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68・大きなカブ大作戦

「目を覚ましてくださいカノン様! あなたはそんな事をする人じゃあないはずだ!!」

 アニスさんの叫びがこだまする。それに対してシルバちゃんが正しく驚いたというような声で聞くのである。

「カノンって、あのカノン・ジャコランタですか?」

 なんか10月31日に庭先に吊るされてそうな名前だな。

 あれ? 前もこんなこと言ったような気がする。どこだっけ?

「あぁ、我が国が誇る最高の錬金術師で、優しく、美しい方だった。長らく行方不明になっていたのだが……それが、なぜ」

 ……あー、よくある展開。

 そしてカノン様、と呼ばれたアウラウネさんは邪悪な笑みを浮かべたまま、かわいく小首を傾げるのだ。

『だぁれ? それ』

 ……勘違いかよ。ずっこける所かな?

 と、思ったがどうやらそう簡単な話ではないらしく、アウラウネさんは表情を一変曇らせ、苦しそうな顔で頭を抱える。

『かのん? カノン、カノン……あたしは、知ってる? 誰? 頭が、痛い……あ、が、あぁ……』

 ……おいおいおい。もしやと思うがこれは、まさかよくあるあれか?

「これさ、シルバちゃん。本人の意思が封印されて化け物にされた云々ってやつと違う?」

 思ったことを素直に聞く。するとシルバちゃんは面倒がらずに答えてくれた。

「可能性としてはゼロじゃあないです」

 やっぱりなぁ。となると、どうすればいいか。

「……助けることはできないのか?」

 アニスさんが問いかける。自分もまさに同じこと考えていた。

「今彼女を開放するのは非常に難しいです。知性を持った魔獣を相手に、どれだけ被害をおさえられるかもわからない状態で、そこまでできる余裕があるか」

「でも方法はあるんだな?」

「魔獣を長時間拘束する方法さえあれば。ただ理性が残っているならまだしも、今回の場合は実質不可能です。私の魔力も枯渇寸前ですし……」

 シルバちゃんの回答の直後である。カノンさんがぐるりとこちらに顔を向け、救いを求めるように手を伸ばし悲しそうな顔を向けたのは。

『う、ぐぁ……お、ねが……い……あたし、を、ころ、し、て……』

 ……うわぁ。あ、でも、いや。このタイミングなら。

「動きを止められたらいいんよね?」

 気持ち急ぎめに、シルバちゃんに問いかける。すると彼女はハッとした表情の後、こう答えるのだ。

「え? あ、はい! 可能ですか!?」

「多分な」

 ようは抵抗できなくなりゃ良いのだろう? 適当に昏睡させればそれでいいのだ。

「アニスさん、少し手を離すよ」

「え? あ、ああ。何をする気だ?」

 彼女の問いはとりあえず無視し、えっと、なにかないか……あ、あった。

 ハンドガンタイプの空気銃。だいぶ昔に縁日で手に入れたやつだ。

 弾は……ある。よし、あとは。

 F12『昏睡のBB弾』とF12『絶対命中エアーガン』っと。一応『非殺傷』の属性もつけといて。あ、あと時間設定も必要かな? 変なタイミングで起きられても困るし、死ぬまで昏睡も目覚めが悪い。よし、訂正、F12『24時間昏睡のBB弾』っと。

 これで撃てば、彼女は倒れて動かなくなるはずだ。という訳で、いっきまーす。

 パンッ! と乾いた音がする。その直後アウラウネさんの首が大きく後ろにはね上がり、そのまま彼女の身体は倒れていった。

 ふふふん。これが訳わかんない自称神様の力だ。こんなのに頼らなければならない自分に嫌気がさ――

『痛いわねぇ。なぁに、今の』

 その言葉と同時に、アウラウネさんは額をさすりながら何事もなかったかのように起き上がる。

 ……え? なんで?

