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72・柔こかった

「まったくもう……自分はそう言う趣味はないっていうのに」

 自分はぶつくさ言いながら、斧を引きずりアウラウネさんのもとへと近づいていく。

 いつのまにやら精霊ちゃんが足場を作ってくれてたおかげで乗るのはそう苦労しなさそうだ。

 そしてやがて自分が花弁に飛び乗ると、それは案外フワフワしていて、なんというか、凄く柔らかい草原というか、そんな感想を抱く触感だった。

『あら……がふっ、きて、くれたのね……』

 そんでそこにいたのは肩先と口からドクドクと体液をあふれさせるアウラウネさんでした。

 残った上肢はもはや力なくうなだれるだけで、その顔も笑ってはいるがなんというか、無理やり余裕ぶった笑顔を作ろうと努力して失敗したような、そんな表情をしている。正直身体を起き上がらせてるのもやっとこさ、という感じだ。

 ……はっきり言おう。見ていてつらい。

「……いや、うん。なんというか、ごめんね? めっちゃ痛そうというか、腕が……ごめんね?」

 そして女性一人をここまで瀕死たらしめる原因が自分であると思うと何とも後味が悪いというか、精神衛生に悪いというか、罪悪感が半端じゃない。心臓がキュウってなる。

『ふ、ふふふ……やっぱりアナタ、優しいのね。残念だわぁ……げふっ、あたしに少しでも、力が残っていればここ、で、ぜひ、一撃見舞ってあげたのに』

 あくまで不敵を演じながら、彼女は挑発的に言葉を紡ぐ。

 でもその姿がなんとも自分の罪悪感をチクチクと……うぅ。どうしてこうなったんだろう。

『でも、はぁ、まぁ、いいわ……根っこを断たれ、お日様を奪われ、あまつさえ精霊に力を吸われ続ける私に、今この場でアナタを何とかできる力はない……やるなら今よ、英雄さん』

 笑いながら、残った腕で己の首をトントンとチョップする。つまりはサッサと首を斬れと、

 やなこった。自分は利己主義なんでな、自分が誰かを手にかけるなんてごめんだ。一生罪悪感背負い込んだまま生きるつもりなんてかけらもない。

 言い方悪い上最低なこと言うが、知らんところで知らん人がどう死のうが正直『かわいそう』以上の感想はないが、自分少しでも関わったら心にクるから死んでほしくないんよ。

 特に自分はエセフェミニストだから、女の子が死ぬのは心が痛むから尚更だ。

 ……でもなぁ、とはいえ代案が思い浮かぶでもないしなぁ。

 本当なーんでこの人昏睡しなかったんだろう。そう言う耐性があるのかなぁ?

 と、思考を巡らせた所で彼女は自分が躊躇していると思ったのだろうか、冗談めかして声を上げるのだ。

『なぁに? もしかして、あたしを、助けようとか、まだ、考えてくれてるの? さっき言った、ように、ほんとうに、護って、くれるの?』

「いや、有体に言えば似たようなもんですかねぇ……どうすりゃいいんかなぁ」

 何の気なしに応えながら、自分はこの時『昏睡がダメなら麻痺はどうだろうか?』とか考えてた気がする。

 そうやって自分が頭を掻く姿を見ながら、アウラウネさんは戸惑ったような顔をするのであった。

『は? 本気? まだ、あたしを、たすけようなん、て。魔獣を、たすけるなんて、あなた、達の国、は、たいがい、頭、おかしいみたい、げふ、だけど、あなたは、ことさら、おか、しい、ぜひ、わよ……じょう、しき、もっかいまなび、なおしたら?』

 ……否定できない。

 この世界にとって自分は常識の欠如した変態だからね。なんも言い返せなくて悲しい。

「常識に囚われないと言って欲しい」

 しかし精一杯虚勢というか、いい方向に言葉を持ってこうとは努力するの。

 あとあれだ。美人さんの痛々しい姿は見ていてつらい。

「それにほら。かわゆい女の子は大切にしなきゃ」

 肩をすくめておどけて見せる。

 せめてその辛そうな表情が少しでも笑顔に変わってくれるとうれしいな。

 だってほら、この状況自分が作り出したんだぜ? しゃーない言うたらそれまでだが、心の中にいろいろ罪悪感とかそこらへんが、ねぇ。

『ケンカ、うってる、の? それ』

 なぜに?

 あ、いやふざけすぎたのかな?

