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47・アクセサリ

 自分は 自分は意外と瞬発力があると思うときがある。今回がまさにそうだ。

 今自分は脱兎のごとくシルバちゃんを掴まえ、そのまま18禁コーナー、じゃない。仕切られた暗室へと転がるように駆け込んだ。そして彼女が叫ばぬように口を押え、暴れぬように後ろから拘束し、息をひそめて身を隠す。まさしく女子を襲う不審者の姿まんまやね。

 しかしそんな事には構ってられない。なんせ自分がここに隠れた直後に扉が開いた音がしたのだ。正直自分で言うのもなんだがなかなかにファインプレーだと思うよ。

 だってあいつは自分らを探しているという話だし、見つかったらろくでもない事になりそうでしょうがない。それは一緒にいたシルバちゃんもおんなじだ。

「……どうしたの勇者様」

 が、全く状況を知らないフィーさんは悠々と不思議な顔しながら近寄ってくる。

 やめてくれ、ばれる。

「喋るな」

 小さく、蚊の鳴くような声で命令する。が、彼女は小首を傾げ不思議そうな顔をするばかりである。

「なんかあったの?」

「いま、はいってきた、やつ、あぶない、いないふりして」

 彼女だけに聞こえるように、しかし彼女以外には聞こえないような声量でそう呟く。

 するとフィーさんは不思議そうな顔のまま少しだけこっちをじぃっと眺め、それから仕切りの向うへと視線を向け、再び自分らの方へと――おい、なんだその顔面。なんでそんないい笑顔しとるか。

「貸し一つ」

「は?」

 なにが?

「あいつに二人の存在がばれないように、もっと言えば追い払うようにする。別にやってもいいけどタダとはいかないわ。私とあなたには今、全く上下関係というものがないの。なのに言う事を聞くんだもの、それは対等に等価交換であるべきだわ。だから今は貸し一つとして助けてあげる」

 つまりはあとでなんかいう事聞けいう事かい。くっそ、足元見よってからに。

 そんなフィーさんの言葉に反応して自分の腕の中のシルバちゃんがもがき暴れだす。というか何かしゃべりたいのか口を押えている自分の手をのけようとしはじめる。

「こら、暴れんな。手離すから」

「ぷぁ、このっ――」

「叫ぶなら黙れ」

「んぐっ!?」

 ひどいとは思う。が、仕方がないよね。

「いいだろう、その条件を呑もう。ただし是が非でもあいつの気を全力で逸らせよ」

「んー! んんー!!」

 こら、暴れるなって。

「黙れ、齧るぞ。そう言う事でお願いしよう。君に借り一つだ」

「さっすが、勇者様は話が早い。じゃ、またね」

 フィーさんはそう言うとそそくさと暗室を後にした。まったく調子のいい奴め。話すたんびにキャラ変わってんぞ。

「むぐー……」

 そしてシルバちゃんは無念そうなうめきをあげる、と。

 しかし彼女が叫ばないように口を抑え、暴れないように後ろから抱きしめ、息を荒くして暗い部屋に潜む自分の姿は正直しょっ引かれても文句は言えないよね。

「……叫ばない?」

「むー」

 判別不能な声と共に手の中でコクリと顎が引かれる感覚を感じた。とりあえずその回答を信じて口をおさえる手だけは放そう。

「ぷぁ……先生、あれ、いいんですか? あの人どうせろくでもない事考えてますよ?」

 もうこの言葉だけでシルバちゃんの中のフィーさんの評価がわかった気がする。

「まぁ、だろうねぇ」

「ならなんで――」

「あれに見つかるのとフィーさんに頼むのとではどっちが被害の割合が大きいか天秤にかけてみ。見つかる方が面倒だから」

「……むぅ」

 理解はしたが納得はできない。そう言う顔に見受けられる。

「でも、あの人は――」

『うっひょお! やっぱりゲキマヴ!!』

『うっつくしぃ! ねぇちゃんこっち! こっち見て!!』

『ちょっとだけ! ちょっとだけ鍔迫り合わさせて!』

『刀身の中ほどから柄まで滑るように! ね、お願い!』

『大丈夫! 俺ら鈍らだから刃こぼれ起きない!』

『柔らか素材の優しい槍だぜ!』

『『……無視されてるぅ!!』』

 おい、あいつらやっぱり海にでも捨てた方がいいんじゃないか?