『まったく、今何考えてたか忘れちゃったじゃない。というかレディの顔に傷がついたらどうするのぉ』

 ……これは、認めよう。

「すまん、目論見が外れた」

「そう、ですか」

 そんな悲しそうな顔しないのシルバちゃん。ほら、アニスさんも泣きそうな顔せんと。

「しゃーない。他の手を探そう」

 自分はエアーガンをしまい、アニスさんの肩を再び支えながらそう独り言ちる。それと同時に、アウラウネさんは気を取り直したようにこちらに向き直るのだ。

『ま、いいわぁ。考えるだけ無駄』

 あっけらかんとした言葉の後、再び不敵な笑みを浮かべてこちらを見るのだ。

『あたしは監視者。あたしは民を監視する眼であり秘密を聞き出す耳であり処刑の為の斧である。それだけで今のあたしは十分よ』

 うふふふふと、上品に、しかしどこか狂気的な顔をする。

 それを見てアニスさんは悲しそうに、そして悔しそうに顔を伏せるのだ。

「……ちくしょう、ちくしょう……カノン様が、なんで」

 ……あ、泣いてる。こういう時女の子にどうすりゃ正解なんだろう?

「今は感傷に浸っている場合じゃありません。こうなったら彼女を殺すことを考えましょう。それが彼女の願いでもあり、生き残るために必要なんです」

 シルバちゃんがいつのまにやら開けた小瓶をのみながらそう答える。

「……しかしわからないわ。ダメージを受けた形跡すらないなんて、どういうこと?」

 瓶を捨てつつ、誰に向けてでもない、思わず口から出てしまったものだったのだろう。シルバちゃんがぼそりと小さくつぶやいた。

 しかしアウラウネさんは耳ざとく、彼女の言葉を捕らえるのだ。

『そうね。確かにあれを受けていたらぁ、あたしも危なかったわぁ……でぇも、これを見てごらんなさい』

 彼女がそう言って取り出す……いや、地面から蔦で引っこ抜くのは、一つの大きな枯れた花。人間の二倍はありそうなサイズのその花はしおしおに萎れ、辛うじて花だとわかる程度の形をしている。

『ざぁんねんながら、あなたが殺したのはあたしの子供。せぇっかくここまで育ったのに、ざぁんねん。また育てなおさなきゃ』

 そして彼女はそれを無造作に放り投げる。子供言う割には扱いがぞんざいですな。

『でも無駄じゃあないわよ? この子はここら辺一帯を見張ってた子なの。それが死んだってことはぁ、あなたたちを監視する『目』がなくなったってこと。ちなみにこの国で『目』となっている子は全部で3輪。あと2輪殺せばもう怯えることもないわね。で、このままじゃああなたたちを見失っちゃうからあたしが直々に出てきたの。素敵でしょ?』

 ……いや、なんで出てきたのかが意味わからないんだよ。

「自分らが気になるならわざわざ出向かなくても他のところのお花を引っ張って来ればいいじゃん」

 その言葉に、アウラウネさんはわざとらしく考えるように顎に指を当てる。

『うーん、そうでもないのよね。時間もかかるし、それにそうしたら会えないじゃない』

 なにに、という質問は愚問かな。

「そうか、おねーさんは自分に会いたかったのか。美人さんに興味を持たれるなんて、素敵だなぁ」

 うわ、自分でわかるが感情籠ってねぇ。というかひどい棒読み。

『あらあら、格好いい男性にそう言ってもらえるなんて、あたし濡れちゃうわ』

 だまらっしゃい。

 ……というかこれ、そろそろ答えを教えてほしいな。どストレートに聞くか。

「……で、何しに来たん?」

『あなたを観察しに』

 ……えーい。二人とも自分を見るな。

『魔獣を屠り、一騎当千の活躍を行う人間の戦士……我らが主はあなたの事がとぉっても気になっているの。脆弱な人風情とは違う、特別な存在であるあなたがもっと知りたい。だから彼はあなたを試すことにした』

 ……何とも身勝手な話で。

『私はその子をけしかけて――』

 そこまで言ってアウラウネさんはそっぽを向いた。心底嫌そうに、面倒くさそうに表情を歪めながら。

 どうした? 出てくるとき花弁に土入ってそれが今更不快感に繋がったか?

