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71・洒落にならないです


『うふふふふ……くっだらなぁい』

 アウラウネさんが笑う。実に悪役なセリフだ。嫌いじゃない。

『でも、絆、仲間、ね』

 そしてゆったりと彼女は点を仰ぎ、呟くのだ。

『そう言えばあたしにも一人、仲間がいたわ』

 そして天に向かって残った右腕を伸ばし、恍惚とした表情で……あ、こりゃ何かやらかす気だな。

『力を貸して。ねぇ? あたしのたいせつな、仲間が、太陽が、あはっ! お日様はぁ、いつでもあたしのぉ、味方なのぉ!』

 あぁ、そうか光合成か。全身葉緑素の塊みたいな色してるから、お日様がいたら光合成し放題だもんな。

 本当どう言う構造してんだろう。

 そんな疑問を頭の中で浮かべていると、自分を除くパーティメンバーが騒然とし始めた。

「な!? これは……魔力が回復している! くそ! 吸収が間に合わん!」

 王子様がそう叫ぶ。つまり逃げられるかもしれないという瀬戸際だ。

 他の三人も、それがわかっているのか臨戦態勢を取っている。

 さすが戦い慣れてる人は違う。自分は若干展開についていけなくて棒立ちだ。

 さて、そんな事をしている時である。

『あひゃ! あひゃひゃひゃひゃひゃ! もう遅いわよぉ! あたしはぁ! あなたたちを――』

「――琥珀の月よ、とこしえの星よ、我は暗黒、我は深淵、全てを喰らい、命を蕩かす夜である、淀んだ涙の雫をここに、陽の差す世界に安楽の闇を、暖かな微睡みで、光の滲む陽の闇で、全てを包み蝕もう、命を恵む陽光を、死の微睡みで喰らい去ろう。深淵の葬送歌『光喰の灯』」

