36・群衆
バジリスクとは。
なんか蛇みたいなトカゲみたいな、一睨みで生き物を石にするとも死に至らしめるともいう恐ろしい爬虫類である。魔法学校の下水道みたいなところに生息したりしている。
と、言った生き物だったはずである。うろ覚えだが。
で、なぜ自分がそんな危険で奇怪な生き物だと思われたんだろうか。その原因を追究したいものである。
……ま、しませんが。
うん、とりあえず自分もさすがに己の立場というものをある程度わきまえてはいるので余計なことを口にはしません。何よりもムー君及びシルバちゃんの放った一瞬のアイコンタクト、自分はしっかり受け取った。
と、いう訳で自分はもう誰が来ようと気にすることなく肉をもぐもぐしています。もぐもぐ。おいしい。
それにそもそも話の流れも即、次の内容にシフトしたからね。気にしない方がいい。
というか気にする方向はそんな事よりむしろ――
「そういえばこの前兄貴好みの女の子がいたんだけどな」
「ほう、どんな子だ詳しく話せ」
「あ、あたしがぶん殴って半殺しにした子?」
「あー、そっちに目覚めたあの子か。うん、私はもう会いたくないかな。女同士はねぇ。一応男が好きだし……」
「男? それだけ?」
「な、なによ文句あるの?」
「別にー。ねぇムー、ところで今晩暇?」
「ちょ! ヤメ――」
「あ、悪い。今日は用事があるのでな」
「……あ、そう」
「……むぅ」
「……兄貴はもう、いや、いいや。それより麒麟草のお姉さんたち、相変わらずきれいだねぇ」
「あらそう? ありがとう」
「ランドルフの御嬢さんもいいが、やはり麒麟草のお三方もお美しい。どうだい、今度だれか個人的に――」
「ご遠慮いたします。好みじゃないので」
「あ、はい」
「おねーさーん。ちゅーもーん。魚のあげたのー」
「はいはーい」
「こら、あんまりはしたない真似しないの。パーティー名に傷がつくわよ。ねぇお姉様」
「そうね。あんまり好ましくはないわね。……ところで私のナツマメパンどこにあるのか知らない?」
「あ、マメパンならあたしたべましたー」
「……ハァ。すいませーん、ナツマメパン注文お願いします」
「はーい、ちょっとまってねー」
この総勢9名という大所帯がレストランの一角を占拠しているということだ。この会話からもわかる通りもう誰が何喋ってんのか自分にゃわからん。カオスの極みじゃな。
一応店の隅っこに集まっているからまだましとはいえ、ここまでやんややんやと騒がれてたらいつ店側に怒られるかと気が気でないんだが。というか机三つも占拠してんだからそろそろ誰か怒ってもいいと思う。
あとついでにこの勢いに呑まれておかわりの注文ができない。というかこれだけの人の目があっては女の子にお金払わせるのは、ちょっとどころでなく恥ずかしい。そして金持ってないから自前注文できない。
ま、下手なことして悪目立ちするよりはい――
「まぁ、まぁまぁまぁ。どうしたのですかこんなに集まってめずらしい」
……ごめん、本当これ以上人増えるの勘弁して。ただでさえ居心地が超絶悪いんだからこれ以上はマジ勘弁。
「あら、麒麟草の皆様とランドルフの御嬢さんまで。うふふ、ごきげんよう。お久しぶりですわ」
とても女の子らしいおっとりとした甘い声が鼓膜を震わす。また女子だよ。この比率どうなってんのさ。きっと居心地悪いのは女子率が高いせいだ。
そんなことを思いながらチラリと横目で声の主を盗み見る。そこには……あーうん、いるよねこういうの。こういうピッチピチの体のラインくっきり見えるシスター服着たキャラ。しかもミニスカ。敬虔なのかそうでないのかわからん。で、その持ってる二冊の本は聖書か何かか? こっちの世界にもそういうのあるのね。
「あら? こちらの不思議な雰囲気のお方は?」
そしてこっちに話を振るな。
「……あー」
「俺たちの隊に新しく入った方だ。噂は聞いてるだろう?」
ムー君あとは任せた。
「まぁ、あのとてもお強く逞しいと噂の。確か『四肢落とし』のランドルフ様と共に賊を壊滅させその背骨を片手でねじり切って骨髄をすすり食らったりしたという」
