65・おバカってやーねー
自分は衆人観衆の中、言われたとーりアニスさんに付いていく。
その道中、自分は色々大変だったよ。ゼノアに頼んで砦が知らないうちに襲われてないか連絡とってもらったりとかしてさ。結果おっさんも生きていたけどさ。
……あ、あとあれだ。自軍の兵士にムカついた。
なーにが『あのバケモノなら大丈夫だろ』だ。言いたいことはわかるがそう言うのは本人に絶対聞かれないところで言えよ。
しかも完全楽観ムードの、体のいい余興とでも言いたげな雰囲気。
のんきか。お前らはなんで今なんでここにいるか自覚持てよ。ピクニックで珍獣見つけたみたいな目してんじゃねぇよ。
正直ぶんなぐってやろうかと思いました。
……でもあれよ、そんな一部兵隊さんの姿を見てお姫様と王子様とゼノアの三人が凄い顔してたから、多分彼らには悲劇が待ってる。溜飲が下がる結果になることを期待しよう。
まぁなんにせよ、誤解を解くことができなかったのだ。戦う以外の選択肢が現在見当たらなくって非常に困っている。
しっかし本当なーんであんなおっきな斧振り回す人と戦わなきゃいけないのか。お前エルフだろう? ならそれっぽく弓とか剣とか使えよ。
というかそもそも自分は親の仇ではない。むしろ被害者だ。
「ここらでいいだろう」
彼女は立ち止まりこちらを振り向く。だからそういう憎しみ籠った目やめてもらいません? 精神衛生的によろしくない。
全く、せめて誤解は解きたいものだ。こっちも意味わからんのだから。
「……ほんと、始める前にしっかりお話し聞いてくれませんか?」
「お前と話すことなどない」
そう言って彼女、アニスさんはブンと斧を振り回し肩に担いだ。臨戦態勢ばっちりだね。
にべもない。
「ナルミ」
うん? あ、おいお姫様なにやっとーよ。危ないからこんなところまで付いてこんと、さっさとギャラリーに混ざんなさいて。
近衛他の皆様も付いてこないで止めなさいって。まったくもう。
……まぁ、お姫様まで遠巻きに観戦ムードの兵隊さん達と同じになったらへこむけどもね。
「あいつは先程魔獣を呼び出していた。気をつけろ、正々堂々と言いながら何をしてくるかわからん」
それだけ言うと彼女はそのまま自分から離れて――
「姫様については私たちがお護り致しますのでご安心を」
「最悪こっちに魔獣を飛ばされても打つ手は用意してある。僕たちは気にせず彼女たちを血祭にあげてといで」
あ、はい。隊長ご夫妻にそう言われると心強いなぁ。
たださすがに血祭はしない。断じて。
「あ、あとあそこのバカ共は気にしないでね。ちゃんと後で締めるから」
……あの、目が怖いですリム副隊長。薄ら寒いものを感じる。
「……ちっ、やっぱり余計なものは置いてくるべきだったのよ。あいつらの兵がいても足手まといなだけ。忌々しい」
ミミリィ隊長も狩る者の眼をしないで。
「そう言うな。事実無能の集まりだとしても、使いようはある。それにここら辺は政治的なモノが絡むのは、理解しているだろう?」
そしてゼノアもそういう不穏な事を言わないで。
それに、もー。いつまでもそんなグダグダしないで。
「ほら、もう話はわかったから。帰れ。散れー」
しっしとお姫様たちを追い返す。すると彼女らは自分に激励の言葉を残して去っていくのであった。
……なんか疲れた。
「ふん。人質だとか、そういうのを気にしているなら杞憂だ。わたしはお前と違う。お前の大事なお姫様を狙うなんてことは騎士として、人としてそんな卑怯なことはしない。わたしとお前、正々堂々戦うのみだ」
そんでなんでアナタの中で自分はそんな株がダダ下がりなんですかねぇ。自分君と会ったの今日で初めてよ? ねぇアニスさん。
あと、その発言は割とトンチンカンな気がする。
しかしついぞ彼女は自分の話なんて聞いてもくれず、自分を睨んだその瞳は――
「先生」
