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46・魔道具店


 魔道具店、というからにはもっとこう、ごちゃごちゃと訳わからんものが乱雑に積み上げられてるような、そういう所を想像してたんだけどもねぇ。薄暗く、埃っぽく、汚らしいもはやごみ屋敷と相違ないようなところに黒づくめの皺だらけババアが極彩色放つ薬品を大鍋で煮詰めている、的な。

 しかし現実はそうではなく、陽光が明るく照らすように設計された店の中にはきちんと整頓された剣やら杖やら服やらマント、果ては鎧から様々なアクセサリの類が並べられた、馴染みの言い方で言えば雑貨屋というのが一番しっくりくるいでたちだ。

 ……まぁ、店員さんのいかにもな魔女の格好した若い女性が変な薬をフラスコみたいなのに混ぜ合わせているとか、奥の方にあるスペースが、その、18禁コーナーみたいに仕切られてるとか、そう言うのはどうかと思うけどな。光に当てたくないものが並べられてるという話だが、なまじ仕切りにそれっぽい文字書かれてるからすごく卑猥。

 そしてそんなお店で売られるのは、当然魔法関係のよくわからない物であり――

『そういえばおい、そういや昨日マヴいねぇちゃんが店にきてよ』

『へぇ、どれくらいだ?』

『いや、あれはまさに絶世の美女というにふさわしい輝きだったぜ。黄金の柄、白銀の刀身、紅色の鞘。ありゃ相当の業物だったにちげぇねえ』

『白銀……な、長さはどうだ?』

『それがな……お前の刀身より長く、薄く、真っすぐだった』

『くっそ! 俺の趣味ど真ん中じゃねぇか! なんで俺はそんな日に鍛冶屋に送られていたんだ!』

『しかも使い手が着ていた鎧もなかなかの美鎧(びじん)でな、ありゃ相当なマジックアイテムだ。動きからもなかなかな手練れ……ありゃあいい女だ』

『あぁもう、最高じゃねぇか……くっそ、鍔迫り合いてぇ……』

 ……こう、あれだ。槍とサーベルが会話してるのを見ると、本当に魔法の道具屋さんに来たんだと、もっと言えばここがいうのがわかるね。なんでこんなものを人目に付く場所に飾っているのか。倉庫にでもぶち込んどきゃいいものを。

 しっかし刀剣の類とは言っても人格持ったら自分らと同じレベルまで落ちるもんなんだね。というか『鍔迫り合いてぇ』ってお前、なんでこんなよくわからない短文にここまで変態の要素を詰め込めるのか。素直に気持ち悪いわ。

 こういうのを呪いの武器って言うのかな?

『くそが……その(ひと)はもう来ねぇのか?』

 サーベルの柄と刃の境、鍔の真横に刻まれた丸い人の顔を模した彫刻が悔しそうにそう呟く。

『いや、むしろ今この店にいるぞ。どうやら使い手は彼女の鑑定を依頼するためにきていたようでな、まぁたぶん今日中には見れるだろう』

 対して槍の刃の真下、持つ部分の一番上に巻き付くように飾られた亡者のような彫刻が興奮したように返答する。

『つまり俺らはその美女と一つ屋根の下一晩過ごしたという事だ』

『おめぇそれ……それは、滾ってくるな』

『だろ?』

『おう』

『『ふへへへへへへ』』

 ダメだこいつら溶鉱炉にでも突っ込んで滅殺しないとだめだ。

 見た目もそこそこキモくて性格もこれって、救いようがないじゃねぇか。

 ……なんで自分魔法のお店に来てまでこんな訳わからんものをまじまじと見てるのか。もっとこう、そう、ここは魔法の装備を売る店なんだ。ならそういうアクセサリーとかを見ればいい。

 もしかしたら自分も装備できるようなものがあるかもしれない。そう思い自分はネックレスやブレスレットなどの装飾品や様々な宝石が置いてある場所に目をやると、そこには二人のメイドさんが真剣な顔で品定めをしていた。

