそう。僕がミミリィ大好きだから頼み込んで籍入れてもらったの。ミミリィ大好きだから」

「そ、そう! そうよ! 仕方なく結婚してやってるの! 別にもっといい人もいたけどここで私が見捨てたらもうリムは一生相手がいないだろうと思って! 仕方なく! かわいそうだから!!」

「……ふ、あ、ありがとうミミリィ。そんなミミリィを愛してるよー」

 ……こう、会話だけ聞くとお砂糖直舐めしてるくらい甘い内容だが――おい、ミミリィ隊長。赤くなりながら尻尾ぶん回してるのはいいが後ろ見てみろ、後ろ。

 すっごい邪悪な大爆笑を堪えて今にも噴出しそうになってる旦那さんがいるぞ。

「……ち、ちなみにだけど」

「はい?」

「私達ってそんなに、その、すぐにわかるくらいお似合いのふ、夫婦に見えた?」

 誰もお似合いなんて言ってねぇよ。よほどメジャーなものでない限り苗字が同じだったら夫婦か兄妹かとだいたい予想はつくべ。

 この隊長だめかもしれない。

 そしてリム副隊長が音も出さずに大爆笑しているのが気になってしゃーない。器用なことを。

 この副隊長もだめかもしれない。

 上がこれで大丈夫なんだろうか近衛隊。

 ……創刊が得ると、うん、この二人お似合いだわ。

「そうですね、とってもお似合いですよ」

 ああ、動く動く。犬の尻尾はちぎれないのかな。

 あと今更だけど、彼女は狼らしいが犬との違いはなんじゃろな。

 そしてやっぱり満月になると完全獣化すんのかね?

 しかし困った、非常に面倒くさい事になったよこれは。

 現状でも困り果てて死にそうな状況なのに、よりにもよってこの二人が上司なんて。

 そして自分はふとゼノアを見る。助けて、自分をもっと楽な職場に連れてって。

 しかし思いは届かなかったようで、彼はやれやれと言った感じで肩を竦めたのみである。

 まるで『いつもの事だ』とでも言うか――

「……あ、それじゃあ俺はそろそろ仕事があるから戻る。後は頼んだぞミミリィ」

 てめぇぇぇぇ!!

「ちょ!? ゼノ――」

「え? あ、はい! お気をつけて!!」

 あぁ、行ってしまわれたあの野郎。

 お前なんかいたいけな少女の血を吸おうとして強制わいせつ罪で警察に捕まってしまえばいいんだ。

 ……あ、でもあいつ顔怖いって言ってもイケメンには文句なしに分類できるから、何か凄い画になるかも。

 というかあいつあの顔で魔王じゃないって、だったら本物どんな怖い顔してんだよ。

 ゼノアが『夜の王』とか『ノーライフキング』とか名乗ってても違和感ないが、もしも冴えないおっちゃんが魔王だったら色々困る。

「……ふぅ。まぁとりあえず、そんなことよりもですね」

「え? そ、そんなことってリ――」

「僕は自分の意見としては彼に入ってもらうのは賛成です。何でも強くて魔法でもない今までにない系統のスキルを持っててそこそこ教養のあるのか言葉遣いもまともとくれば、僕はいいと思いますよ。あのゼノア隊長が気に入った人材ってのもありますし」

「……そうだけど」

「強くて強力でそこまで教育を行う必要がなさそう。損は無いと思いますよ」

「……でも、素性がわからないし」

「人間で勇者、それだけで入れる価値はあると思いますよ?」

「……」

 ……おい、なにやらいつの間にか話が進んでいるんだがこれはどういうことだ?

 まずミミリィ隊長が『そんなことより』と言われた後くらいからひどく尻尾に元気がないんだが、どうした。

 そしてなんでリム副隊長自分をそんなに猛プッシュすんの? ミミリィ隊長の言う事の方が圧倒的に正しい気がするんだが。

 自分としても認められないまま裏方の安全な所に回される方が嬉しいんですが。

「……でも、結局実際つかえるかどうかわからないじゃない」

「それはみんな同じですよ。ま、最終的な判断は隊長にあります。でも最後に言わせて貰いますと、彼は非常に有能な人材だと思います。恐らく彼を倒せる者は非常に少なく、味方にいると大変頼もしい存在かと。下手をしたら僕達以上に」

 リム副隊長がそういうとミミリィ隊長が物凄い早さでしょんぼりしはじめた。

 そしてそれを見た副隊長は全力でニヤニヤしてる。

 ……たぶん、原因は敬語と――

「…うぅ、そ、そうね。実際に彼がどれだけ使えるかやってみないと分からないし、なにより姫様のご命令でゼノア隊長の推薦だからね。よし、じゃあ一回どんなものかやってみよう」

 リム副隊長の煽りですね。

 何でミミリィ隊長は自分の旦那が男を褒めただけでジェラシー感じてんのさ。

 ……ん? あ、そうか違うこれ八つ当たりだ。旦那にのろけを『そんな事』とばっさり斬られたことによる八つ当たりだ。

 いや、多分どうがんばっても自分を『試す』というイベントは発生したと思うが、この流れは色々アレだろうに。

「……絶対私が仕留めてリムに私を認めさせてやる」

 そしてミミリィ隊長、小声でも丸聞こえです。怖いです。物騒です。

 あとリム副隊長、いつか刺されますよ? つか刺されろ。

「よし、それじゃあまず姫様に許可を貰って近衛隊全員が集まれるようにするわよ」

 ……ん? 近衛隊全員?

「あとリム、場所の確保お願いね」

「その間の護衛はゾーン様に頼めば良いですか?」

「そうね、あとゼノア隊長にも頼んでおきましょう」

 ちょっと待て、なぜ近衛隊がお姫様を護衛しない?

 え、ちょっとなにこれ――


「久しぶりにやるわよ、一対全員の護衛訓練」


 ……え、なんかこれ予想以上の死亡フラグでね?



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