待ってなにそれ。
「お会いできて光栄ですわ」
「……はぁ、どうも」
自分がそう受け答えると、そのシスターはスススと自分に近づいてきて――
「しかしあんた遅かったわね。いったい何やってたの」
「そうなんですよ! 聞いてくださいましティアスさん!!」
そのティアスと呼ばれた魔女っ娘の言葉に反応してそっちに行った。よかった、何か危険な香りがして超警戒してたからこっち来る前にどっかいって本当良かった。
……あ、今なら注目がこのシスターに行ってるからおかわりいける。
「シルバちゃ……なに立ってるの」
「い、いえ、別に……」
そう? 拳握りしめてたあたり何かあったんじゃないかと思ったが……まぁいいや。
「そ、それでどうかしましたか?」
「あ、いや。ステーキおかわ――」
「実はですね! 本日書店にてわたくしの聖書の新刊が置いてあったのですわ! もうわたくし胸が躍る気持ちでもう! 居ても立っても居られなく!」
おう、テンション高いなシスター。聖書ってそんな現在進行形で続いてくものなのか?
「それってあれ? あの恋愛小説?」
「いいえ! 違いますわ! 純愛文学ですわ!!」
「どっちでもいいわよ。色狂い邪神教徒の基準なんて知ったこっちゃないわよ」
……触らないどこ。政治と宗教と恋愛とあとスポーツの話題は触れたら破滅する。そう、そんな事よりステーキだ。それのが大事。
「……で、シルバちゃん。ステーキ……シルバちゃん?」
ということで今日のおサイ……シルバちゃんに再度おかわりを申請しようとするが、どうにも目の焦点があっていない。というか真っ赤っ赤で口パクパクさせて目を泳がせている。目の前で手をひらひらしても反応がない。どうした一体。
「いいえまったく違いますわ! この作家様の書かれる文学は淡くも一途で、それでいて――」
「興味ないわよ」
シスターさんの熱弁虚しく、魔女っ娘は心底からに興味のなさげな雰囲気だ。
「だからいっつも無下に振られるんですよ! 少しはこの作家様の作品を読んで大人の女性としての色気や振る舞いを学んだらどうですか! 胸がないからって色気がないわけではないんですよ!!」
ぷんすかという音が聞こえそうな怒り方。
対して魔女っ娘の方は今血管が切れる音が聞こえた気がする。
「あ? 喧嘩なら買うわよ表でなさい」
なるほど、大人の色気、つまりあれエロ本か。
確かにね、性は文化という言葉があったようななかったような……うん。ま、そういう訳でこのシルバちゃんの反応は箱入り娘には刺激が強すぎたということか。
「あ、お姉様赤くなってる! ウブなお姉様かわいい!!」
「あのいの本ってそんなに刺激強くないのにねー」
「……まぁ、うん、そう、だな。お姉様もああいうの読むのか」
「……え、あ、やあ」
そしていつの間にか、えっと、キリン象? だっけ? まぁキリンさんの三人組におもちゃにされてるシルバちゃん。
おいまて、これではおかわりが注文できないではないか。
と、いう自分の抗議の視線を感じてかキリンさんのうちの一人、魔女っ娘の方がこっちに向いて手を振ってきた。
「あ、お姉様のせんせ、やっほー」
「……おう」
「そうだ、自己しょーかいわすれてた。わたしアイン。錬金術師やってます。尊敬する人はお姉様。将来の目標はカノン・ジャコランタみたいな錬金術師になることです!」
そう言いながらキリンさんの錬金術師、アインちゃんは笑顔でシルバちゃんの頬をつつく。
容姿としては子供っぽい。さっきの……ツンデレの方の魔女っ娘が委員長タイプならこっちは妹系? みたいな感じ。髪は栗色で後ろに三つ編みをしている。あと服装は全体的に紫の多い魔女っ娘スタイル。灰色のとは意匠が違うが、まぁ、誤差みたいなもんだ。
あと特徴と言ったら……特にねぇな。いや帽子やらなんやらに隠れてるだけかもわからんけど。
あとそのカノンなんたらさんについては自分知らないのでそんな得意げな顔されてもですよ。10月31日に庭先に吊るされてそうな名前ですね、としか。
たぶんその人と関わることはないだろうし、いらない情報だろう。