「……『言霊のブレスレット』ね、改造できると思う?」

 フィーさんが青い宝石の付いたブレスレットを持ちながら言うと、シルバちゃんが中指ほどの長さの銀色の棒っこを片手にそれにこたえる。

「方向性によりますね。威力向上なら『魔素結晶』があれば、数は必要ですができますし、持続時間なら『夢幻の砂』が必要ですね。ただ、今回の要件を満たすには心もとないかと」

 RPGしてるねぇ。でも真剣な表情すぎて近づけない。

 ……やっぱり最初に「一人で見て回るわー」とか言わなきゃよかった。

「ふむ、個人的には欲しいところだけど……いや、なくてもいいわね」

「砂は特に貴重ですからね」

「というか考えてみたらこのレベルだと強化しても威力が低そうね」

 そう言いながらフィーさんはブレスレットを棚に戻し、今度はネックレスを手に取り眺めだす。

 シルバちゃんの方は棒を丁寧に近場において、紫の宝石がはめ込まれたペンダントを手に取った。

 ……後ろ姿だけならほほえましい女子のショッピングなんだろうけどなぁ。

 そう思ったと同時にシルバちゃんがふと横に顔を向ける。そして一瞬驚いたような表情をしたのちにその見つけたものへとトテトテ近づく。

 それは拳よりも若干小さいくらいのきれいな球。中は液状なのだろうか、まるで溶岩のように赤熱とした橙と、それが冷え固まったかのような深い黒が混じったものが渦巻いている。

「あら、『溶岩竜の宝珠』じゃないですか、珍しい。このサイズだと子供のですか」 

 あら、まんま溶岩だったのね。なるほど溶岩流の宝珠だから中でも流れを持ってうずまいてるんか。魔法とは奥が深いな。

「……そんなものこんなところにに置いておかないでよ。って、なに、買うの? 何に使うのそんな危ないもの」

 呆れるフィーさんの横でシルバちゃんは革手袋を履き、その宝珠とやらを慎重に手に取った。

 フィーさんの言葉とシルバちゃんの行動から、なかなかに危険なものだという事がよくわかる。どれくらい危険かは知らんが、まぁ溶岩が流れてるんだし相当危険なのだろう。自分にもわかる。

「グローブに使います。これがあれば炎属性の強力なグローブができるはずです。属性が乗るので当初より若干要件からはずれますが、こちらの方が強力なので。これを使えば魔獣にだってちょっとは効果があるはずです」

 シルバちゃんはその言葉と共に宝珠を先程の棒と同じ場所に持っていく。そこが購入エリアなのね。

 しっかし、やっぱり君らはファンタジーな、いかにもRPGな世界の住人なんだね。やることがまさにそれだ。

「それ、使うたびに使用者の腕ごとグローブも溶けるわよ?」

「火鼠の革があったはずなので、それで作ればなんとかなりますよ」

 ……それはそれでいいのだろうか? グローブってことは、手首より下は大惨事になるんじゃなかろうか。

「でも、そうですね。確かに危険ではありますし、どうせなら使う本人に聞いた方がいいですね」

 シルバちゃんはそう言いながらくるりとこちらを……ん?

「どうですか先生。溶岩竜のグローブ、使いますか?」

 待って。色々待ってシルバちゃん。

「え、何それ自分のなの?」

『うぇ!?』

『おぉう!?』

 自分の疑問の声に対して、後ろから驚いたような声がした。

 見るとそこには正しくびっくりしましたよというような顔した彫刻が二つ。サーベルと槍に飾られてる人面がこちらを見ながら口を開けてる。

『……お、おい。い、いまここにはさ、三人だけ、だよな?』

 槍に巻き付く亡者が恐る恐るとサーベルに問う。

『お、おう。さ、三人しかいねぇぞ。喋れる魔法具もねぇはずだ』

 対してキョドリながらサーベルの顔がこたえる。そして、少しの沈黙の後――

『ま、まさかそんな――』

『いや、いや、でもこれはまさか――』

『『ゆ、幽霊?』』

 おいファンタジー。

『ぎゃぁぁぁぁ! お化けぇ!』

『ちょ! 怖ぇ! 突けない存在とか怖ぇ! めっちゃ怖ぇ!』

 おいファンタジー。

 ……まぁ、いい。なんで目の前に立ってたのに気づかれていなかったのかとか、そういう疑問はこの際置いておこう。

「はい。やはり何かしらの武器になりえるものがあった方がいいと姫様も判断なさったようでして、それは私も同意見です。なので本日の買い物の目的の一つとして先生が使用できる魔法効果のある武器またはそれを作成できる素材の確保、があります」