 歌うようなかわいらしい声で、闇属性っぽいポエムが背後から響く。

 それが終わると同時にアウラウネさんの周りから黒い靄のようなモノが立ち込め、たちまちとそれは彼女を、いや、正しくは彼女の頭上の空を覆い隠していく。

『あ、あぁ……やだ、お日様が、消える……あたしの光が、太陽が』

 絶望に染まり、虚空へと手を伸ばす彼女の姿はもはやこれ、ここだけ抜き取るとどっちが悪役だかわからない姿だ。

 そしてそれをやらかしたのは君だね、シルバちゃん。思わず鳥肌立ったよ。なんかこう、薄ら寒い、いまだ完治しきってない病気の思い出を思い出して・

 そう思い自分が振り向くと、そこに彼女はアニスさんに支えられ青い顔をしながら立っていた。

 額には汗が浮かび、息も絶え絶えで……おいおいおい。

「ぜひ……はひ……せん、せい。光は、とめました。でも、今の私では、長くは、持たない、です。今のうちに、なんとか……」

 いや、いやいやいや。それはまぁそれだけどもねぇ。

「おいおいおい。せやかて止めたったって君、死にそうじゃん」

 思わず駆け寄り、アニスさんから彼女を奪う。

「は、はは……こんな、使い、道のわからない、魔術でも、役に立つこと、が、あるんですね。ちょっと、頑張っちゃいました」

 その顔はちょっとじゃすまないぞ。頑張りすぎだろうに。

「でも、それでも、あれは、あと五分と、持ちません」

 あ、結構持つじゃん。

「まったくほんにもう。己を大事にしぃ言うとるのに……」

「……あ、その、ごめん、なさい」

「ほんにもう」

 そう言いながら自分はフードを……あ、トマト汁。ウェットティッシュウェットティッシュ、っと。よっしゃ。

「ほれ。とりあえず少しだけ」

「あ、でも……」

「時間がないんだろう? はよ」

 遠慮がちに戸惑う彼女。しかし問答するだけ時間の無駄だというのはわかってるようで、控えめに自分の首筋へと噛みついた。

「……いただきます」

 そしてそのまま、彼女はいつもの通り血を吸うのだ。

 で、なに物欲しそうな顔面してこっち見取るんですかねアニスさん。

「なに? 君も吸いたいの?」

「……いや」

 からかったらぷいっとそっぽを向かれてしまった。

「……あれが、歌姫。歌姫シルバか。噂には聞いていたが、これほどの術式を展開するとは」

 で、なんかボソッと呟いてる。なんね、歌姫って。

 と、思ってる間にもシルバちゃんは首から口を放し、そのまま脱力したように地面へととと。

「大丈夫?」

 思わず引き寄せる。女の子は柔らかい。

「だい、じょうぶです。それより、時間が」

 あぁ、そうだったね。アウラウネさんが光合成を再び開始するまで大体五分。

 それまでに何とかせにゃならんのか。

「彼女、頼めるかい?」

「あぁ、任されよう」

 自分はシルバちゃんをアニスさんに預け、再びアウラウネさんの方を見る。彼女は脱力し、ピクリとも動かない。

 今は死んでるようにも見えるが、お日様が出たら復活するのだろう。実に厄介な。

 しかしするってーとどうするかだが、ここでいつの間にか開催されてたパーティーメンバーによる作戦会議を見てみよう。

「くそっ、ここまで来て! なにか、手はないのか!?」

 王子様が怒鳴る。

「彼女を活動停止にする方法がない以上、殺す他やむをえまい」

 対して冷静に返すゼノア。

 次の瞬間には王子様がゼノアの胸倉をつかみ、顔を近づけガンをつける。

「お前はどうしてそうやって他人を切り捨てられるんだ!?」

「俺には護らなければならないものがある。そのためなら俺は、悪魔にだってなってやろう」

「……くっ!」

 わーい。こいつら主人公してるー。

 しかも未だ対処法が定まっていないというか、恐らく選択肢を決める段階というか……はぁ。ゲーム脳ってやーねぇ。

「ハイハイ、ケンカしない」

 自分はそう言って二人の間に入り、引きはがす。

 まったく、ここでそんな事をしても意味はないでしょうに。さっさと選択肢を決めな――

「クソッ! ……わかったよゼノア。それしかもう、手はないんだな」

「あぁ。それに、それこそが彼女への救いにもなる」

 ……ん? なにごと?

「はぁ。ナルミ、お前が一番の功労者だ。とどめを刺せ」

 ドギツイこと言いよりますね王子様。

「なんで」

「兵の被害を抑えられたのも、あいつを倒すことができたのも、お前があそこで大立ち回りしてくれたからだ。お前が功を上げずにに誰が上げる」

 そんな投げやりな口調で言われたって嬉しくもなんともないわ。

 これってあれじゃないの? あの娘を救う方法を考えよう、みたいなイベントだったんじゃないの?

 なんで公開処刑イベント発生させようとしとるんこいつら。

「あまりもたもたしてると俺が首を取るぞ」

 ……洒落にならないですゼノアさん。特に顔面が。

「それにあなたにやられる方が、彼女も少しは報われるでしょう」

 遠い眼しないでムー君。

「そんな顔をするでない。こうなればさっきムーが言った通り、主が彼女にとどめを刺すのが一番彼女が救われる方法じゃ。これは、彼女の願いでもある。彼女の、先程のわずかに残った人としての人格が願った最後の願い。それをかなえてやることこそが、彼女にとっての救いなのじゃ」

 ドワーフっぽい爺さんが自分の背中を精一杯背伸びしながら叩いて……ん? いまなーんか心に引っかかったような気がする。

 なんだろう、と考えてるうちに、シルバちゃんを担ぎながらアニスさんがこちらに寄って来た。そして、今にも泣きそうな顔で自分に伝えるのだ。

「……やはり、彼女を救うのはかなわないようだな」

 いや、だからそれを今必死に考えてるんで――

「その、ハセガワナルミ。わたしが言うのもなんだが、その、彼女の為にも、あなたの手で、彼女、カノン様を……せめて、人として……ふぐっ、殺して、やってくれ」

 その言葉の後、彼女は涙をポロポロと流して……いやいやいや。

 そんな泣くくらいなら救う方法考えようぜ?

 なにか? もしやここで希望捨ててないの自分だけか? それでいいのか主人公共。

「グスッ……これ、あなたなら……使える、だろう?」

 いや、そんな物騒な斧手渡されても。

 ……わぁかったよ、行くよ行きますよ。だからみんな揃ってそんな目で見ないでくださいって。


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