「それなら私も―。罠師のシエルっていうのー。よろしくー。将来の夢は遊んで暮らすことー」
次に名乗りを上げたのは罠師のシエルさんという女性。盗賊ではなく罠師ね。まぁ盗人を職業にするのはいろいろあれだしね。役割は変わらんのだろう。
見た目としてはどこかのほほんとした、柔らかい感じの女性。髪は金髪で短めにそろえてある。ギャルゲで言うお姉さん枠かな。服装は……そのまんま盗賊。動きやすそうで最低限防御力は確保している、そんな装備。特徴は深緑色のマフラーくらいで正直コメントしずらいほどありきたりな装備で困る。しいて言えば暑そう。
あ、あと猫耳と尻尾ついてる。そしてシルバちゃんの髪の毛いじって遊んでる。
自分としてはそのいっそ清々しい将来の夢に好感が持てるね。
で、この流れで行くと――
「それでは私も――」
「この子は剣士のエミールっていうの」
「シエル、私の口上を取るなと何度言ったら――」
「エミールちゃんいっつも名乗り口上長いんだもん」
……はい、ということでエミールさんです。金髪ロングの騎士っぽい女性。これ以上の説明ができないエミールさんです。特徴としたら……あー、えー、うん。耳が長い。うん。
耳が長い。よくあるエルフな、そういう、うん。うん。
……うん。惜しい。そうか、実際に見るとこんな感想か。
……あ、ちなみに彼女だけはシルバちゃんをいじってないよ。いつでもどこでもおもちゃにされるシルバちゃんは大変だね。
「いい加減やめて」
「きゃ、痛いー!」
「やめてお姉様いたい!」
反逆のシルバちゃん、女子二人の手首を極める。仲のいいこって。
……しかしどう見ても三人中二人はシルバちゃんより年上に見えるのだが、彼女らの関係は何なのだろうか? なぜシルバちゃんがお姉様になるんだろうか。
まぁ、聞けばわかるか。ということで近場のエミールさんを捕まえてですね。
「……エミールさんエミールさん。皆さんとシルバちゃんって、いったいどういう関係なんですかね? お姉様言うには君らの方が年上に見えるんですが」
「私たち三人ともまだ14ですよ。お姉様の方が年上です」
……え? ちょっと待ってうちの姫様と同い年?
えっと、マジで? その発育で? あなたとシエルちゃん、え、その発育で? そんなボイン携えてまだ14なの? 嘘だ。うちの姫様の……ごめんなんでもない。
「関係については、結構長くなりますが、5年前くらいですかね。お姉様が辺境の遺跡を探索するのにたまたま居合わせたのがきっかけです」
「へぇ、そんなに長くから」
5年かぁ……あれ? シルバちゃん今いくつだっけ? 確か……15?
というかそしたら君ら9歳じゃん。なにやってんの。
「といっても当時まだ新米だった私たちがいくつかのギルドでの依頼をこなして調子に乗って難しい遺跡に侵入し、死にかけていたところをお姉様に助けられたという形ですが。そしてそのまま私たちはお姉様に同行して遺跡の奥まで進み、その攻略の鮮やかさに感銘を受け今でもお慕いしてお姉様と呼ばせていただいている感じですね」
おい10歳。
「……ちなみにどう鮮やかなの?」
「そうですね、私たちを救った時の状況で言えば魔物7体に囲まれている中一人でその身を盾に私たち三人を護りながら立ち向かったり、他で言えば、例えば毒性の霧で満たされた部屋に一人入って5秒で仕掛けを解除して戻ってくるとか、火の海になっている部屋の宝を罠を掻い潜りながら無傷で回収してくるとか。とにかく危険なことでも平然とやってのけて成功させるんですよ! 宝を護る霊獣をたった一人で打ち倒した様はまさに圧巻でした!!」
……おい10歳。
「まったく。そんなことしてたの」
「ええ。知りませんか? お姉様はその頃からたびたび様々な遺跡を一人で踏破するという事をやっておりまして、すべての古代遺跡を吸血鬼なのに単独で、しかも中には200年以上誰も攻略できなかった程の危険な遺跡も踏破するという偉業を成し遂げています。まぁお姉様自身は自ら語りたがりませんが、そ名はあまりに有名ですね」
なんというかまた危険なことを。火だるま特攻戦法といいこれといい、シルバちゃんは色々大丈夫か?