 なーんでお姫様も君も自分をさらに強化したがるんでしょうね。

「いらない、というのは」

「何かあった時、できることが多いのはいい事ですよ。あと先生は実態を持たない、例えば魔素生物なんかに攻撃できますか? 彼らは魔力のあるものしか効かない存在ですよ?」

 まぁそんな厄介なものがいるのね。つまり何かしら魔力のあるものをば装備しろや、と。

 ……わかったよ。グローブ程度ならいいだろう。自分もそう言う厄介なのは対処できる方がいい。

「オーケー、自爆しない程度のものでお願いしよう。ただし、グローブのみだ」

「ふふふ、大丈夫ですよ。それに先生ならこの前私の魔法に耐えましたので、最悪の最悪はあり得ませんよ。このサイズならあれよりも威力は低いので」

 待って。

「そ、その想定はあまりしないでほしいな」

『や、やっぱなんかいる……』

『怖ぇ、なんなんだいったい……』

 ……無視だ、無視。

「でも最悪の想定は必要ですよ」

「まぁ、そうだけどもねぇ……」

「ちなみに、作る場合本当にこれでいいですか?」

 え? どういうこと?

「なんか他にデメリットでも?」

「いえ、ただ属性が火なので、水属性などの相手には大きく弱体化する可能性があります。一応宝珠の特性として水に対するある程度の耐性等はありますが、属性が偏っているという事は強みにもなりますが弱みにもなります」

 うわっ、ファンタジー。そしてそういう知識がないのプラス考えるのが面倒くさいからそこら辺は丸投げしとこう。

「生憎と自分はそう言う知識に明るくないからね、全面的に君に任せてもいいかい?」

「はい、わかりました。それでは、これで作成してもらいます」

 ま、なにかあっても自分に『耐火』の特性でも付けたらいいだろうしね。それにちゃんと燃えないもので作るらしいし、うん。本当手首より下はどうなるかわからんが。

「本当、魔力持たないって難儀よねぇ。武器もいろいろ考えなくちゃいけなくて」

 他人事のように言うがなフィーさん。いや実際他人事だが。

『魔力を持たないって……それ、生き物なのか?』

『ま、魔獣でさえ魔力はあるのに、まさか……』

『『ほんとに幽霊? ぎゃぁぁぁぁ!!』』

「うっさい」

『痛って!!』

 槍にデコピンを一撃。折れはしないだろう。

「……先生それ、相手するだけ無駄ですよ?」

「にぎやかし程度に思っていた方がいいわよ、そいつら」

 あーそう。そう言うのはもっと早く言ってほしかった。

『はいはーい! しつもーん! ここに誰かいるんですか!?』

 今にも手をあげそうな勢いでサーベルが叫ぶ。うるさい。

「そうですよ。店長と私とフィーさんと、そしてそこにいる私の先生の4人」

『その先生様の姿が見えないんだが』

 槍がデコピンされたところを労わるようにさすりながら、抗議するかのような声を上げる。対してそれに答えるのは変な笑いを零すフィーさんである。

「勇者様は魔力を隠すのがうまいですからね。知覚が魔力の場合全く見えないんじゃないですか?」

 ……サラリとそう言う設定は生やすのやめてくれません?