……後ろを見るとそこには心配そうな顔をするシルバちゃんが。なんね。お姫様と一緒に帰れよ。話しの腰を折るな。
「どしたシルバちゃん」
しかし優しい自分はそんな気持ちを露とも出さず、極めて優しい笑顔の仮面を被る。
内心は心底からデコピンして泣かせたい。帰れよ。
「これ……」
控えめに彼女が自分に渡そうとするのは一本のヘアピン。ついこの間自分が渡した防御能力のあるヘアピンである。普段は彼女の前髪に輝いていたものである。
で、その黒いヘアピンを彼女はおずおずと自分に差し出す。なんねこれ。
「あの、私も先生が傷つくところを見たくないので、その……せめて」
つまり心配だからこれつけろと? 優しい娘じゃないか。
……ほんとに自分フラグ立ってないん? これ、さすがに立ってる感が強いんですが。
「それに、その、先生に何かあったら、私も困りますし……」
俯きながら言う彼女の言葉にハッとする。
そうだ、自分がやられたら彼女はもう自分の血を吸えないんだ。そりゃあ食糧庫の心配もするわ。
……なんか腹立ってきた。
そんな訳で自分はそのヘアピンを取ってだね。
「なーにはんかくさいことば言うとるんねこのたくらんけ」
「ぷひゅっ?」
もう失礼だとか女の子だとかは気にしない。自分は彼女の頬をこう、右手の人差し指と親指で挟むようにして無理やり自分の方へ顔を向けさす。でもごめん身長差考えてなかったから首痛めたかもしれない。だとしたらお姫様に治してもらって。
「人の事心配しとらんとてめーの事心配しとりなさいよ、まったく」
そんで彼女の髪にヘアピンを刺して定位置に戻してやる。
「君になんかあったら悲しむ人がいるんだからねっと」
そんでそのまま……いや、こいつこの調子ならヘアピンをお姫様に渡したりしそうだな。
きっと『姫様がつけてくれた方が私が動きやすいですから』とかいって。で、本人はいつも通り体張ると。
……もう一本つけとこ。白い方のヘアピン。確かこれも同じ効果だったはず。
「ん。ということじゃ。ほら、帰れ」
二本のヘアピンを強制装備させ、彼女を回して背中を押す。ほり、お姫様たちの方いってらっしゃい。
……んー? 周りの視線? もうしらん。非常食との誤解はシルバちゃんがきっと解いてくれる。
自分はなーんもしりませーん。
つーこってほら、かーえーれー。
「あの、先生これは……」
しかしシルバちゃんは減らそうとしたはずのものが増えてかえってきたことからか、戸惑いそして立ち止まってこちらを見る。
もーいいから。仕事に戻れ。
今こそ護衛が必要な時だろ。このタイミングで職務放棄すんな。
「いーから帰れ。仕事があんだろ。帰れ帰れ」
しっしと虫を払うように追い払う。すると彼女は少し迷った後に、ペコリとお辞儀をして去っていった。
まったく、なんなんだか。
「別れは済んだか?」
怨嗟の声がする。何が君の琴線にふれたんだか。ねぇアニスさん。
というか別れって。
「……別にそんな、ねぇ?」
「そう言うのは大事だぞ? 特に今生の別れができないというのは残された者の心に大きな影を落とすものだ」
不敵な、しかし悲しそうな笑顔で彼女は言う。やっぱり殺す気ですかそうですか。
でも言わせて。残された云々はきっと己の事を鑑みて言ってるんだなと思うけど、まだ生きてるからね親父さん。
「まぁいい、それより早く始めよう。わたしはもう十二分に待ったのだ」
と、口を開こうとしたところで彼女がそう切り出した。怨嗟と悲しみ以外の感情が抜け落ちたような
そして、彼女は姿勢を低くし、今にも飛び掛からん姿で言うのである。
「我はエンダルシア帝国第一姫付近衛騎士隊副長、アニス・コーデァ。ここに決闘の開始を宣言する。さぁ、尋常に名を名乗れ」
……ねー。おバカってやーねー。
ねぇ、だれかこっそりウチの国の名前教えてくんない?
ホント、後生だからさぁ。