割と本気でいつか死ぬぞ? なにをそんな生き急いでいる?
……まぁ今そのことについて何か彼女に言うことはないけどね。笑顔で楽しそうに手首捻って説教しているシルバちゃんに水差したくないし。内容がいつの間にかパンを盗られたことについてというものにシフトしてはいるが。
しかし、5年の付き合いか……長いねぇ。こうやって普段はないシルバちゃんの姿を見ると、なんだかんだと彼女もまた心を許しているように見受けられる。
お姫様とは別の意味で、彼女らもシルバちゃんの大事な友達なのだろう。うらやましいね。
と、ほのぼの手首捻り教室を観察しているとエミールさんがふと、何かを思いついたように声を上げる。
「こちらも少しいいですか?」
「うん? なんですか?」
少しだけだゾ。
「いえ、あなたはどこ出身なのかと思いまして。喋り方だけで見れば北方の訛りが強いようですが、この際だから気になって。あと、旅をしていたという話を聞きましたが何か目的があったのかなと」
そういう彼女の目からは特に何か意図も腹積もりも感じられず、正しく純粋にただ思いついただけなのだろう。
……ふむ。自分はどこから、はいいとして、なんのために、か。
「……自分も聞きたい」
「……そうですか」
答えるのに若干のラグがあったせいか、はたまた何か感じたものがあったのかエミールさんはそれだけ言って引き下がり。そろそろ泣きそうになってる二人をお姉様から救出するためそちらに向かった。
「お姉様、そろそろ離してあげてください」
「でもこの二人、追加で注文したやつまで食べたのよ」
食べ物の恨みは恐ろしい。自分はシルバちゃんの行動を支持する。当然の制裁だね。
「お姉様なら許してくれるかなって怒らないかなって思ってー」
「そうそう。お姉様優しいし叱らないかなって。だからはなしてください」
「チッ。怒ると叱るは違うわよ。まったく」
そして四人は仲良く、睦まじくそれぞれの言葉でそれぞれの思いを感情のまま表情のままにさらけ出す。
怒り、多少暴力的なところはあれどそれは仲間内の許容範囲内。心許すからこそできることなのだろう。
それはつまりそれなり以上の絆がある証でもある。5年のうちに積み上げられた確かな絆だ。
そう思いながら、別の方向。ムー君たちの方向も見てみるとそちらもそちらで賑わってるようだ。
「だから男性は胸もそうですが太もも、脚にこそ興奮する方が多いんですのよ。ねぇムーさん。どうですか? 触ってみません?」
「んー、どうだろうな。いや、でもやはりそういうのは愛がないとだな」
「兄貴は理想論ばっかりだからいつまでもそんなんなんだよ。女は尻だ、尻」
「よかったなティアス。胸より愛だと」
「あんたたちちょくちょくケンカ売ってくるわね。そろそろ表出てもいいのよ?」
酒を飲み、いい感じに酔いながらなかなかきわどい話をする。素晴らしいではないか。
いじられたからと言って本気で怒る訳でもなく、また本心から相手の事を貶めるつもりもない。互いにからかいからかわれ、己の趣味趣向を吐露して笑いあう。
仲良きことはいい事かな。ああいう友達がいるという事はそれだけで価値のある事だ。ああいうのを見てると自分も少し懐かしくなる。
こう見えて自分も、気の置けない友達がいたものだよ。
俗に言う幼馴染というやつで、ついこの間なんかヒーコラ言いながらテストの勉強をして、終わったらどうしようかねー息抜きにカラオケでもいくべ、とか言い合ってたさ。
実に真面目なテスト勉強風景だ。間にちょくちょく麻雀やら大富豪やら狩りやら挟んでたが、それもあれよ風物詩よ。