『おい待て、勇者様ってなんだおい』

「……あ」

 てめこらフィーさん、なにやっとーとよ。

「はぁ……伝承にある勇者様の姿に似ているからフィーさんが勝手に『勇者様』と呼んでるだけです」

 シルバちゃんがジットリとフィーさんを見つめながら適当なこと言ってフォローする。怖い。

「そ、そうそう。そういうこと」 

 そしてフィーさんの調子の良い事。

『ふぅん……じゃあ一応存在はしてるんだな』

『俺らには見えないけどな』

『……』

『……』

 沈黙。そして

『『こえぇぇぇ!』』

 絶叫。なんなんだこいつら。

「先生もあまりそれに構わない方がいいですよ。喋る以外何もできませんから」

「そうそう。うるさい売れ残りは構うだけ無駄よ」

 そんな二人の女性の声に、二振りの武器は抗議する。

『違う! 俺らは非売品だ! 決して売れなさ過ぎて値札を外された訳じゃない!』

『それに能力がない訳でもないんだぞ! 昔はこれでも死を呼ぶ魔剣と呼ばれていたんだ!』

 どうだ、凄いだろ。とでも言いたそうな槍とサーベル。

 いやドヤっとしてるがなお前ら、女性陣の目は冷たいぜ。

「ただの武器としての性能が並以下なら今はただのなまくらですよ」

「その死を呼ぶ力もないんだったら量産品の方が静かなだけましよ」

「あんたたちについては聞かれたら値段言って普通に売るわよ? 新しく値下げしたの作るのが面倒くさいだけで、なんなら新しく値札置く?」

 シルバちゃん、フィーさん、店員さんの順にとどめを刺していく。女の子三人にそんな視線を向けられるなんて、なんかかわいそうになってきた。

 人の都合で作られてその扱いは、あんまりじゃないか。

『ひどいや。世の使い手はなぜこうも俺らをいじめるんだ』

『もっと武器に優しくしてくれてもいいじゃないか』

『『だから俺らをなぐさめるために昨日預かった美剣(びじん)さんを少しの間こっちにおいてください』』

 自分の同情を返せ。

「……まぁ、とりあえずそういうことです。それらは暇だから喋ってるだけで店の看板とでも思っていてください。それでは私はまた商品を見ていますので、何かあればお声かけくださいね」

 シルバちゃんはそう言うと再び戸棚へ――

「あ、あなたたちあまり変なことを吹き込むと、持って帰るわよ?」

 ……持って帰ったあとどうになるのかが容易に想像つくね。行き先は溶鉱炉か強酸か、そこらへんだね。

 ほんと、そうやってたまーにゼノアの妹だとわかる顔やめてもらえる? こわい。

『肝に銘じます』

『顔しかないけど肝に銘じます』

 余裕だなお前ら。特に剣。

 しかし、喋る武器ねぇ。魔法の神秘だね。

 連れてきてもらった手前悪いが、正直こいつら以上に面白そうなものがないのよね、この店。鉱石とかアクセサリの類とか興味ないし、やっぱり魔術的感性が足らないのがいけないのかな。あとモノを見る目もないし。

「……で、お前らはホントなんなのさ」

『お、もしや勇者様俺らに興味津々?』

『そりゃあ俺ら伝説の武器の一つに数えられることもあるからな。見惚れるのも仕方がない』

 おいお前らさっきの怯えようはどこ行った。

『あ、ちなみに俺は『腐食の槍』ってんだ』

『俺は『蝕みの剣』だ。ま、俺もこいつも今は能力のないただのなまくらだがな』

 はっはっはと笑う二つの武器。元気だなぁ。

 しかし、素人目には普通の武器に見えるんだがな。

「ふぅん、なんで能力なくなったん?」

 自分のその質問に、やる気なーく槍の方がこたえてくれた。

『昔盗まれてなぁ。ほら、ここ見てみろよ』

 槍の、槍に掘られた亡者の彫刻はそう言いながら自身の腹と槍の間の隙間を指さした。

『俺はここにアーティファクトを抱えてたんだが、それだけ盗まれてな』

『ちなみに俺は裏側の俺の口にはめ込まれていたアーティファクトを盗まれた』

 ほら、こんな顔してるんだ。と剣の方の彫刻が大きく口を開けてまねて見せる。

 そして二人は、二人? は、笑いながら語るのだ。

『それからは割と平穏なもんだぜ? 使い手はあっさり俺に見切りをつけて売り払いやがってさ。あいつ、俺の腹に適当な宝石詰め込んで『これが腐食の槍だ。俺にはもう使う事もない』とか勝手に語りだして法外に高く売りだしてよ』