「……ごめんなさい。そんなつもりはないです」

『何でも、いいけど……はぁ、あと数分も、すれば、ぜひ、おひさまが、出るのでしょう?』

 ……そうなんだよねぇ。時間がないんだもんね。

 まったく、本当どうすりゃいいんだか。

『ふふふ、別に、あたしはアナタを、恨みはしない。こころの、どこか、で、悪いことしてる、自覚はあるから、仕方ないとも思う。むしろ、アナタみたいな、いい男に、ゲフ、殺されるなら、ふふ、それも、良いかもしれないわね』

 言ってくれるじゃないの。

『だから、はやくしなさい。回復して、いつ気が変わるとも、知らないわよ』

 そう言わずにさ、アナタも頑張ってよ。気が変わると言えばほら、あんただってさっき名前呼ばれて人としての人格取り戻したくらいだ。ファンタジー世界なら頑張りゃ魔法と気合と根性で悪い人格を押し込めて主導権を3時間くらい奪い返すとか……人としての人格? 気が変わる?

 ……あ、自分気付いちゃったかもしれないでやんす。

『ふひひ……あなたとの戦い、なかなか、楽しかっ――』

「ねぇ、ひとつ質問なんだけど」

『……なぁに?』

 そんな空気読めない奴を見るような顔すんな。

「あなた、人格二つあるよね?」

 あの時自分がBB弾を当てたのって、人としての人格が出ていた時だったよね?

『んー? さぁ? あぁでも、たまぁになにか、変な記憶が出てくるのよね。あたしの中で誰かが、叫んでいるような感覚と一緒に。でも、それももうなくなっちゃった』

 ……やっぱりなぁ。

 つまり、自分が昏睡させたのはそっちであり、今まで戦っていたのは悪い方の人格だった、という仮説はどうだろう。それならBB弾が効かなかったのも説明がつくと思うんだ。

 とまぁ色々考えはしたけれども、何事も実地の検証が一番である。

 という訳で、自分は斧を放り投げ再びエアーガンを取り出して彼女へ……F12『24時間昏睡のBB弾』F12『24時間昏睡のBB弾』あと何個入ってる? ひ、ふ……あと四つ。

 うん。全部名前つけた。全部非殺傷属性もつけた。

 人間の強化具合やカッターの例もあるし、これ忘れたら大変なことになるかもしれない。あぶねぇあぶねぇ。

『なぁに? それ』

 アウラウネさんが不思議そうな顔をする。

 まぁ、見たことないだろうからしゃーないわな。

「人間の道具さ」

 気を取り直して銃口を向ける。

「さてさて、うまくいけばこれでおしまい。そんじゃまた後で」

『後でって――』

「はい。とっ、ぴん、ぱら、りの、ぷぅ」

 問答無用。

 彼女の言葉を最後まで聞かず、自分はリズムに合わせて引き金を絞り弾を撃つ。

 所詮縁日のおもちゃであるため、引き金は軽い。物理的にも精神的にも。思い出すなぁ、幼い時には何度も友達とサバゲーごっこをして撃ち込まれたものだ。

 パンパンパンパンッ! と乾いた4つの音が続けて響くとほぼ同時、アウラウネさんに弾が当たる音と、彼女の悲鳴が聞こえてくる。あとそれと一緒に命中した衝撃からか彼女の頭が激しく揺れる。

『アガッ!?』

 ふむ。悲鳴が一つしかないのは一撃で昏睡してしまったからだろうか? 最悪まだ複数人格ある可能性を考慮してたのだが、オーバーキルだったかな?

 そして調子乗って引き金を一回余計に引いてしまった。まったく問題があるかと言われたらないのだが、語呂が合わなかったというのは存外恥ずかしい。

 ……しかし凄い身体の跳ね方したな。なんというか、ごめんね? なんか、死人に鞭打つようなことして、ほんとごめん。後で美味しいもの食べさせてあげるから。

 と、反省するのはあとにしよう。今重要なのは試みが成功したかどうかだ。

 少なくとも胸が規則的に上下していることと、定期的に傷口から体液が流れてる状況から死んでは……これどっち道失血死でアウトじゃね?

 ……っと、そう。F12『止血滅菌のガムテープ』っと。これを彼女の傷口にあてがい、体液がこれ以上流れないように工夫する。よし、応急処置終わり。

 あと応急処置ついでにわかったことだが、本格的に彼女に意識はないようだ。卒倒した人特有の白目向いた凄い顔面してる……ごめん雰囲気だけで適当言った。目ぇ全部薄ピンクだもん。この距離でさえどれが白目なのかの境目もわからんのよ。

 まぁ口半開きで力なく首をぷらんぷらんさせとるし、なによりどさくさに紛れて腹やら背中やら胸やらを触ったが全く動く気配もなかったし気絶してるのは確実だと思う。

 ……あ、下心はないよ? 止血するのに必要だったからね。

 いやぁしかし……柔こかった。


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