ま、どっかの変な奴曰く自分の存在はなかったことになってるらしく、つまりはそういうゆかいな仲間達とのつながりもなくなったという訳で。
……全くもってはんかくさい。鵜呑みはよくないよ鵜呑みは。
自分の存在をなかったことに云々とか、よくよく考えてみなさいな。人をひとりを消すとはどれだけ社会的物理的矛盾が生じることか。例でいうなら生まれてから今まで親が支払ってきた自分の為の経済活動額考えてみろ。社会的に無視できる額じゃなくなってるはずだ。
銀行口座や、社会保険云々のデータ。抜けちゃいけないところに抜けが生じてしまうはずだ。いくら神様とてそうやすやすとその場でいきなり『ハイ消しますね』はできないだろう。
ま、次に考えられるのはあっちの世界じゃ死亡扱いになってる場合だが……そういう事例って探せばあるよね。
そしてだ。もう一つ、ここまで出鱈目な能力を持っていて、こんなに不思議な世界にいるんだ。いくらあいつが『帰れない』と一言言った所で信用できる訳がない。
魔法なりなんなり、可能性は無限大さ。だから自分はなんとしてもあっちの世界に戻る方法を探してやる。
さすがになーんの努力もせずにすんなり諦めるほど安い人生じゃぁなかったんでね。
でもそのためにもそこまで行くにも、自分はこの世界で生きていかなければならないわけで。
ま、そこそこ仲の良いお付き合いができる仲間を作るのも悪くはないね。
決して深い付き合いはしたくないけど。
ほら、別れって辛いじゃん。自分の飼い犬の松五郎が死んだとき超泣いたもん。あれは精神衛生的に非常によくない。あと夏休みでじいちゃんの家に行ってた時に育てた鶏の梅沢を〆させられてたときとか。
……いや、松五郎に比べたら言うほど梅沢は感動薄いな。やっぱり最初から食べる目的で育てさせられてることがわかってたからかな? 正直肉としてしか見てなかった。
ま、こういう情操教育は食と命の大切さと自然の摂理と家畜の捌き方を学ぶという点で、非常にいいものだと思うのだがね。
……何の話だっけ?
そうそう、仲のいい彼ら彼女らを見て頑張ってお家への帰り方を探して帰ろうね。あとそうなると、仲良くなりすぎた時別れが辛いから深入りはせんどこ、と心に決めた場面だね。
……でも、なんだかんだ仲間たちは皆自分の事を必要としてくれているのかな。出会って日はまだ浅いけど、それでも頼りにされ仲間と認めてくれている。と思う。
そう考えるとやっぱりちょっとだけ、さみしいな。
とか自分が感傷に浸ってるとだね。いつのまーにかシルバちゃんが横にやってきてこんなことを言うのですよ。
「……そういえば先生、さっきムーたちが話してましたけど」
「うん?」
「先生って女性のどこか特定の部位に興奮したりするんですか?」
「……うん?」
ね、まさか彼女に聞かれるのは予想してなかったの。理解がおっつかなかった。
「それ、わたくしも気になりますわ!!」
うん、シスターが発狂するのは予想できてたかな。
「どこですか? さぁお師匠様!? 胸? うなじ? 太もも? おしり? 変わり種で言えば鎖骨なんて人も案外多いですわよ」
「ち、ちなみに私は先生の首筋好きですよ!!」
「……いや、うん。えと」
なんというかあれだ。もう、あれだ。
とりあえず自分は必死になってごまかしたよ。うん、うん。
……うん。
「そ、そうね……あー、み、え、と、に、二次元かな?」
空気がおかしくなったね。理解できないって感じに。
もういくら性癖隠したいからって、これはどうかと自分でも思った。
あと、遅まきながら突っ込ませて。
シルバちゃんのそれはどちらかというと、焼肉でいったらタン塩が好きです、というのと同じだと思う。