『な。俺のところも『持ち主は殺した。この剣が証拠だ』とかいってちゃっかり国に差し出して、自分で自分の懸賞金せしめてんだぜ』

『そんでばれて仲良く同じところでバラされて溶かされそうになってたところをここの先々代の店主に引き取られて、今に至る』

『全く、都市一つ壊滅させてた呪いの武器様が今や魔法具店の看板扱いよ。いや本当全く』

『『平和だなぁ』』

 ゲハゲハと笑う彼らの姿を、自分は何とも言えない気持ちになりながら眺めていた。

 人の都合で作り出されて、人の都合で扱われれ、ただ一つ価値がなくなっただけで捨てられて。なんだか、うん。どこか自分に重なる気がする。

 たまーにあるもん。自分の能力がなくなったら、とか自分が人間じゃなかったら、とか考えるの。まさに今みたいに。

「……価値がなくなりゃ勝手に捨てられ、辛くはないんかなぁ」

 そんな自分の気持ちがつい、本当に意図せずポロリとこぼれてしまった。

『え?』

『うん?』

 不思議そうにこちらを見る二つの彫刻。しかし直後、どこか悲観的な自分に反して彼らは実に明るく、朗らかに答えるのだ。

『いや辛いっていうか、盗まれる前より今の生活の方が満足だぜ。俺はもう殺す殺されるは勘弁だわ。使い手護るのに切れ味なんざは必要ねぇんだ』

『なー。そういう意味では盗まれてせいせいした。平和が一番。剣が言うなって話だが、命を奪う価値なんてクソくらえだ。盾になって砕けりゃ本望、それでいいんだ』

『お前は斬りたくてもなにも斬れないなまくらだがな』

『言うなって。だからこそお前と会えたんじゃねぇか物干し竿』

『『ふへへへへへへ』』

 ……なんか、悩んでるのがはんかくさくなってきた。

 自分もこれだけ前向きな性格になりたいも――

『ああ、そうだ。大事なこと忘れてた』

『あぁそうだ。俺らが力を失わなかったら――』

『『今日ここでこの後美剣をお目にかかることもできなかったしな』』

 ……本当、良い性格してるよ。言葉が重いんだか軽いんだか、全く。

 そんな事を考えながら目の前で繰り広げられる漫才を眺めていると、後ろから声をかけられた。

 あら居たのフィーさん。どったの、そんなにこやかな顔して。

「楽しい奴らでしょ」

「そうね……人生を全力で楽しんでるようで何よりだよ」

 もうちょっとおとなしく楽しんでくれてもいいとは思うんだがね。

 あとこいつらが謳歌してるのは『人生』と評していいのだろうか。少なくとも人ではないだろう。

「そう、彼らは今を生きている。互いに互いの価値を、親友としての価値を見出している。例え持ち主に捨てられようとも、そこにいる限り、人として価値はあるものよ。それは私も、勇者様も同じ。人としての価値は己で見つけ、決めるものなの」

 ……え、なにいきなり。なんでいきなり自分の悩みに突っ込んだような事言い出すの?

 まっさか、心が読めるとかないわよね?

「だからほら、勇者様も王子様の近衛という価値を――」

「いらんわ」

 ビビり損かよ。あと現状『お姫様の近衛』という立場にいる理由が『人間』って価値だけではないか、と疑心暗鬼になってる人にその提案はあまりにキラーパスです。

 ほら、シルバちゃんこの厄介なおねーさんをどうにか……シルバちゃん?

「人としての価値、ね……」

 え、何その何とも言えない顔と意味深なセリフ。ちょっと怖いんだが。

「シルバちゃ――」

 彼女のそんな様子を見て声をかけようとした、その時である。自分がそれを見たのは。

 それは、窓のむこう。シルバちゃんが立ってるそばの窓のむこうに見えた一つの影。まぶしいくらいに朝日を反射する、人の形をした見覚えのある姿。

 悠々と、真っすぐこちらに向かって歩いてくるひとつの人影。


 この前のあの、一緒に芋掘りした紅色の甲冑がこの店目指してやってきているのだ。



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