『外野がうるさいわねぇ……この子たちとでも遊んでなさい』

 彼女が指を鳴らすと、お姫様たちの方向に何本かの木が生えて……あ、動いてる。木がまるで細身の人のような形になり、自分らの陣営に襲い掛かっている。つまりそう言う魔物か。

 そして幾本もの蔦も生えてきており……さすがにこれは看過できんな。

 自分の影に名前を付けて、ついでに衝撃を反射する能力もつけといて、と。行ってこい『ドッペルさん』。これでお前は物理攻撃反射能力持ちの自立行動型の盾となった。お姫様の命令に従うんだぞ。あと、終わったら戻って来いよ。

 自分の影ことドッペルさんは、ぬるりと自分から切り離されて水が地面を滑るがごとくお姫様の方へと消えていった。

 大丈夫。収納についてはポケットの影にすでに名前をつけてるよって、再び怒こられることはないだろう。

『これでいいわ。それで私はその子をけしかけてあなたの実力を測ることにした。ふふふ、そうしたら予想通り、その子は何もできずに敗北した。そして、そうなったら私がその子を改造して、とぉっても強い魔獣に変える。そして戦わせてみようと思ったんだけども……』

「その目論見が外れたわけか。カノン様にしては、穴だらけな作戦だな」

 涙をぬぐい、キッとアウラウネさんを見つめるアニスさん。その顔は何かを決意した表情をしている。

『カノン、が誰かは知らないけど、そんなことはどうでもいいの。今のあたしの役目は『人間の観察』というもの。いまのあたしは人間の実力を推し量り、試す存在。あたしの蔦でさえ人間には効かない。それがわかっただけでも充分よ。でも、まぁもっと言えば――』

 アウラウネさんはそこまで言うと、いやらしく目を細めて自分をねっとりと……嫌だ。なんか怖い。

『もうちょっと、データが欲しいわね』

 その言葉と共にアウラウネさんの根元からぼこぼこと大量の蔦が生えてきた。

『だからちょぉっとけ遊んであげる』

 そしてそれらはすべて、一直線に自分の方向へ……うん?

 さぁ考えてみよう。今の自分は大変幸せな状況だ。

 左腕でアニスさんの肩を支え豊満ななんちゃらを堪能し、右腕でシルバちゃんを抱えるように支え柔らかなほにゃほにゃが腕に当たる。

 そんな自分に大量の触手……じゃない、蔦が飛んで来たらどうなるでしょうか。

 ……アウトじゃねぇか!

「きゃ!?」

「うわっ!?」

 自分が彼女たちを突き飛ばすのと、身体に蔦が巻き付くのとはほぼほぼ同時だった。

 なるほど、これがそう言うゲームの女の子の気持ちか。

『うふふふふふふ、か弱い女の子を護り、自らを犠牲にする。素晴らしいわぁ、まるでおとぎばなしに出てくるような、お姫様を護る騎士のようね。あたしもそんな風に護ってほしいわぁ』

 目を細め、邪悪でいやらしい笑顔を浮かべるアウラウネさん。褒める気ゼロだな。

「美人さんにそう言われるとは光栄だよ。ついで言えばこれが解けりゃあその望みをかなえてあげるのもやぶさかじゃないんだが」

 嫌味のつもりで適当なことを言う。伝わるかは知らん。

『まぁ素敵。じゃあこれが終わっても生きていたら、あたしを護ってくださいな』

「タダではやってやられんがな」

 そんなやり取りの間にもピシパシと巻き付く触手が増えていく。どないすんべこれ。

 ……一応、頑張れば動く。フィットネス用のゴムバンドをつけて動く感じで、抵抗はあれど拘束しきれてるわけではない。

「せ、先生! このっ!」

「ハセガワナルミ!」

 何かが背中や足に縋り付くような、つかみかかるような感覚を覚える。

「くっ! 先生を放せ!!」

「このっ! 離れろ!!」

 声からしてシルバちゃんとアニスさんだろうなぁ。彼女らは自分に絡まる蔦を必死に引きはがそうと、細い指を懸命に食い込ませてる。

 でも、そういうことするとだ。

『じゃぁま』

 アウラウネさんの声と同時に、今まさに自分を捕らえようと向かっていた蔦が二本、急激に方向を変えて飛んでいく。それは正しく自分の後ろに向かっていくものであり、狙いは恐らく二人の少女。