 ……まぁ、それを判断するのは自分じゃないから放っておこう。さて、となるとどうにも暇になってしまったわけだが――

「……ん?」

 ふと暗室の奥に目をやると、何かがきらりと目に留まった。それは暗室の闇においてなお淡く仄明るい光を放つ、一つの小さな髪飾り。銀色の金属とガラスのような宝石で作られた花の付いたそれは、なぜだか自分の心を掴んで離さなかった。

 ……多分ほかに発光物がないが故の興味だろうなぁ。入口付近以外なぁんも見えないもん。

「これは『星明りの髪飾り』といって、身を護ってくれる魔法具です。ただし、陽の出てるときには使えません」

 学習したねシルバちゃん。ちゃんとひそひそ声で話してえらいえらい。

「性能はいいのですがなにぶん制約がきついので、あまり使い勝手は良くないんですよね。そのおかげでお手ごろな値段で買えますが」

 頬に手を当て残念そうに言う。確かに日中使えないとかはちょっとね。でも、そうねぇ……。

 チラリと彼女の姿を見ると、髪飾りなんぞ毛ほども興味なさそうにニコニコしてる。

 ……本音言うとこの娘が突進し始めても無事でいられるような何かが欲しいと思っていたんだよね。そう考えるとこれは、ないよりましなんじゃないかなぁ。

「これ欲しい?」

「へ?」

 いやそんな驚いた顔せんでも。

「この髪飾り欲しい?」

「え? あ、え? いえ、特にはいらない、ですが……」

「さよか」

 まぁ、そうだよねぇ。自分もわかるよ。

 使用時間が決められた装備って、付け替えするの面倒だからいっつも性能が少し低くても常時効果のある装備を付けて冒険してたもん。画面の向うの話だけどさ。

 そんな訳でこの髪飾りさんは没という――

「……あの、ど、どうしてそんなこと聞くんですか?」

 え? あぁ、まぁいきなり言われたらそうなるわな。

「君、この前自傷しながら突っ込もうとしてたじゃん。見てて精神衛生的によろしくないから、せめて防御能力だけでも上げておこうと思ってね。どーせやめろ言うても突っ走るんでしょ?」

「あ……」

 ……ん? でもそれなら謎能力で適当に便利機能つけた何かを渡した方がいいのか。

 そうだね、その方自由に作れるし汎用性高そう。そうとすればどうしようかな、っと。

 そう思いながら何かないかとポケット、正確にはポケット内部の影に手を入れをごそごそする。すると色々なものが手に当たる。

 これは鉛筆、ハサミ、外付けHDD、綿棒、クリップ……目標なくポケットに手を突っ込むドラちゃんの気持ちがよくわかる。

 そうだな、相手は女の子だし目標はきれいな、アクセサリーになるもの。自分の部屋にそんなんあるか?

 と、思った矢先何やら柔らかいものが手に当たる。それは小さなチャック付きのビニール袋だ。中に何か入ってる。なんだこれ。

 取り出してみると……暗くてようけ見えん。これは、石? はて、いったいこれは……あ、いや、思い出した。ルビーみたいなガラス玉だ。

 直系5ミリと2ミリの二種類の、ラウンドカットされた赤いガラス玉が20個くらい入ってるあれだ。バカが自分の家でコスプレ衣装作り出したときに置いてったものだ。ちなみにサファイアっぽい色のもある。

 いやあ、懐かしいな。泊りでやって結局ろくろく完成できなかったんだっけ。おさんどん甲斐のないやつらめ。

 と、そうなるとだ。同じところに……あった。余った太いヘアピンみたいなパッチンってする奴。正式名称は知らん。赤と黒と白とが何本かある。

 そのヘアピンの先には先程の赤い……これ取れてる、これも、赤に赤いガラス玉ってあんた、まぁいい、そんでこれ、あ、割れてる、こっちはヒビが、これは、よし。黒いヘアピンの先に赤いガラス玉を一つくっつけたものと赤いヘアピンに赤いガラス玉、そして白いヘアピンに青いガラス玉を取り付けたものが各一本づつある。ほかはチャケてた。

 いやぁ、頑張って作った甲斐がありました。人生何がどう役立つかわからないね、人間万事塞翁が馬。もうプラスチックを千枚通しでセコセコ穴開けるなんてやりたかないけど。おかげで一本だめになったわ。なんで錐使わなかったのかね。

「……なら欲しいって言っとくんだった」

 そーんな思い出に耽っていると、シルバちゃんが何やらポツリ。なんね、ようけ聞こえんかった。

「え? なんか言った?」

「あ、いえ、その……何でもないです」

 そう? ならいいけど。

 とりあえずほれ。

「ん、シルバちゃん」

「はぁ……お兄様は私にアクセサリーなんてくれたことないのに先生は……」

 おい、気付け。ほっぺぺちぺち。ヘアピンでぺチぺチ。

「う? あ、な、なんですか?」

 頬を叩かれ驚いた顔をするような気がするシルバちゃんの目の前に、先程のヘアピンを三本見せつける。

「お好きなのどうぞ」

「え? これ……すみません、暗くてよく」

 あ、ですよね。ごめん。


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