 そらきた。でもさすがにそれはダメさ。

 自分でも驚く反射神経を発揮した自分は、拘束などものともせずにその二本の蔦を両の手でつかみ取り、見事二人の少女を守ったのだ。

「うぁ!?」

「ひっ!?」

 突然のことに悲鳴を上げて離れる二人の少女。対して自分は平然と言うのである。

「問題ない。座って見てろや嬢ちゃん方」

 自画自賛する。今の自分はかっこいいと思う。

「し、しかし! 先生!」

 が、シルバちゃんは心配そうな声を上げ、

「状況分かってるのか!?」

 アニスさんも焦りを隠せない声で言う。

 気持ちはわかる。が、しょーじき勝手やられるよか大人しくしてくれた方がありがたい。

 ほんと、ゲームっていいシュミレーションツールよな。NPC生存がクリア条件なのに、何度勝手に死なれてやり直しになったことか。

「黙りんしゃい。か弱い女の子はこういう時は大人しく護られとりなさい。ウロウロされる方が面倒。考えはあるんだ、たまにはお兄さんに良いかっこさせてくださいな」

 言いながら軽く蔦を引っ張る。考えがあると言ったが、実は本当に考えがあったりする。

 自分の予想、蔦はあのアウラウネさんの物であると、すなわち繋がってると見ていいだろう。

 となればだ、この蔦を思いっきり引っ張ればアウラウネさんを地面から引っこ抜き収穫できるのではないか、というものである。

 名付けて『大きなカブ大作戦』である。割合雑ではあるがそこはご愛嬌。雑な部分は謎能力でカバーすればよいのである。

『……なるほどねぇ、まだ動けるの。じゃあこういうのは?』

 そんな雑な作戦を脳内で練ってるうちに、アウラウネさんはそう呟いて自分に巻き付く蔦の数を増やしていく。二倍三倍と増える蔦は……あ、やめて! 関節に巻き付くのはやめて! 挟まって物理的に曲げにくくなる。

 これは早めに動いた方がよさげだな。という事で自分は蔦の抵抗などものともせず、地面から生えている蔦をまとめて一気にグッと掴む。

 ふふん。このくらいの抵抗、ビリーのキャンプに比べりゃまだましだ。

「つーかまーえた」

 ちょっと調子乗った声が出てしまった。

『ちっ、バケモノ染みた怪力ね』

 アリアドネさんが苦々しく顔を歪める。ちょっとかわいい。

 しかし怪力言う程自分そんな力がある訳……人間補正か。

 しかし彼女は表情を一変、ニヤリと余裕のある笑顔を浮かべながら自分の顔を見るのである。

『……で、さっき考えはあるって言ってたけど、どうするの? 前の時みたいに雷を落とすの? それとも心の臓を貫くの? お好きなようにやってみて。私に効くとおもうのなら、ね』

 あ、そういやそんな事もやってたね。でも今回はそう言う暴力的なことはしないつもりです。

 どーせ兵隊さんたちのところはゼノアとかムー君とかがいるからさほど被害もないだろうし、自分はなるだけ生存者を残す所存なのですよ。

 ということで、今更ながら自分の最終目標はアウラウネさんの拘束ということです。

 なので地面から引っこ抜いて根っこ部分切り落とせば何とかなるだろう、という雑な考えから考案されたのが『大きなカブ大作戦』なのですよ。

 はい。ということで、引っこ抜きましょう。

「そう? じゃいくよ。いっせーのぉせっ!!」

 掛け声と共に自分は蔦を背負い投げのように引っ張った。同時にその動作に名前を付ける。もとい必殺技を作り出すのだ。

 F12『大きなカブ』。キレイに豪快に植物を引っこ抜く、そんなほかに使いどころのない必殺奥義である。

 するとどうだ、蔦はまるで抵抗なくスルリと自分に引っ張られ、鮮やかな緑色の汁を断面からまき散らしながら視界にうつる驚愕顔の二人のメイドさんへと容赦なく降り注ぎ……うん?

 自分に巻き付く蔦はしおしおと、命を吸い取られたかのように枯れてゆき、やがてはポロポロと崩れていった。

 ……うん?

「あなたは……」

 シルバちゃんが自分の後ろを見ながら呟いた。

 思わず振り返るとそこには……うん。

 そこには白銀の剣を携えた、煌びやかな紅色の鎧騎士の姿があった。

 それはいつぞやの紅色の騎士。自分とシルバちゃんとムー君で魔物を退治したときに出会ったはた迷惑な芋掘り騎士。

 ……なんでここにいるの?


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